ドリーム小説
宵闇 弐拾弐
「あ!先輩だぁ〜!」
声をかけられたのは放課後。
今日は学級委員会は無い。
さて、それでは裏山で自主錬でもしようかと用語倉庫の側を通ったとき。
掛けられた声はまだ幼さを残すものであった。
「・・・山村、に福富、か?」
そちらをみればぱたぱたと走りながら近づいてくる水色が二つ。
庄左ヱ門と一緒のクラスの子達だと思い出し名前を呼ぶ。
「そうですよ〜。僕は山村喜三太です〜。」
「福富しんべヱです!」
にこにこと満面の笑みでそう告げる二人。
かわいい。
ふ、とこちらの顔が緩むくらいに。
「どうしたんだ二人とも。」
声を掛けて駆け寄ってくるくらいだったから何か用があるのかと思い尋ねれば、特にようは無かったらしく、見つけたから走ってきたと言われた。
「そうか。」
はて、この満面の笑みを浮かべて足元から動こうとしない二人をどうしようかと考えていれば、新しい声が聞こえてきた。
「喜三太!しんべヱ!お前ら、何さぼってんだ!食満先輩が探してたぞ!」
「「あ、富松せんぱぁい!」」
「・・・?」
向こうから走ってきたのは黄緑色の制服を着た少年。
色で言えば3年生なのだろう。
その顔には怒りが浮かんでいたがしんべヱたちは気にしていないようだ。
「あ。」
の姿を見つけたからかその少年は目の前で立ち止まり首を傾げた。
おそらく誰だったかと思い出そうとしているのだろう。
その姿は年相応でかわいい。
「学級委員長委員会4年い組のだ。」
こちらから名を名乗れば慌てたように少年も頭を下げて自己紹介をする。
「用具委員会3年ろ組の富松作兵衛です。」
「・・・ああ。三之助をよく探しているのは君か。」
思い出したのは三之助、それから会計委員会ににいるもう一人の方向音痴の二人を縄で繋いで連れて行く風景。
確かその縄を引いていたのは目の前にいる彼。
「・・・不本意ながらそれですね。」
苦笑いでそう答えた作兵衛は先程の怒り顔とは違いとても好印象を与えた。
まさに苦労人というその名をプレゼントしたくなるような。
「なあ、富松。」
「なんですか?先輩。」
「・・・用具って何の仕事をしているんだ?」
そういえば、と不思議に思い尋ねれば作兵衛は指を折りながら教えてくれた。
「一番多いのは、アヒルさんボートや用具の修理ですね。ほかには壁の崩れ落ちたところやよく乱闘によって壊された壁の修理。あ、あと最近は穴埋めもよくやるようになりました。」
ぴしり今なんだか聞きなれた単語が聞こえた。
「・・・穴埋め・・?」
「はい。よく綾部先輩が掘った穴を放置しているので其れを埋めるのが___・・・先輩も4年生ですよね?綾部先輩に言っておいてもらえませんか?」
ひしひしと胸の中に生まれる罪悪感。
でも、喜八郎の穴掘りを止めることなど不可能だ。
「・・・俺も手伝ってもいいだろうか。」
「え!手伝ってくれるんですか?」
なので少しでも償いにと、そう申し出たのであった。
「じゃないか。」
「こんにちは、食満先輩。」
「ああ。どうかしたのか?」
「用具のお仕事をお手伝いさせていただいてもいいでしょうか。」
そう切り出せば留三郎は少し驚いた顔をして。
「もちろん、かまわないが。・・・いいのか?」
問うてくるのは、何故か。
「はい。丁度暇をもてあましてましたので。」
(喜八郎は俺には止められないですから・・・。)
「んじゃ、よろしく頼むな。」
そう言っての頭をわしゃわしゃと撫でて指示を出しはじめた。
「下坂部はろ組なのか。」
「・・・はい。」
「ふむ、斜堂先生のクラスだな。」
「そうです〜・・・」
その後紹介された1年の下坂部平太と会話をしながら喜八郎が掘ったであろう穴を埋めていたとき(会話は成り立っているんだかいないんだか微妙な線だったりするが。)横で作業をしていた、委員長である留三郎に声をかけられた。
「この間はありがとうな。。」
「・・・この間、ですか?」
掛けられたその言葉にはて、何のことだったかと考える。
「ああ。裏の壁に大きな穴が開いてると教えてくれただろう?」
「・・・ああ、あの時ですか。」
ぽんと、の脳裏に蘇るのはいつかのこと。
くの一に連れて行かれた雅のことを遠まわしにたまたまそこにいた留三郎に伝えたのだった。
その後どうなったかは知らないが、この様子であれば無事だったのだろう。
「いえ、先輩も忙しかったでしょうにすみませんでした。」
「いや。・・・無事に修復することが出来たから、よかった。」
その言葉が示す人物を思い浮かべてしまいなんともいえない顔をしてしまった。
「よし!今日の委員会はここまでにしよう!」
その留三郎の声を合図にどっと疲れたのであろう皆その場に座り込んだ。
さすがにもいつもはしない作業に疲れて手に持っていた手鍬を地面に置く。
「、お前のおかげで予定よりも大分早く終えることが出来た!ありがとな。」
留三郎の眩しい笑みにいいえ、と言葉を返して。
「「先輩!ありがとうございました!」」
「ました・・・」
わらわらと集ってきた1年生の頭を撫でてやる。
「お前らもお疲れ様。いつもこんなことやってるなんてすごいな。」
そう言えば彼らは照れたように笑った。
「山村、し__「先輩!喜三太でいいですよ〜」・・・喜三太?」
「うん!」
「先輩僕も僕も!」
「しんべヱ・・・平太?」
名前で呼んでやればみんな嬉しそうにはにかんで。
「お前らも、呼びたかったらでいいよ。」
「「「先輩!」」」
かわいい、ちょっと、つれて帰りたい!とか思ったのはそっと隠しておこう。
「お疲れさん。」
そこにいつの間にか消えていた作兵衛がお盆を持って現れた。
そこには人数分のお茶とお菓子が乗せてあって。
「これは雅さんが皆にって作ってくれたんです。」
差し出されたのはにとって、とても馴染み深かった、甘味。
でもこの世界でお目にかかることは無いと思っていたもの。
「先輩もどうぞ?」
「あ、俺はいいよ。用具委員会皆で食べろよ。」
でも、彼女が作ったことに少し後ろめたさを感じて断る。
が、
「お前、甘いもの好きだろ?」
留三郎にそのように言われさらには満面の笑みで差し出されてしまったらに断れるはずも無く。
手に持った甘味は本当に懐かしい形をしていた。
(・・・おいしい、かどうかは別として懐かしい、な。)
※※※
実は雅さんはあまり料理上手じゃないです。
みんなは珍しいものを食べてそれがこんな味なんだと認識してしまっているので、上手じゃないこと解ってないのです。
雅さんが何を作ったかは、ご想像に。
用具との対面でした。
平太出番少なくてごめんね。
でも好きだよ。
作兵衛が掴みきれてない。あは
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