ドリーム小説
宵闇 弐拾玖
「「「散」」」
その掛け声とともに動き出した私たち。
会計であるわたしは先輩である潮江先輩、そして滝夜叉丸属する体育委員とともに行動を開始した。
私たちは陽動を担当する。
つまり敵の目をこちらにひきつける役目だ。
雅さんがどこにとらわれているのかは不明なため、彼女の居場所を探る時間をも探らなければならない。
このような時大きすぎるためいつもお留守番をしていたゆりこもだが陽動のため今日は持ってくることを許された。
走りながら抱えるゆりこは多少動きづらいが久しぶりに大暴れさせてやれる機会なので、こんなときだというのに不謹慎に顔が緩む。
さわりとなでてやればそれは冷たいながらもたしかな存在感をかもし出す。
作法と学級が見つけるまで大暴れをしようじゃないか。
彼女をあの場所から連れ出した報いを。
(・・そういえば)
学級、その単語を思い浮かべたときにふと頭に浮かんだ同級生。
「滝夜叉丸。」
隣を走る滝夜叉丸に微かに口を開く。
「なんだ。」
無愛想なそれはしかし任務の最中であるからで。
気に留めず言葉を続ける。
「の姿が捜索隊の中に見えないが?」
びくり
私の言葉に滝夜叉丸は微かに体を揺らした。
「・・・まさか・・・?」
いやな予感がよぎる。
滝夜叉丸はちらりと前を走る七松先輩に目をやりながら、口を開くか開くまいか瞬時しているようだった。
「田村、は学級委員の仕事で別行動しているだけだ。」
「!七松先輩?」
いつの間にかすぐ横まで来ていた七松先輩がそう告げた。
「だから、姿が見えないだけだ。」
「そう、ですか・・・」
心のどこかでそうではないのだろうと思いながらも、話さないということはそれなりの理由があるということだから、そっと口を閉ざした。
見張りの兵が見える場所、そこに闇に隠れて陣取って。
「三木エ門。ゆりこの用意はいいか?」
「はい。いつでも。」
先輩の言葉にそっとゆりこをなでた。
生物委員だということもあり、一番伝令に向いているということで今日の俺の役割は中継だ。
何かあったときのために城の周りに鳥を配置している。
小さな鳥たちなのでこの暗闇の中相手に悟られることはないだろう。
何かあったときはその鳥らに伝達させるようにしている。
だが、今のところそんな様子はないので後方支援である保健委員とともにいるのだが・・・。
(気まずい・・・)
善法寺先輩はいいのだ。
いつものようにほやほやとした空気は今はなりを潜めて鋭く辺りをうかがっている。
それはさすが最上級生。
忍びに最も近い学年といわれる6年生。
1年の差はとても大きい。
と、それはいいのだ。
それよりも問題なのは作法でありながら進入班からはずされた綾部である。
冷たく前を見据えるその目は据わっているとも言える。
綾部もなかなかに雅さんになついていたからこの反応もわからなくはない。
そして先ほど知ったことではあるが、三郎の後輩である。
あの子も連れて行かれたらしい。
綾部とはよく一緒にいるのを見ていたから、そのせいであろう。
きっ、と目線は常に城の方角。
その手は硬く握り締められていて。
(・・・心配、なんだよな。)
その姿はやはりまだ幼い。
上級生に一括りされるとはいえ、俺より年下で。
一つしか違わないといっても、一つの違いはでかい。
忍びになりきれない優しい子だ。
ふ、と一つ息をはき綾部のそばに立つ。
「立花先輩に食満先輩、それから三郎もいる。だから大丈夫だ。安心しろ。」
ぽんぽんと優しく頭を叩いてやれば視線はそっと下に下がって。
「あの姿が見えないのがとても不安なんです・・・。」
それはどちらに対してなのか。
恐らくどちらに対してもだろう。
もう一つ頭をなでてから城のほうへと目を向ける。
(頼んだぞ、三郎。)
これ以上この子が悲しまないように
火薬の私、それから図書は進入班の作法、学級の退路を確保するが、途中までは進入班と一緒に進む。
陽動が始まってから探し出したのでは時間がかかりすぎるため、手薄なところから忍び込む。
その近くにいた見張りは食満先輩と中在家先輩によって瞬時に倒されて。
(・・・本当に、強い。)
容赦ないそれらはまったく音を立てなかった。
「まずは地下牢に向かう。」
小さな声で交わされるそれら。
地下牢に侵入した三郎たち。
それを私と図書は外で待機。
もちろん見つからないように細心の注意を払って。
しばらくもしないうちに出てきた彼ら。
様子からしていなかったのだろう。
次いで向かうは城の中。
私たちは退路を確保するためこの場所に残る。
自分が進入班に慣れなかった時は微かに落ち込んだが、人選に間違いはないと思っている。
「頼むぞ三郎。」
「まかせろ。」
短く交わしたやり取り。
言いたいことは伝わっているのだろう。
一度目を閉じ優しい笑顔を思い出す。
実習で身も、心も疲れきって帰ってきたときに見せてくれたその笑顔を。
おかえりと言ってくれた耳になじむ声。
ころころと変わる表情。
きっと怖い思いをしているだろう。
でも必死でなかないように涙をこらえて。
簡単にそんな姿が想像できてあの子がなじんでいることに笑みを漏らす。
たとえ、いつか帰ってしまうのであっても、今、このときは学園の大事な一員だから。
「は強い。雅さんをつれてきっと逃走をはかっているさ。」
小さな体で精一杯努力するその姿。
追いつけない体格差を必死で補おうとする。
後輩にはとても優しい笑顔を見せる。
心優しい後輩を思い浮かべて。
去っていく影に告げてやる。
三郎は一度手を上げて、消えた。
「大丈夫だよ、兵助。」
「雷蔵・・・」
後ろから聞こえた雷蔵の落ち着いた声。
それに、かなり焦っていたことに気づく。
「僕たちには僕たちにできることがある。」
すとんと胸に収まった言葉に、本当にこの友人は侮れないと苦笑いする。
さて、ではみんなが無事に学園に帰れるように、私は私にできることを。
彼女らに仇名すものを許しはしない。
地下牢に入ってみればそこにはぐるぐる巻きに縛られ赤い装束をはがされたドクタケの忍者が一人。
これは確実にだ。
さすが私の後輩だ。
ふ、と笑いがもれる。
立派に育ってくれてるようでうれしい。
「これは確実に二人とも城の中か。」
「しかものほうは明らかに逃げ出して、だな。」
(食満先輩にはのことを話してある。
驚かれたが、どことなく納得していたようだった。)
先輩たちも縛られた忍びを見ながら、感心したようにそういった。
立花先輩が作法にほしいとかいったのは無視だ、無視。
は学級委員だから。
「本当に頼りになる後輩だな、は。」
立花先輩の言葉に微かに顔が緩む、のを必死でおさえる。
あまりそういう顔を見られたくはないから。
「そういえば仙蔵のところの綾部。えらくふてくされていたな。」
「あれは雅のことものことも大好きだからな。」
食満先輩の言葉に脳裏に紫が浮かぶ。
確かに綾部はといつも一緒にいたし、雅さんにもなついていた。
年上にもかかわらず呼び捨てにしていたくらいだから。
立花先輩の声はとても優しい。
困ったやつだといいながらも、大事な大事な後輩だと体全体で表現するように。
食満先輩の後輩ばかは有名だが、立花先輩も相当のものだと思っている。
「そろそろ移動しましょう。」
私の言葉に頷くと先輩二人とともに城へ向かうために地下牢を後にした。
城の入り口で退路を確保するために残る兵助や雷蔵、中在家先輩らと別れて私と立花先輩、食満先輩で侵入する。
「小平太たちがそろそろ動き出す。」
「それまでに見当をつけよう。」
「雅さんの気配は独特ですから、すぐに感知できるかと。」
進入してすぐの天井裏。
気配を探りながら、小声で交わすそれら。
二人の気配はまだない。
だが人の気配は濃くて。
すぐに行くから。
まってろよ、雅さん。
そっと胸の中で呟く。
可愛い後輩と、大事な女性を思い浮かべて。
さあ、救出劇の始まりだ。
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