ドリーム小説
宵闇 弐拾肆
(・・・来たくなかったんだけど・・・しかたない、か。)
はその部屋の前で悩んでいた。
入るかはいるまいか。
いや、頼まれたのだから入らなくてはいけないのだが・・・
「ちゃん!」
「ちゃんずけをやめてくださいタカ丸さん。」
「ごめん!お願いが・・・」
「無視ですか?」
原因は年上の同級生、斉藤タカ丸であった。
本日参加していたらしい、1年は組での座学。
そこで宿題が出されたらしい。
そしてその資料をさがしに図書室に行きたいのだが、生憎これから2年の実技に参加しなくてはならないらしく。
一息でそれを説明するとタカ丸はそっとこっちをみて、
「・・・だめ、かなあ?」
と聞いてきた。
別段、用事もなかったので引き受けたのだが・・・
以前、怖がらせてしまった少年は確か図書委員で。
さらには中在家長次も図書委員長。
思い出したのはここにきてから。
だが、引き受けた以上、逃げることは出来ない。
は溜息を一つつきながらもその襖に手を掛けた。
「失礼します。」
静かに入ったそこは書物の独特のにおいが濃くて。
にとってはなかなか落ち着ける場所だったりする。
(とりあえず、あの二人が当番じゃなければいいのだけれども・・・)
けれどもそういうときにかぎって願いは適わないもので。
ばちり
目が合った当番の図書委員は、よりにもよって例の1年生であった。
目が合った瞬間彼のまとう空気が、ぴりぴりとしたものに変わった。
それをこれ以上刺激しないためにはやばやと奥に進み、目的の資料を探す。
ふと見えた栗色のふわりとした髪。
(あれは・・・)
近づけば振り向くその人は、
「・・・不破先輩の真似をして何をしていらっしゃるんですか?鉢屋先輩。」
にこにこと笑っていた顔を一瞬でにやりとしたものに変えて。
「やっぱり、はだまされてくれないよなあ?」
とのたまった。
それにがたりと後ろで動いた気配。
振り返れば、驚いたような1年の顔。
気づかなかったのであろう彼は罰の悪そうな顔をしていて。
「あの子も騙してたんですか。」
じとりとした目で見ればにやりと笑われて。
「小さなころから慣れておけばいずれ役に立つからね。」
悪戯好きなこの人はいつでも人のことを気にかける。
そんなわかりにくい優しさがをも助けることは多くて。
「俺も、そのおかげで今迷わず先輩を見つけられるんですよ。」
思わず浮かんだ笑み。
それとともに言葉を届けて、は資料探しに入った。
「4年い組の。貸し出しお願いします。」
「・・・はい・・・。」
「ありがとう。」
無表情で決して視線を合わせない。
その姿は、まだ忍びに染まらぬ証拠。
可愛い後輩が話してくれないのは悲しいが、これは自分の引き起こしたことだからと言い聞かす。
「失礼しました。」
最後にもう一度振り向けば、まさかの目があって。
お互いの驚きが伝わる。
思わず笑えば彼はそっぽを向いたが。
それでも、今度一度彼に話しかけてみようかと思えるほどの勇気をもらった。
「失礼します。」
その声とともに入ってきたのは、例の先輩で。
何できたのかと、むっとする。
この図書室はきり丸にとってなかなか居心地のいい場所で、そこに入ってこられたことに苛立ちを感じた。
最近は組のみんなが何気なく話す話題の中に入ってきた名前。
それはこの人のもので。
きり丸は自分の領域を犯す人が許せないのだ。
その背中を睨み付けるように見ていれば奥に進んでいって、そしてある棚の前で立ち止まって先にそこにいた人物に話しかけた。
振り向き柔らかく笑うあの先輩はだれにでも優しいのだ。
それにもどことなくいやなものを感じていれば、まさかの言葉。
「・・・不破先輩の真似をして何をしていらっしゃるんですか?鉢屋先輩。」
は?
今なんていった?
鉢屋先輩?
不破先輩じゃなくて?
思わず立ち上がれば思いのほか大きな音が出て。
頭の片隅で委員長がいなくてよかったと思った。
振り向いた二人の先輩に気まずいものを感じながら目線をそらした。
「4年い組の。貸し出しお願いします。」
目の前に差し出された1冊の本。
相手を見ずにうけとって手続きを済ます。
課題をしないといけないな、と題名を見て思った。
「・・・はい・・・。」
「ありがとう。」
突き出すように返したのにもかかわらず、帰ってきたのは柔らかな声。
自分がとてつもなく醜いものになったような気がした。
出入り口に向かうその姿を無意識に追っていたみたいで、声とともに振り向かれたその瞳に自分が映った。
それに驚けば、向こうも驚いているようで、でも次いでとても優しく笑った。
「きり丸。」
目の前に再び差し出されたのは一冊の本。
見上げれば紺色の先輩の姿。
「・・・借りるんですね?不破先輩の姿を借りた鉢屋先輩。」
言葉に若干の皮肉を混ぜて先輩に言う。
そしてその本をとろうと手を出せばひょいとそれが上げられて。
「・・・鉢屋先輩?」
問いかければにやりと笑ったまま先輩が口を開いた。
「きり丸。今日課題が出たんだろ?」
「え、はい、まあ。」
それはまったく想像もしていなかった話題。
とりあえず頷けば、先ほどの本を出されて。
「これなら、よくわかるはずだ。」
それは暗にこれを使って課題をやればいいということで。
「え、あ、りがとうございます?」
なぜこの先輩が知っているのか、
それが頭に浮かんだが、もらえるものはもらっておけ精神のためそれを受け取った。
「あ、お礼は私ではなくてに言いなさい。」
う け と ら な け れ ば よ か っ た 。
口には出さなかったが先輩にはばれていたようで。
一つ溜息。
仕方がないなあと、それはそう告げていて。
「あのな?きり丸がなにがあってあの子を嫌うのかは私は知らない。人が思う感情はとても複雑で曖昧だからな。だが、あまり無視はしてやってくれるな。あの子はああ見えて意外と繊細なんでね。」
一つしか変わらないであろう人を『あの子』と呼ぶ。
それに微かな違和感を感じながらも先輩の顔をみれば暖かな笑み。
「・・・あの人は雅さんのことを嫌ってるんです。」
その笑みがあの人に向けられていることが理解できなくて、ぽつりこぼれた言葉。
「ん?ああ、確かにそのような節は見られるな。だが、あれは嫌うと言うよりどうすればいいのか途方にくれているように私は感じるが?」
それに苦笑を交えて先輩はそういった。
「大嫌いだって、言ったんですっ、あの人!雅さんのこと、何にも知らないくせにっ・・・」
思わず激情のまま思ったことを口走ってしまった。
「そうなのか?私はあの子に直接聞いたわけじゃないからなんともいえない。けれどもね?きり丸。」
空気が変わる。
ぞくりとする、空気。
「君はあの子の何を知っている?あの子が雅さんを知らないように、君はあの子を、を知らない。それでいてあの子に感情をぶつけるのか?ならば君は、
君 が 嫌 う あ の こ と 同 じ こ と を し て い る ん だ よ ? 」
その言葉がぐさりと胸に刺さった気がした。
ふわり
空気が穏やかなものに戻った。
「でも、ま、誰にでも好かれる人なんていないんだよ。だから、ね、きり丸?君が雅さんを慕うのも、あの子を嫌うのも自由だよ。」
最後に落とされた笑みは慈愛そのもの。
この学園の先輩や先生たちが自分に向けるのと同じもの。
どうしようもなく泣きたくなった。
「失礼しま、あ!三郎!やっぱりここにいた!っ、きり丸?!どうしたの??」
新たな声は今度こそ先輩のもので、その柔らかな姿を見たときその体に飛びついてしまった。
※※※
きり丸も小さな子。
きっと自分の感情を抑えるのが下手なんです。
無視をするほど子供ではないけれど、普通に接せるほど大人ではない。
その点で言えば、のほうが子供のよう。
・・・あれ?きり丸とこんなに仲悪くする予定なかったんだけどなあ・・?
さて、勝手に企画。弐拾弐〜弐拾肆
4年生に振り回されてみた。
喜八郎の穴掘りの後始末、滝&三木の喧嘩の被害の後始末(?)、タカ丸のお手伝いでした。
back/
next
戻る