ドリーム小説










  宵闇  拾玖

         side 雅




いつもと同じ日だったその日は、一瞬で非日常に変化した。

朝目が覚めて大きく伸びをしてさあ、ベッドから降りようと足を地面に付けた瞬間。

       一瞬のまばゆい光。

それに思わず目を閉じた後、すぐさま浮遊感に襲われた。

「っ!?」

それに驚き微かに目を開ければそこはさっきとは全然違うところで、様々な色を見にまとったたくさんの人たちがいた。

みんな大きく目を見開いて驚いている。

でも、それ以上に私が一番驚いていて。

私は部屋にいたはずなのに、どうして外にいるの?
どうしてここにいる子達はみんな可笑しなかっこしてるの?

ぐるぐる解らない問題が頭の中で繰り返される。

そうしているうちにも私は落下していて。

地面に追突するかと思った私の体。
ヤバイと思ったときにはもう遅くて。
思い切り目をぎゅうと閉じて体を丸めた。


ふわり


でも
其れは思っていた衝撃とは全く違って。

柔らかくて暖かい

それは体全体を包んでいて。

そっと目を開ければそこは深緑色。

ぱちくりと目を瞬かせた後ゆっくりと顔を上に上げた。

「おい、大丈夫、か?」

顔が一気に赤くなるのが解った。
至近距離過ぎる!
しかもすごくかっこいい顔!

「う、あぁ、え・・・。」

言葉にならない声を発せば彼は少し考え込むように顔をしかめたあと。
「・・・伊作!」

と人の名前だと思われしものを呼んだ。



医務室というところで診察を受けて、学園長先生の所へと話をしにいくことになった。

どこから来たのか、
何故いきなり空から?
様々な質問の中から私が私なりに導き出した答えは、


「私は異世界の人間です。」


だった。

そんな突拍子のないことを言ったのにも関わらずみんな優しく受け入れてくれた。

確かに始めはみんなに疑われたけれども、私の様子を見て絶対にくの一ではないと判断したらしい。
若干複雑だけれども。

そしてもう一つはみんなして私がおちてくるのを見ていたから。
光の中から突如現れたのを見ていたから。
だから信じてくれたとのこと。

そうして行く場所がなければここで働いて欲しいといわれた。
それは居場所をくれたということ。
私を認めてくれたということ。

嬉しくて嬉しくて涙が零れたのは大目に見て欲しい。



その日から私はこの忍術学園で暮らすことになった。

この場所はみんな優しくて、暖かい。

食堂のおばちゃんに様々なこの世界での暮らし方を教えてもらったり、
委員会活動を見学させてもらったり、
は組の子達と一緒に町へ連れて行ってもらったり。

いろんなことを許してくれて教えてくれた。

みんな嫌な顔もせずに私と話してくれたし、触れ合ってくれた。

誰もが皆とても暖かい心の持ち主。
忍者に向いてるとはとてもいえないんじゃないかと思えるくらい。



でも、それでも・・・



夜、ふとしたときに思い出す。

元の世界のこと。

家族のこと

友人のこと

夜、皆が寝静まった頃。
廊下に出て腰掛けて月を見ていた。


「かえり、たい」


ぽつり思わずもれた其れ。
涙が決壊したかのように溢れてくる。

「か、えり、たい・・・。」

零れだしたものはもう元には戻ってくれなくて


 かえりたい
  
     かえりたい

    あの場所に。

 私をよく知る皆のところに。

   たくさんの物で溢れかえるあの世界に。

一度降下した気持ちはどんどんぬかるみにはまっていく。


かさり

不意に聞こえた音。
それにびっくりして思わず顔を上げた。

暗闇から現れたその人は私が見たことない人。
そして前髪で目元が隠れているせいか、俯いているせいか、全く表情を読むことが出来なかった。

「ご、ごめんなさい、うるさかった、ですよね?」

泣いているところを見られた恥ずかしさと照れで思わず顔が緩んだ。
「えと、始めまして、だよね?君とは、私は___「帰れるわけ、ない。」

「・・・え?」

とりあえず自己紹介、そう思って口を開けばすぐさま別の声に遮られて。
それは目の前の人の声。
思わず、間の抜けた声が漏れる。
作った笑いが固まる。

俯いていた顔が微かに上がる。
前髪から微かに覗いた顔。

その強い瞳に

冷たい眼差しに

背中がぞくりと震えた。

「君は帰れはしない。もとの世界には。」

「なん、で?」

あっさりと言われたその言葉。
それがあまりにも確信を持ったものだから聞き返してしまった。
その顔を凝視してもその顔は無表情。

でも逆にそれが真実味を増していて。

顔が、歪む。

「じゃあ聞こうか。何で君は帰れると思ってる?」

「っ、」

淡々とした声。
答えではなく帰ってきたのは質問。
それは私自身答えがでなかったもの。

私はあの世界に帰れるのか。

ゆらり

その人の登場によって止まっていった涙が再び溢れる。

「確かに、帰れないなんて根拠はないかもしれない。でも、帰れる根拠はもっと、ない。」

ああ確かにそのとおり。
この世界から帰れる保証はどこにもない。

ぽとり

涙が零れる。
私の弱さや醜さが、凝縮された其れが。

「だから、さっさとこの世界で生きていく覚悟を決めなよ。」

「・・っ、・」

「じゃあね。」

それだけ言って去っていく背中。

酷い、私はこんな知らない世界に放り出されて、どうすることもできないのに。

頭のなかの大部分はあの人に対する怒りで熱い。

でも

あの人の言うことも最もなのかもしれない。
この世界で生きていく覚悟を決めないと、私は生きることができない。
そんなふうにあの人の言葉にどこか納得してしまった自分もいて。


___ねえ、その言葉は私を絶望のふちに追い込もうとしたものですか?

___それとも、この世界で生きていく覚悟を決めろという、助言ですか?





次の日、泣きつかれて腫れぼったい目を持ち、昨日のことを考えながら歩いていた。
そうすれば突然世界は暗くなり、体は浮遊感に襲われた。

デジャブ

落ちていく感覚が、あの時とそっくりで、帰れる、と胸が一度高鳴った。

でも、終わりはすぐに来て。
広がるのは痛み。

目を開ければそこは茶色い場所。

見上げれば青い空。

どうしようもない喪失感。

「・・・やっぱり、帰ることは出来ない、のね・・・。」

口に出してみれば案外簡単にそれを受け入れることが出来た。

無意識に笑みがこぼれた。
ならば此処で生きて見せましょう。

そう思えば何故か力がわいてきて。

へむへむちゃんの鐘の音が聞こえてきて、がやがやとした休み時間の空気が広がる。
これならば此処を誰か通るかと声を出す。

「すみませ〜ん!誰かいらっしゃいませんか??」

ひょこり、すぐさま誰かが覗き込んできた。
逆光のせいで顔は見えない。
助けてくれるのだと思って待つがその人は動かなくて。

「・・・え、と・・・」

思わず声を上げればそのひとが今思い出したようにこちらを見て手を出してきた。

ぐい、と思っていてよりも強い力で引っ張り上げられ私はようやっとそこから出ることに成功した
助けてくれた彼はとても綺麗で儚げで、それでいてその力はあんなに強くて。
なんだか私も頑張らなくちゃという気持ちになれた。

「ありがとう」

この学園に来てはじめて心からの笑みが出せた気がした。





食堂でおばちゃんのお手伝いをしていてひと段落ついた頃。
くの一という少女たちに話しかけられた。
彼女たちはとても綺麗で可愛くて、強かった。

「雅さん、ちょっといいかなあ?」
「はい?何でしょうか?」
「よろしければ少し一緒にしゃべりません?」
「前からお話してみたかったの!」
「でも、いつも忍たまの子たちがいるから近づけなくて・・・。」
「わっ、本当ですか?私もお話してみたかったんです!」

優しい雰囲気に、暖かな気持ちに私は何度も笑った。

なのに___

くの一教室の女の子たちに呼ばれて一緒に行った校舎裏。

そこで何故か私はみんなに囲まれていた。

「雅さん、本当にこの世界じゃないところから来たの??」

彼女らの目に映るのは疑惑、不信、

「私たちは忍たまみたく優しくないのよ。」

明らかなまでの敵意。

怖いと思った。
この世界に来て改めて。

この世界のことが。

「私、はっ___」

彼女たちから発せられる何か得体の知れないものに足がすくんで、体が震える。
喉がからからに渇いて、声が出ない。

どうしよう

どうしよう

こ、わ、い

「雅っ!」

その声に助けられたと思った。
その人にとてつもない安堵を感じた。

「留、くん・・・」

留くんがきてからの彼女たちの行動は素早かった。

だって彼が此処に来るまでにはその姿は消えていたから。

「何もされなかったか?大丈夫か?」

彼は私の体をぱたぱたと甲斐甲斐しく調べてほっと息を吐いた。
その姿は過保護なおにいちゃんみたいで。
思わず笑みがこぼれた。

「・・・雅、何で笑ってんだ?」

「ふふ、さあ、なんでかしらね?」

「・・・まあいい。長次が探してる」

優しい彼がどうしようもなく愛しいと思った。






用事がなくなったからぶらぶらと建物の探検をしていたら、いつかのように穴に落ちた。
それをまたひょこりと現れたあやちゃんが助けてくれて。
そのまま4年の長屋へと招待された。
そこにいたのはいつもの4年のメンバーたち。
個性豊かでにぎやか。
そんな彼らはとても可愛い。

「「雅さんっ!」」

私を見た瞬間走りよって来る二人組み。
みきちゃんとたきちゃんは競うようにして近づいてくる。
そのまま手を引っ張られてすとんと廊下に腰を下ろす。

「雅さん、髪きれいだねえ〜」

そこに先に座っていたタカ丸くんが私の髪に触れてそう口にする。
その指先がくすぐったくて、その触れる手が優しくてくすくすと笑う。

「そんなことないです!私からしたらタカ丸さんのほうがどんなに綺麗か!」

「そんなこといってもらえたら嬉しいなあ〜。よかったら今度髪の毛結わしてよ?」
     
「わわ!本当ですか?私なんかの髪でよかったらいつでもどうぞ!」

髪結い師であるタカ丸くんの腕は確かだと聞いたのでとても楽しみです。

「雅」

「はい?どうしたんですか?あやちゃん」

返事をすればぎゅうと抱きつかれて。

それにみきちゃんとたきちゃんが何かを叫んで。
    
そうしてまた何か二人で言い合いをする。

「雅さん!私のほうがっ「いえ、私ですよね!」三木っ!」

「ふふ、二人ともかっこいいと思うよ?」

その姿は微笑ましい。

「雅ちゃん」
「雅」
「「雅さん」」

「「「「大好き(です)(だよ〜)」」」」

それに私も同じように返す。

「私も皆が大好きよ!」













※※※
雅さんストーリー
・・・難産だった。
うまくかけない・・・。
ちなみにはじめは留さんです。
雅さん、このときはまだ平等に皆が大好きです。
・・・また機会があれば他の6年生徒かとの出会いを書きたい。
もういっちょ、雅さんさいどです。







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