ドリーム小説













 宵闇 拾捌







「そういえば、。」

「・・・なんですか。」

「この間、小平太がお前のことを下の名前で呼んでいるのを聞いたぞ。」

「ああ。そのことですか・・・」

「何かあったのか?」

「いえ、別に、何というほどでも・・・。」
「七松先輩がを体育委員会に連れ出したうえに、怪我させたんです。」
「喜八郎!」
「・・・怪我?」

「・・・はい。」
「ちなみにまだ完治には至ってません。」

「そうか。」

仙蔵は何か思案した後、にこり、美しく笑って言った。

「では私もと呼ぼう。」

「え”?」

「何だ、不服か?」

「いえ、そういうわけでは・・・」

「ならよかろう。。」
そう言うと仙蔵は再びに化粧を施すのを再開した。




「さて出来た・・・ふむ。これはなかなか・・・」

出来たといって顔を至近距離で見てくる仙蔵に少々居心地の悪さを感じる
だがそれ以上に自分の顔がどうなったのか気になっていて。

「・・・、普通にそうすれば綺麗なのにね。」

喜八郎のほうを向けば微かに目を見開いていて。
(それも一瞬でいつもの顔に戻ったが。)
そのように言われた。

「元が悪くはないからな。・・・否、私の腕前がいいからか?」

もともと綺麗なその顔にさらにプラス要素となる満面の笑みを浮かべて仙蔵はそう口にする。

「・・・貶されてんのか、褒められてんのか・・・。」

鏡を喜八郎からひょいと渡されて、覗き込めば知らない自分。

「・・・・・・・どちらさんだ?」

思わずぽろりと零れた本音に横にいた仙蔵がくすくすと肩を震わせる。
それに視線をやりむっときたが、再び鏡を見ればやはり知らない自分。

「だいじょうぶ。それちゃんとだから。」

喜八郎にフォローになりきらない言葉をもらい思わず苦笑する。
そしてこのように平凡な顔がこんなにも綺麗になった。
そのことに仙蔵への尊敬の念が湧き上がる。

「・・・立花先輩。」

「ん?なんだ。」

「・・・よろしければやり方を教えていただけますか?」

鏡から目線を外さないまま言えばくすりと再び笑い声が聞こえた後、了承の返事が返ってきた。









ぱたぱた



仙蔵から了承の返事が返ってきたそのとき。
外から聞こえた誰かが走ってくる音。
1年生の其れとも違う音に。
。どこにいくの?」

そんなを止めたのはまさかの喜八郎。

「喜八郎、俺は「逃げないで。」・・・」

言い切る前に、喜八郎に遮られる。
「喜八郎、離せ。」

それでも言葉を発すれば先程よりも強く着物を掴まれて。
掴まれたまま、動くことも出来ず。
そうしているうちに無常にも、足音は近づく。

立ち上がりかけた女装姿(美女。)の

その着物のすそを掴みを見上げる喜八郎。

それら二人を面白そうに見ている仙蔵。



なんとも不思議な構図が出来た。


「すみません、雅です。」

ころころ鈴のような声。
その声が聞こえると同時には脱力するように座り込んだ。
観念したのだろう。
喜八郎を睨むのは忘れなかったが。

「雅、はいってこい。」

一部始終を見終えた後仙蔵はそう襖の向こうの彼女に告げた。


「失礼します。仙ちゃん?あ、あやちゃんもいる!」
襖が開き彼女が入ってくるのを、は俯いて感じとっていた。
「こんにちは。雅。」
「どうしたんだ?」
彼女を呼び捨てで呼ぶ同級生と先程よりも幾分か優しい声を出す先輩に胸がちりりとやける。

「ええと、実は食堂のおばちゃんに、第三協栄丸さんのところにお使いを頼まれたんだけど、よければ一緒に行ってくれないかなあ・・・?」

「かまわないが、私でいいのか?」

「仙ちゃんがいいの。」

きっぱりと返されたそれに喜八郎と仙蔵の驚く気配がした。

(勝手に行きゃいいじゃないか・・・。)
そんなことをは思う。

「・・・いつもは1年は組とか一緒に行くのに、どうしていきなり?」
それに不満そうに声を出したのは喜八郎。

「実は、あの子達学園にいなくて・・・」
それに苦笑まじりで返すは雅。

「ああ、また自主的校外自習か・・・」

「そうみたいでね___」


突然止まった会話を不思議に思いふ、と不思議に思いが微かに顔を上げた。。

と、

「っ、」

ばっちりと、目が合った。

すぐさま目線を外したとは違い雅は目をぱちくりと瞬かせ、そして叫んだ。


「わあ!!あなたすごく綺麗!!学園にあなたみたいな女の方がいらっしゃったなんて!」

感極まって、との言葉がよく合いそうな勢いで彼女は叫んだ。

(・・・かんっぜんに女に見られてる・・・)

「いえ、雅、これは_」

「いや、喜八郎。私が言おう。」
口を開いた喜八郎を遮り仙蔵が話す。

「雅、こいつはこれでも忍たまだ。」

「え・・・ええ?!男の方?!うそでしょ?え、だって・・・」

「今は女装の実習練習をしてたんだ」


驚きの声で困惑を示す雅に仙蔵が微笑んだ。


それはもう誰もが見とれるように甘く甘く。


「っ、・・・わあ・・・すごいんだねえ、忍者って・・・」
その仙蔵の笑みに雅自身も顔を赤くした後、微かにどもってそう言った。

「いえ、これは立花仙蔵先輩の技がすごいんです。」

すぐさま喜八郎の訂正が入ったが。

「ええと、私あなたが誰かわからないんだけど・・・名前を教えていただけますか?」
の前に座り込み申し訳なさそうに告げる雅。


         いらり


       胸の奥が疼く。

    彼女があまりにも綺麗なせいだ。

は返事を返すことはおろか、顔を上げることもせず。


    彼女が綺麗過ぎるのがいけないのだ。



       この世界にいるべきではない彼女は



          あまりにも、穢れを知らなさ過ぎる彼女は

 

ひとつ溜息が聞こえる。

「いいかげんに___」

聞こえた仙蔵のを呼ぼうとする声。
俯いていたはそっと顔を伏せ気味に持ち上げ、そうして傷の目立つ人差し指を仙蔵の口元についとあてた。

「っ__どうした?」

仙蔵は突然の行動に驚き息を詰めたが、そこはさすがとも言うべきかすぐに持ち直しに問うた。




「・・・せんぞうさま」

ゆっくり仙蔵を見上げた顔は化粧のおかげで血色がよく、またちりばめられた色がを引き立てる。

口を開いたその声は今まで出したこともないような、砂糖菓子のように甘ったるい声。

「っ、」

先程の正気はどこに行ったのか、再び仙蔵は微かな動揺を見せる。

そのすがたにはふわり、とても綺麗に、今のその姿を最大限に生かせる方法で微笑んだ。


そうして次いで喜八郎をこちらもたっぷりと笑みを含ませ見ると、最後に雅に向き直った。



「わたくしの名前が知りたいのでしたら、是非本当の姿の私を見つけてくださいな?」



ことり、首を傾げて。
雅に告げる。
その姿に同姓であるはずの雅も見とれて。


「私を見つけてみてくださいな?誰にも頼らず、あなただけのお力で。」



まるでその声は極上の音楽。
甘く優しく、朗々と耳に馴染む。


「せんぞうさま、きはちろうさま、私のことは誰にもお話になりませんようにお願いします。」

そういわれれば仙蔵は「ああ、」と一度だけ返事して。
喜八郎も微かにこくりと頷いて。
其れを見届けて再び音を出す。


「これで失礼いたしますね?せんぞうさま、きはちろうさま。・・・みやび、さま」

誰も動けずにいる空間にだけが立ち上がる。

最後にもう一つ笑みを落としてはその場を後にした。





  思わず動いてしまったんだ。

   彼女に名を知られることを恐れて。

    彼女が俺を認識することを怖がって。












※※※
はつ、雅さんの名前呼んだ気が・・・。
接触。
いろんな感情が混ざって、主人公パニック。
最後はいろいろふっきってみた(え?)
この話書きたかったんだ。
だけど若干書き直すかもですよ〜。






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