ドリーム小説
宵闇 参拾伍
その姿を見たとき、喜びと同時に嫌な予感がした。
抱えられた人物は二人。
留さんに抱きかかえられて連れてこられた彼女は目を真っ赤にして、泣いた後なのがよくわかった。
でも、その様子を見れば、大きな怪我もないようで。
ほっと、息をはく。
でも、その次、鉢屋によって連れられてきたその子見た瞬間、背に嫌な汗が流れた。
何故、この子がここにいるのか。
何故、こんなにも傷だらけなのか。
何故、白い肌が紅に染まっているのか。
そんな疑問をすべて頭から追い払って、ただ目の前の体を手当てするために意識を集中させる。
「っ、出血がひどい。ここじゃ、止血ぐらいしかできない。」
はやく学園につれて帰らなければ、新野先生に早く見せなければ。
これは僕の手に負えるようなものではない
「長次、綺麗な水持ってきて!留さんは布を!竹谷、学園に文を飛ばして!」
周りがざわついたように感じたが、今はそんなこと気にしてなどいられない。
水と、布を受け取って、止血をするために装束を裂いた。
あの伊作が鬼気迫るような顔で治療を開始した。
かなりひどい様子なのだろう。
少し距離があるにもかかわらず、の赤が見て取れて。
雅さんが両手を握り締めてを見つめ続ける。
・・・留三郎の腕の中で。
目の端で指示を受けた5年の竹谷が鳥を呼んでいる。
そしてその足に文をくくりつけようとした瞬間だった。
「学園にはすでに連絡をしたよ。」
そんな声が聞こえたのは。
突然聞こえた新たな声に、刃をかまえる。
他もと伊作、雅を囲み殺気立つ。
「誰だ。」
俺の声が静かにその場に響く。
「忍びは名乗るものではないよ。」
音もなく現れたのは赤を身にまとった忍び。
その姿に、ドクタケの忍びだと判断する。
だが少しの違和感。
敵なのにこんなに簡単に姿を現すのか?
こちらは卵とはいえ、数が多い。
他にも仲間がいるのかそれとも___
考えに気をとられたその瞬間、目の端に蒼色がなびいて。
きいん
響く金属音。
それは目の前、その赤い忍びから。
忍びの前には蒼い髪を持つ同級生の姿。
不意打ちであろうそれに、しかも任務の場では恐ろしいほどの本能を発揮する小平太の攻撃なのに。
それをいとも簡単に受け止めた忍び。
「落ち着きなさい、七松くん」
彼はそんななか静かに声を出して、柔らかく微笑んだ。
その知っている声に、いつもと変わらない雰囲気に、ふ、と少しだけあたりの気配が和らぐ。
「・・・お久しぶりですね、利吉さん。」
仙蔵の言葉に俺もそっとくないをおろした。
そして、すべてを理解した。
厳重な学園の中から簡単に雅さんが連れ出されたことも
あんなにも早く捜索隊が作成されたことも
彼女のことをドクタケが知っていたことも、
ドクタケの動きがいつもに比べて冴えていたことも
山田利吉がこの場所に、その格好でいるということで、すべての謎が明らかになった。
「学園から依頼されたのですか?利吉さん。」
声を発したのは5年の秀才と呼ばれる久々知。
彼の問いであるはずのそれはほぼ確定。
それに苦笑を漏らしながら利吉さんは頷いた。
「そうだよ。彼女のことをドクタケに知らせて、学園から連れ出して、君たちの反応と行動を見る。そのために私は学園に雇われたんだ。なかなかすばらしい行動だったよ。最も、彼女がいないことに気が付くのが遅かった点はマイナス点だけれどもね。」
その言葉に驚いたのは4年生くらいだろう。
他はなんとなく感じ取っていたから。
違和感を。
「うん。この違和感に気が付くことも実習の一環だったから、まあ、4年生は仕方ないとして、5,6年生は合格かな。」
その瞬間体中の熱が一気に上昇した。
彼女を危険な目に合わせたのは、間接的であろうと、学園で。
俺たちの実習のために、彼女を使った。
それは忍びであるならば、非情になれと、言葉なき警告。
それでも、怒りが納まるはずはない。
ほかのものもそうなのだろう。
皆一様に顔を背け、苦い顔をしている。
俺たちがなろうとしているのは、そんな存在。
ぐっと、手をつめが食い込むほど強く握り締めていたときに響いた凛とした声。
「早く、を学園に連れて行くよ。」
今まで黙ってを見ていた伊作だ。
その顔が一刻の猶予もならないと告げていた
※※
誘拐騒ぎももう少し。
いさっくんともんじ視点でした。
やほう。
利吉さん初登場の癖に、なんか、かわいそうな役柄に・・・。
いや、好きなんですよ?うん。
こへのかみは蒼色で
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