ドリーム小説
宵闇 弐拾
雅side
___帰れるわけ、ない___
そういったその人の冷たい目が、悲しげな顔が、未だに忘れられない。
食堂のおばちゃんに頼まれたお使い。
いつもならば1年生の子達と一緒に行くのだが、生憎彼らは校外実習とのこと。
4年生か5年生か・・・6年生の誰かに頼もうかなあ?
留君は昨日明日は忙しいって言ってたし、いさっくんは明日は新野先生が出張だから保健室からでられないって言ってた。
こへくんは・・・出来たら遠慮したい、かな?もんじくんは、・・・それよりもおとなしく寝てあの隈を直して欲しいし。
ちょうじくんは確か今日図書委員が大掃除するって言ってたしなあ・・・。
仙ちゃん、いるかなあ?
「すみません、雅です。」
「雅、はいってこい。」
襖の前から声を掛ければ優しい返事。
「失礼します。仙ちゃん?あ、あやちゃんもいる!」
それに答えてはいれば、なかには仙ちゃんだけじゃなくてあやちゃんもいた。
あともう一人俯いていて顔はよくわからないけど女性の着物を見にまとった人。
「こんにちは。雅。」
「どうしたんだ?」
あやちゃんと仙ちゃんがそう聞いてきた。
「ええと、実は食堂のおばちゃんに、第三協栄丸さんのところにお使いを頼まれたんだけど、よければ一緒に行ってくれないかなあ・・・?」
「かまわないが、私でいいのか?」
用件を話せばそんなことを聞かれて。
「仙ちゃんがいいの。」
きっぱりと返されたそれにあやちゃんと仙ちゃんが呆気にとられた顔をした。
・・・なんで?
「・・・いつもは1年は組とか一緒に行くのに、どうしていきなり?」
どことなく不満そうに声を出したのはあやちゃん。
「実は、あの子達学園にいなくて・・・」
それに苦笑まじりで返せば納得したような顔。
「ああ、また自主的校外自習か・・・」
「そうみたいでね___」
ふ、と視線をあやちゃんから仙ちゃんに移せば視界にもう一人が目に入って。
そういえば、この人は誰なのかなあ?
じっとみてれば頭によぎった何か。
・・・あれ?私、この人・・・?
と、
「っ、」
ばっちりと、目が合った。
すぐさま目線を外した彼女。
でも私はすごくびっくりした。
だって、彼女がとてつもなく綺麗なんだもの!
「わあ!!あなたすごく綺麗!!学園にあなたみたいな女の方がいらっしゃったなんて!」
感極まって思わず叫んでしまった。
こんな人、こんなに綺麗な人見たことない!
くの一のこたちも確かに可愛いし、綺麗だったけど、この子はそれ以上に違う何かを感じる。
「いえ、雅、これは_」
「いや、喜八郎。私が言おう。」
何か話そうとしたあやちゃんを遮って、仙ちゃんが言った。
「雅、こいつはこれでも忍たまだ。」
・・・え?
「え・・・ええ?!男の方?!うそでしょ?え、だって・・・」
一瞬思考が止まった。
其れくらい驚いた。
「今は女装の実習練習をしてたんだ」
驚きの声で困惑を示す私に仙ちゃんが微笑んだ。
それはもう誰もが見とれるように甘く甘く。
女の私にも適わないほどの綺麗な笑み。
女の子はいちころだ。
かく言う私も女なわけで。
「っ、・・・わあ・・・すごいんだねえ、忍者って・・・」
明らかに今顔が赤い。
それをごまかすように言葉をつむげば横からあやちゃんの声。
「いえ、これは立花仙蔵先輩の技がすごいんです。」
そうなんだ、とむしろ今は仙ちゃんの美しさの秘密を教えて欲しいと思ってたなんて秘密だ。
「ええと、私あなたが誰かわからないんだけど・・・名前を教えていただけますか?」
そっと、その人の名前を知りたくて尋ねる。
が、返事はない。
「・・・・・」
そっと仙ちゃんを見れば
溜息がひとつ。
「いいかげんに___」
声を出した仙ちゃんの口に白い指が添えられる。
その指はところどころ傷があって、ああ確かに忍たまなんだと思えた。
俯いていたその人はそっと顔を伏せ気味に持ち上げ、そうして仙ちゃんに向ってその緩やかに笑みを浮かべる口を開いた。
「っ__どうした?」
仙ちゃんは一度どもったあと、いつもにもどった。
「・・・せんぞうさま」
その声は、甘い。
先程の仙ちゃんの笑みにも匹敵するであろう。
砂糖菓子のように甘ったるい声。
「っ、」
先程の正気はどこに行ったのか、仙ちゃんが動揺する。
でも、私も普通ではいられなくて。
___この人は何て悲しげに笑うのだろうか。
その人はふわり、とても綺麗に、今のその姿を最大限に生かせる方法で微笑んだ。
それはこちらに向けられているわけではないのに、顔が赤くなる。
そうして次いでその人はあやちゃんをこちらもたっぷりと笑みを含ませ見ると、最後にゆっくりと私を見た。
ふんわり
本当の女の子のように。
むしろ、この人は本当に男ですか?
と聞きたくなるほど。
「わたくしの名前が知りたいのでしたら、是非本当の姿の私を見つけてくださいな?」
ことり、首を傾げて。
挑戦的な目。
柔らかく甘いのにどことなく棘がある言葉。
口元は勝気に上げられて。
それなのに雰囲気はでこまでも悲しい。
「私を見つけてみてくださいな?誰にも頼らず、あなただけのお力で。」
まるでその声は極上の音楽。
甘く優しく、朗々と耳に馴染む。
「せんぞうさま、きはちろうさま、私のことは誰にもお話になりませんようにお願いします。」
「ああ、」
仙ちゃんのその言葉を最後にその人は動き出した。
「これで失礼いたしますね?せんぞうさま、きはちろうさま。・・・みやび、さま」
最後にとって着けたように言われた私の名前。
でも、何でかすごく嬉しかった。
最後にもう一つ笑みを落としてその人はその場を後にした。
ほう、とその人が去った部屋に溜息が落ちる。
私のだが。
「・・・あいつにあんな能力があったとは。」
「いつもとは違いましたね。私も始めて見ました。」
仙ちゃんとあやちゃんの言葉をどこか遠くで聞いていた。
『 私 を 見 つ け て 』
それはその人の本当の願いのように聞こえた。
ならば見つけてあげましょう。
あなたのことを。
絶対に。
少しだけ、あの瞳があの人とかぶったなんて、きっと気のせい
※※※
雅さんsideでした。
実はずっとのこと探してたりします
みつけられないけど。
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