ドリーム小説










 宵闇 参拾壱





月がきれいな夜のこと。

お手伝いが少し長引いたから、お風呂に入るのが少し遅くなってしまって。
かといって、入らないという選択肢も今日昼にたーこちゃんに落ちたせいでなくなってしまって。

みんながそろそろ眠るような時間にそっとお風呂から出た。

廊下を歩いてたらきれいな月に気が付いて、そのあまりの綺麗さに立ち止まって空を見上げる。

星が綺麗に見えて、ここにもひとつ私の世界との違いを見つける。

でも前のようにひどく胸が痛むことはない。

それはこの学園にきて間もないとき。

彼が私に告げた言葉。

『さっさとこの世界で生きていく覚悟を決めなよ。』

その言葉は私を追い詰めるものでも、混沌に突き落とすものでもなくて。


ただ私を救ってくれた。


彼だけが覚悟を決めろと、この世界で生きていくしかないのだと、私にそう思うことを許してくれた。


そのときからその言葉が私の支え。

だから、私の世界のようににごることのない空に、空気に、世界に悲しみをかんじることなく接することができている。



「・・・遅い時間だから、早く寝なきゃ、ね。」


明日も早いのだから。
そう思い踵を返した、その瞬間、月明かりが翳った。

それは雲のせいじゃなく、人工的なもの。

そちらを見たときに、体中から冷や汗が流れた。

声を上げるまもなく、布を口元に当てられ、そのまま縛られて、担がれて、その赤い影はすぐさま塀に登る。

「ん〜〜!!?んむ〜!!?」

むごむごと口を動かしても、無駄。

どうしようと担がれたまま最後の足掻きのように廊下に目をやる。

と、

驚いた視線と目が合った。


それは、いつかの、彼。

暗闇の中長い前髪がさらりと揺れて驚きの瞳が揺れる。

その瞬間、私を担ぐ人が彼に何か黒く光るものを投げつけた。

紫の装束がゆらりゆれる。

小さな体はしかしびっくりするほどすばやく動いて。

すっと、一瞬でこちらに近づいてきた。

「え?」

「なっ!?」

そのまま私を取り返してくれて、次の瞬間後ろに投げ飛ばした。

「自分で着地してください。」

そんなの、無理!

それを叫ぼうとしたけれど、それよりも早く後ろに感じた熱。
それは多分あの赤い人の仲間。
つまりもう一人いるということ。

知らせなきゃと思う前に、おやすみと耳元でささやかれて、意識は闇に沈んだ。









目が覚めたそこはまったく知らないところで。

つれてこられるときにあった縄ははずされていて、それだけにほっとする。
でもそれは気休めに過ぎなくて

怖い

ここはどこ?
どうしてここにいるの?

目の前にいた頭の大きな男の人は自らを八方斎と名乗った。

その後ろにいた人はこの城の主とのこと。

あと、まわりには5人の赤い忍び服を着た人たち。

怖い。

頭のなかがぐるぐるする。



「なんなんですか?あなたたち・・・私を早く返してください!」

ああなんてなさけない。
声が震える。

本当に私は保護されてすごしていたのが、わかった。

「そうあせるな。私たちはとても面白い情報を掴んだのだ。」

私の声が震えてるからだと思う。
答える八方斎の声は嘲笑を含んでて。

どくん

「・・・面白い、情報、ですか・・?」

それにはやな予感しかしなくて。

どくん

心臓がうるさいくらいに音を立てる。

「そちはこの世界ではないところからきたと聞いた。さて、ではこの城でこの世界にはない知識を伝授してもらおうではないか。」

どくん

それを言ったのは城主さん。
ひときわ大きく胸が音を立てた。

早鐘のようにばくばくと音を立てる心臓。

どうしよう、どうしよう、ばれてる、ばれてる。

でも、本当だと思われちゃだめ、私の知識を教えちゃだめ。

それだけは確かで。


でも、知られていても、本当だと思わせなければいい。

そう思えば驚くほど冷静になった。


「・・・なぜそう思うのかは解りませんが、私はそんなこと知りません。ですが、」

よかった。
さっきのように震えてはいない。
こわばった声しか出ないけれども。

「私はあの場所が大好きなんです。だから、あの場所に不利になることはしません。」

そう。
あの場所はこんな私を受け入れてくれて、こんな私をおいてくれた。
そんな優しく暖かい場所。
あの場所に迷惑をかけるなんて、それも私のせいでなんて、許せないから。

たとえ、何をされようと、何を言われようと、私は絶対に話さない。

目の前にいる八方斎を睨みながらそう思っていたのに。



「話さないというならば、話させる方法などいくらでもあるのだよ。」

その言葉はしんとした部屋にひどく響いた。
どういうこと?
言葉にする前に、それは告げられて。

「忘れていないか?・・・もう一人一緒に捕まえた者がいることを」

脳裏に浮かぶのはあの人。
私を助けようとしてくれた紫。

「っ!」

愕然とした私になおも続けられる話。

「そちらが話さないのであれば、あのものの体に聞こうではないか。」

「あの忍びの卵も学園の一部、といえなくはないだろう。」

続けざまに発された言葉に答えることができずない。
八方斎の顔が満面の笑みで彩られる。

「だ、めです!」

咄嗟に口から出たのは頼りにならない言葉。

どうしよう

その言葉だけがあふれて、まともな思考が働いてくれなくて。


「あいつを連れて来い。」

その言葉に体中がこわばった。

でも、次に上から聞こえた金属音に、そこから落ちてきた彼に、心のそこから安堵してしまった。


危険だという言葉も出せずに。

一人じゃなかったことに、安心してしまった。

なんて、醜い、私。












※※※
雅さん視点、1話でおわらせるはずがああ。
長くなったので二つに。






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