ドリーム小説










 宵闇 参拾壱



「くっ・・・」

上から落ちてきたのは彼と赤い忍び。

「これはこれは。よびに行く手間が省けましたな」

畳の上に押さえつけられて身動き一つできない状態の彼に八方斎の声はうれしそうにかけられて。


「っ、」

痛みにだろう、顔をしかめる彼にどうしようもなく泣きそうになる。
手のひらで口元を押さえて、叫びださないことに必死になる。

微かに周りを見渡した彼と目が合う。

(あ、このひと、だ)

それは反射的衝動。
その目が合った瞬間、暗闇ではわからなかったそれ。
明るい場所で見た彼は、あの時、作法委員室であった彼女そっくりで(彼だとわかってはいるのだけれども、どうしてもそう思ってしまうのです。)この人が探していた人だと瞬時に理解した。

こんなときだというのにうれしいと思う私がいた。
こんな気持ちは不謹慎なのに、ぐっと、こぼれそうになる何かをこらえる。

そらされた目線に、ほっとしたような気になる。

「何をされようと、俺は何も話さないし、口を開くこともしない。」

彼はそこまで言って、私を見た。

「あんたも、俺がたとえ何をされようとも、気にする必要はない。」

それに耐え切れなくて言葉を漏らす。

「っ、でもっ!」

それに畳み掛けるように、彼は続けて。

「俺は忍びだ。あんたとはちがう。痛みにはなれているし、あんたのように弱くもない。」

最後にまっすぐと私を見つめて。

「だからいらないことをしてくれるな」

泣きそうな気分が最高潮に達する。

ああ、もう、なきたくなんてないのに。

ぎゅうと手を握り締めれば、仕方がないなあというように彼が微笑んだ。

始めてみた笑みはとてもやさしくて。
心がぎゅうとなった。

それと同時に気づいたこと。

(私この人の名前も知らない・・・。)

再びこちらから目を離して、彼の黒い瞳は閉じられた。

そのまま意識を集中させるように彼は息をはいて。

そして次の瞬間


どん


何か大きな音があたりに響く。
城が崩れるかと思うほどのその大きな音は同時に震動もをおこして。

「何の音だ!!」

「解りません!」

揺れる城に微かに体を揺られていれば聞こえたその声。

それにつられてそちらを見ればそこには押さえつけられていた状態から、抜け出す彼の姿。

赤から紫に。

それはとても鮮やかに。

蝶が舞うかのようなそれは最小限の動きでありながらも確実に自由に近づく。

押さえつけていたその人の手から逃げたと思えば懐に入り込み、あごを蹴り上げる。

目でおうことのできない速さ。

そのときその場にいたほかの忍びたちも動き出して。

一人は八方斎とその後ろの城主を守るように。
残りの二人は彼に向かっていく。

しゃがんだ彼に落とされる足。
彼は上手にそれを抜け出す。
そのまま二人の後頭部に両手をかけ、交差させて。

ごん、と鈍い音がして二人の忍びはその場に崩れ落ちた。

ひゅ、という音が迫ってきたことに気づいたのは、彼の紫が目の前にきてからだった。

幾つもとんできたその黒く光る刃物を目の前の小さな体がかばってくれて。


ああなんてこの子は小さい。
私と変わらない背丈で精一杯私をかばって。
装束からみえる体はとても白くて。
きられたところから見える赤がとても鮮やか。
髪に隠れて見えない瞳は、今はどんな感情を示すのか。


「く・・・」

いくつかは彼の体にそのまま突き刺さる。
微かな苦悶の声に心臓がどくどくと音を立てた。

「っ、大丈夫?!」

そんな陳腐な言葉しか出てこなくて。

「大丈夫、だ。」

痛みをこらえてだろう、返ってきた声は微かに震えて。

「っ、でもっ!」

そんな姿で大丈夫といわれようとも、どうして信じることができようか。

でもそれ以上にかけられる言葉が見つからなくて。

「大丈夫。みんながもうすぐ助けに来るから。」

「、え?」

そうすればかけられて言葉は思いもしないもの。
優しく告げられたそれは希望。

ゆっくりと体に彼の手が回る。

私を守るように。

「さっきの音は三木のゆりこ。」

あの音は三木くんのゆりこ。
つまり、みんながこの場所にいる。
私たちを助けに。


「心配しないで。みんなが来るまではあんたは俺が守るから。」

 
その言葉は、どうしようもないくらいの安堵。

驚いて声も出ないくらいの。

学園で彼に出会ったのはきっと数回。
それも片手で足りるほどの。
しかも彼の名前を私は知らない。

つまり、彼は私を避けていた。

食堂でも彼の姿を見たことはなかったし、女装してたときにあったときも彼は私を見ようとしてくれなかった。

もしかしなくても同情とか、私を安心させるためとか、そういう何ばかりだとは思う。

でも、それでも、うれしくて。


回された腕の力が強くなった。
その瞬間再び飛んできたさまざまな刃。

多すぎるそれらを彼は私というハンデをもちながらも避けていく。

「っ、!」

ひときわ激しく切り裂かれた装束。
それを見た瞬間相手の目の色が、変わった。



「・・・お前女か?」

忍びの声に目の前の体が、肩に手を乗せていたその体が、強張った。

「そうだとしたらはかせる方法は増える。」

城主の言葉にゆれる紫。

「・・・え・?」 

思わず驚いた声をだしながらも、心のどこかでやっぱりと思う自分もいた。


でも、目の前の彼は、(彼女?)はひどく動揺したように、うつむいた。

それは一瞬のこと。

「__っ、ない」

一番近いはずの自分にも聞こえないほどの声。

「何か言ったか?」

「お、れはっ、俺は、女じゃない!!!」

それは悲痛にこの場所に響いた。

「っあ」

目の前の体が傾ぐ。

あわててその体を支えようと手を伸ばす。

触れた体は燃えるように熱く。

呼吸は激しく乱れて。

支えた彼はとても軽かった。

私でも支えになるほど。

目の前で広がる赤に、

「茶番は終わりだ。」

告げられた言葉に、

向けられた幾つもの刃に、動くことができなくなった。


「っ」

痛みから漏れたその声はその場にひどく響いて。

私ではこの人を守ることなんてできない。

この世界に害をなすことしかできない。

その瞬間新たな色が世界に映った。















※※※
雅視点2.
かきたかったの。






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