ドリーム小説









 宵闇 参拾睦









 「師匠、師匠!」

 暖かな日差し。
 緩やかな時間。

 久しぶりに師匠の『任務』がない日。
 宿の縁側に座りまどろむ師匠。

 彼にずっと聞きたいことがあった。
 起こせば半殺しの目にあうことも解ってはいたが、それでも聞きたかった。

 「・・・うるさいですよ。。」

 おきてくれない師匠の耳元で何度も何度も師匠と呼び続ける。
 と、目も開けないままで師匠は答えた。
 
 答えたのを聞いていると解釈して質問を投げかける。

 「師匠、なんで私はいつも男の格好をしてるんですか?」


 師匠に拾われてからずっと思っていたこと。
 精神自体は前の世界のままだから理解力はある、と自負している。
 (けれども、すべてを解っているというわけではない。体の成長に合わせて理解力もアップしているようなのだ。つまり、知っているの だ。だが、それを理解はしていない。それがわかる年になれば、いつのまにか理解ができている、ということなのだ。)

 が、いかんせんこれはよくわからない。

 何故常に男の格好をしているのか。

 別にいやというわけではないのだが、気にはなるのだ。

 「私のお下がりであれば、費用がかからないでしょう。」

 投げやりに言われたそれだが、どことなく納得いかなくて。

 「師匠師匠。」

 再び呼べばその眉間にしわが増えた。

 「うるさいですよ、。私は仕事明けで眠いのです。」

 「私は、元気ですよ。」

 「黙りなさい。」

 ほら、元気元気、とその場で飛び跳ねて見せればちらりとも見ないまま一刀両断された。

 「私は休むのです。あなたは修行でもしてきなさい」

 その言葉に胸を張って答える。

 「今日の分の修行は終わりました。」

 そしたら師匠はそっと鮮やかな光の加減によっては茶色に見える目を開いてそっと優しく微笑んだ。

 「なら、日暮れまで町の周りを走ってなさい。」

 地獄の言葉を告げて。

 「ちょ、師匠!?それはなしでしょ?!」

 「話し方が女の子みたいですよ。」

 「私は女の子です!」

 「気のせいでしょう。あなたは男の子です。」

 「っ、ですからなんでですか?!」


 終わらないやり取りにいらりとして師匠に叫ぶ。



 「それがあなたの身を守ることになるのです。」



 ゆっくりとまじめに言われれば、それ以上何も言うことができなくなって、仕方なく走りに出た。


確かそれは7つのときのこと。





  そして11のとき喜八郎とともに割り当てられた実習。
  そのときにはその言葉の本当の意味を理解したのだった。


 二人一組になって、ほかの組から巻物を奪うこと。
 それは幾度か実習としてやっていたから、今回もいつものとおり何事もなく終わると思っていたのに。


 それは間違いだったんだ。

 「!」

 「喜八郎!」

 覚えているのは途切れ途切れの記憶だけ。


 実習 巻物 盗賊 痛み 痛み 痛み 

         女




 『それがあなたの身を守ることになるのです。』





         それは偽りのない記憶






ゆるり

浮かび上がる意識は先ほどの夢を忘却のかなたへと押しやる。

目を開けたそこには見たことのある天井。

三度ほど瞬きを繰り返して、今の自分の情報を取り入れる。

(・・・俺、どうしたんだっけ・・・?)

「っ、」

微かに体を動かせば、鈍い痛みが体中に走った。

痛みに顔をしかめて、でもその痛みに、何が起こったのかを理解する。


(先輩方が、助けに来てくれたんだっけ、か?)


そろり、首を回す。
それすら痛みが走るが、それを無視して、自分が横たわる布団の横を見る。

と、

ふわり

暖かくて優しい匂い。

ふわふわの髪。

黒曜石のような瞳はしずくにぬれて。

体に走った衝撃。

痛みよりも何よりも。









何度も何度も名前を呼ばれる。

ここにいることを確かめるかのように。



自分を何度も呼ぶその声が、とてつもなくいとおしい。




「ただいま、喜八郎。」

その言葉にようやく喜八郎は名前を呼ぶのをやめて。



こぼれ出る涙を隠すように、今出る力の限りで抱きしめた。












※※※
おりきゃらですね。
師匠。
常に任務についている人なので、家がない。
宿屋とか任務先を転々としている。

ええと、の記憶についてですが、今まで習ったこと、知ったことは覚えてます。
でも、理解はしてないんです。
体が、記憶とつりあう知識を得たら、理解できるようになってます。
つまり、知ってるだけなので、はっきり言って、役に立たない知識のほうが多いのです。








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