ドリーム小説
宵闇 弐拾伍
むぐむぐと口をふさがれてさらには背負われて。そんな彼女を前にはどうすべきかと本当に思った。
時は夜。
はいつもの自主錬を終えて、部屋に戻ろうとしていたところであった。
月明かりの下彼女を連れて行こうとする相手の色は赤。
一瞬でドクタケだとわかる色。
その相手と目が合った瞬間
しゅっ
無言で投げられた手裏剣に懐に持っていたくないで応戦する。
相手からやってきたのだ。
このさい彼女などどうでもいい。
やりかえさなきゃ、俺が廃る。
一瞬で飛び上がり彼女を抱える人物の懐に入り込む。
はっと息をつく相手。
だが体制を整える間なんてあげはしない。
胸元で一閃くないをひらめかす。
咄嗟に後ろに下がった相手の腕から彼女を取り上げ、
後ろに放った。
「へ?」
「なっ?!」
衝撃で口元が自由になったのだろう。
間抜けな声が聞こえてきた。
(ちなみに後者のは相手の声だ)
「自分で着地してください。」
それだけ告げれば、あとは目の前に集中するだけ。
が、
「甘いよ」
耳元で聞こえた声。
(っ、気配は無かった!)
振り向くにしても、目の前にも敵がいる。
どうするか、瞬時に頭を回転させる。
自分に出せる精一杯の速度で、目の前の敵をねじ伏せた。
そうしてすぐさま振り向けば
「そこまで、だ。」
今度こそ意識をなくした彼女を抱える赤いやつ。
どうやら二人いたのに気づかなかったらしい。
「・・・」
無言で見詰め合っていれば、後ろでかすかに揺れた気配。
(っ、まさか!?)
咄嗟に対処しようとするも、遅すぎて。
首元に鈍い衝撃が走るとともに、の意識は闇へと消えていった。
彼女の姿がないと気づいたのは、朝のこと。
違和感
いつも朝からある笑顔がそこになかった。
ただそれだけ。
でも、それに気づいたのはほぼ全員の生徒。
それくらい彼女が生活に入り込んでいたことに驚くと同時に苦い気持ちになる。
彼女はいいずれ帰らなくてはいけないのに。
いや、帰った、のかもしれないのに。
先生方に報告、そしてすぐさま捜索隊が作成された。
主に上級生で作られたそれら。
すぐに出発できるように用意を整え集合場所に行く。
そこでであった委員会の後輩。
「立花先輩。」
いつもの無表情。
でもそれのなかにいつもとは違う感情を見つけて、微かに驚く。
「どうした?喜八郎。」
次いで開かれた口からこぼれ出たそれに、その表情の意味がわかった。
「昨日の晩から、の姿が、見えません。」
この表情の意味は
焦燥だ
隣の部屋である。
今は一人部屋になっている。
その部屋から物音がしないのはいつものように自主錬をしているから。
そう思っていたのに。
(帰って、こない。)
それは今までなかったことで、心臓が一瞬大きく音を立てた。
朝が近づくとともに濃くなる焦り。
起きだした滝も心配なのか何度も外を見やる。
そうしているうちに朝がやってきて、万が一を考えて食堂に向かった。
そこで知らされたのは、雅の不在。
帰ってしまったのか、と思うはずのそれも、がいないことと無意識につながって。
立花先輩の姿を見つけるとどうしようもなくあせっている自分に気づいた。
がまだこの世界に存在しているかどうか。
ふと考えてしまったそれに怖くなった。
頭の中によみがえるのはある人の声。
『この子、はこの世界では不安定な存在なのです。存在することが不思議なくらいに。・・・この子を頼みます、ね。』
蘇る記憶。
あの人が言っていた意味。
あの時わからなかった言葉の意味が今ならなんとなくわかる気がした。
「滝。がまだ帰ってきてない。」
いつからか喜八郎の習慣となったそれは、隣室のが帰ってくるまで寝ないこと、だった。
いつもどうりの帰りを待つために眠るのを先延ばしにしていた喜八郎。
私はその横でいつものように先に眠りについていて。
でも、いつもとちがい喜八郎の眠る気配がなく。
不思議に思い喜八郎に話しかければ、どことなく焦ったようにかえって来た言葉。
まさかと思い気配を探れば確かにない。
外を見ればうっすらと夜が明けてきている。
この時間まで戻らなかったことは今まで、ない。
ぞくりと背中にいやな汗が流れた。
「・・・とりあえず、朝食の時間まで待とう。それから・・・一応食堂にも行ってみよう。もしかしたら潮江先輩とかが知っているかもしれない。」
たまに先輩方と組み手の練習をしているのを思い出しそう言っておく。
「・・・ん。」
離している間、喜八郎の目線は常に襖に向けられていた。
「雅さんが、い、ない・・・?」
やはり朝食の時間になっても帰ってこなかった。
食堂で先輩方に尋ねてみようと向かったそこは、別のことでざわついていて。
いきなり現れた彼女だから、いつ消えるか、いなくなるか、わからなかった。
でも、今回は違うと思った。
きっとここにいないは雅さんと一緒にいる。
何の根拠もなくそう思った。
呆然としているうちに捜索隊が組まれ、その中に私たち4年生も組み込まれた。
とりあえず一旦自室に戻り、装備を整える。
「喜八郎。」
「・・・・・・。」
朝から一言も話さない喜八郎。
それでも話は止めない。
「恐らく、のことだから、雅さんの姿を見たんだ。」
「・・・・・・。」
「それについていった。」
「・・・・・・。」
「だから、迎えに行こう。私たちで。二人を。」
淡々とした口調で告げたそれに喜八郎は頷くことはない。
なくなった会話にゆっくりと顔を上げ喜八郎はぽつりと言葉を落とした。
「滝は、絶対にがここから消えることがないと思ってる。だから、そういえるの。」
「・・・え?」
「あの子は、この学園の中で雅を除けば一番不安定。」
「喜八郎?どういうことだ?」
「いつ消えるかわからないのは、あのこの方かもしれないんだよ。」
「きは、「私は立花先輩に知らせる。」・・・では私も七松先輩に・・・。」
それから後、喜八郎は朝同様一言も発することなく集合場所へ向かった。
『 いつ消えるかわからないのは、あのこの方かもしれないんだよ 』
その言葉を頭の中でなんども繰り返させながら。
「七松、先輩・・・」
いなくなったのか、連れて行かれたのかわからない雅の捜索のため集まった集合場所で後輩に声をかけられた。
いつもは自信満々のその顔が微かに翳っている。
そんな姿は珍しくてこんなときにもかかわらず驚いた。
それは雅がいなくなったことに大変な衝撃を受けているからだと思った。
でもそれはその次の言葉で大きく裏切られる。
「昨日、からの姿が見えません・・・」
とても悪い意味で。
「・・・どういうことだ?滝夜叉丸。」
わたしの言葉に滝夜叉丸はびくりと体を振るわせた。
「昨日の夜から、部屋に帰ってなくて、気配も、この学園内に感じられないんです。」
今まで一度も朝まで帰ってこないことはなかったのに。
その言葉を聴いて、普段あまり使わない頭を高速でまわす。
は頭が切れる。
連れて行かれる雅を見ただけならば、何らかの形で誰かに伝えているはずだ。
その様子はなかった。
つまり、雅とともに連れて行かれたと考えるのが一番妥当だ。
雅は帰ってしまったわけではない。
不謹慎ながらそっとそのことに安心した。
「滝夜叉丸。先生方に報告は?」
「いえ、まだです。」
「ほかにこのことを知っているのは?」
「喜八郎が立花先輩に知らせたくらいです、が。」
「・・・そうか。」
不思議そうに首をかしげる滝に告げる。
「滝。ほかの誰にもこのことを言うなよ。」
「、え?どうして、ですか?」
動揺を見せる後輩にいつものようににかりと笑いそのあたまをわしゃわしゃとなでてやる。
「どうしても、だ!わたしはちょっと仙ちゃんと三郎のところに行ってくる。」
が雅を苦手としていたことは先生や後輩たちもよくわかっている。
先生たちはまだしも、後輩たちがこのことを知れば確実にに疑いが向く。
それは雅がきたことで不安定になっているあの子をさらにやばい感情へ引きずりこむ。
今は苦手で、どう接するか決めかねている。
そんな感じだ。
その感情が向かう先は___
憎しみか
好意か
※※※
さてさて、書きたかった王道の誘拐話。
どれくらい続くかなあ?
滝と喜八郎はの隣の部屋。
喜八郎がまつのは心配だからです。
・・・伏線らしきものがはれたようなはれなかったような・・・。
こへはきれると誰よりも怖い。
本能のままに動き出します。
こへがわたしって一人称を使うのがだいすきです。
一応上から、仙蔵、喜八郎、滝、こへと視点変更でした。
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