ドリーム小説
宵闇 参拾玖
夜。
ぼおとした頭で考えるさまざまなこと。
昼の後輩や先輩たちの笑顔。
暖かいお帰りという言葉。
それはがこの世界に来て自身が手に入れたもの。
ほかの誰にでもない自身が得たもの。
がこの世界で小さな子供として再び生まれた。
そのことによって知ることも得ることも、体験することも多かった。
決してマイナス面のことばかりではなかった。
それを考えれば、彼女は雅は___
ギンギンという声が聞こえてきて意識が浮上する。
「そういえば、潮江先輩に稽古つけてもらったのだいぶん前だな・・・」
ポツリと呟く。
そう。
確か、雅さんにあの言葉を伝えた日以来だ。
と、
突然部屋に現れた気配。
慌てて飛び起きて、体制を整える。
それにその気配の主は微かに笑った気配。
「だれだ。」
油断なく口を開けばその人は月明かりの下に姿を現した。
「、だね?」
その姿をはみたことがあった。
幾度となくこの学園にきているから。
とは話したことはないが。
「・・・山田利吉、さん。」
彼、山田利吉は暗闇の中月明かりでとてもさわやかに笑った。
その笑みは決して人を陥れるようなものじゃなくて、なんとなく安心できた。
「私は、君の育ての親である彰義のことをよく知っているよ。」
おとなしく布団に戻ったのそばに座り利吉は口を開いた。
「師匠を、ですか?」
彼の口から出た知っている名前に一気に緊張が解けた。
「ああ。彰義とは仕事仲間でね。」
懐かしむようなその顔は、温かい。
「・・・最近の師匠はどんな感じですか?」
「?」
尋ねれば不思議そうな顔をされて。
「俺が学園に入学してからは一度も会ってないんです。師匠には。」
脳裏に浮かぶ師匠の姿。
それは4年前に分かれたときから寸分も変わらずに。
声も、話し方も、癖も。
「相変わらず、変わらずに忍務に忠実で、仕事ばかだよ。」
苦笑しながら返されたその言葉にほっと息を漏らす。
無事で元気でいるという報告だけで、にとってはうれしいから。
微かに漏れた笑みに利吉はゆっくりと目を閉じてそしてそっと頭を下げた。
「え?」
驚くの声を尻目に利吉はそのまま言葉を続けた。
「今回のことはすまなかったね。」
その言葉に蘇る、ここ数日のこと。
も姿勢を整え利吉に向き直る。
「利吉さんは忍務に従い行動しただけです。」
そう告げれば、利吉はゆっくりと顔を上げて。
その顔に浮かぶのはなんともいえないもの。
「本当は学園の生徒を連れ去るのは予定にはなかったんだ。」
つまりがどうなるかというのは予想の範囲外のことだったようで。
それを正直にに話したことに思わず笑みが漏れる。
「でも、利吉さんはいつでも俺らに何かあったら助けに入れる位置にいたじゃないですか。」
気づかなかったわけじゃない。
いつでもどこでも付いて回る影を。
見張るにしては動きをとがめる様子はない。
ただ、見守るだけだったその影を。
微かに驚いた表情をしてそして利吉は苦笑した。
「気づいていたのか・・・。」
「たまたまですけれども。」
そしてまっすぐに利吉を見つめて心のそこから思ったことを告げる。
「忍びとして俺は利吉さんを尊敬しますよ?」
忍びとしてなすべきことをできることを
それに利吉は目を見開いてそして一瞬後ふわりとても柔らかく笑った。
「きみは彰義に育てられたとは思えないほど素直に育ったんだね。」
それには思わず目を瞬かせる。
利吉が音もなく立ち上がりに背を向けた。
「これから先もあるのでしょう?」
その背に向かっては口を開いた。
疑問であるそれは確定にも似て。
「彼女はこの世界で身寄りがない。この世界で消えたところで、元の世界に戻ったと思わせればいい。・・・学園はそう考えているからね。」
背を向けたまま利吉が答える。
「学園は、彼女を信用してはいないんですね・・・。」
「信用しないのが忍びだからね。」
彼女は再び、学園の騒動に巻き込まれる。
それは確定的なことで。
にできることは____
「それじゃ、また。」
一瞬で姿を消した利吉。
そのすぐ後に聞こえてきた新たな音。
その不思議な気配と感覚に彼女を感じる。
すぐさまは布団に横たわり瞳を閉じた。
ゆっくりとふすまが開く気配。
目を瞑ってその気配を追う。
だだもれな正体は彼女のもの。
そっと横に座る気配。
「・・・寝てる、よね?」
ささやくような声はそれでもよく聞こえて。
「助けに来てくれて、ありがとう、ね」
耳元に落とされる言葉たち。
「あなたのおかげで、またこの場所に戻ってこれた。」
ぽつりぽつり
「迷惑をかけてごめんなさい。」
別にあなたのせいじゃないのに。
「巻き込んでしまってごめんなさい。」
たまたまだというのに。
「秘密を知ってしまってごめんなさい。」
それも仕方がないのに。
何度も繰り返されるのは謝罪の言葉。
それを寝たふりで聞く。
いくつも発せられる言葉に、彼女の心が痛いほど伝わってきて。
罪悪感によく似た感情が胸をめぐる。
一通り話し終えたのか、彼女がそっと立ち上がる。
「最後に、あなたの名前、いつか教えてください、ね。」
そういって立ち上がる気配。
ああもう
それを無視できるほど、は非情になりきれない。
「」
「・・・え?」
ふすまに手をかけた状態のまま動きを停止させた彼女に再び告げる自らの名前。
「俺の名前。、だよ。」
布団からゆっくりと起き上がって。
闇の中、ようやく対峙した彼女はとても綺麗でした。
※※※
利吉さんと対面
雅さんと和解作戦スタート(といっても多分すぐ終わる)
彰義については零話でどうぞ。
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