ドリーム小説
宵闇 肆
「「「雅さんっ!!」」」
食堂から聞こえる大声にはまたか、と溜息をついた。
横にいる喜八郎にやっぱり食堂に行かないと告げて、来た道を戻る。(喜八郎は了解の合図か後ろ手に手をふっていた。)
1時間目までには大分時間があるのでその時間まで、部屋でゆっくりしていようかと思ったのだ。
最近の朝はいつもこうである。
忍術学園に来た彼女はだれからも好かれるような性格をしているのだろう。
どこにいても誰かしら彼女の側にいた。
彼女の側にいたがった。
低学年の間では取り合いも頻繁に起こっているようで。
だが、は一度も彼女に会ってはいない。
遠目に見ることはあっても、しゃべったことは、まして自己紹介をしたこともなかった。
(俺は彼女と話をしたくはないから。)
他の人たちのように、近寄りたいとも思えなくて。
それはが女だからかもしれないし、同じ世界から来たからかもしれない。
とりあえず会わなくても、話さなくてもいいのだから、自分からそんなことはするつもりはなかった。
「!」
廊下を歩いていれば、かけられた声。
それにそちらを見れば、そこにいたのは紺色の制服を身にまとった4人の人。
同じ顔が二つに黒髪、ぼさぼさ頭。
その個性的な集りの中の一人、の委員会の先輩でもある1人が手を上げていた。
「鉢屋先輩。」
その声の持ち主の元に近づいていけば大きな手でわしわしと頭を撫でられる。
「わわ。」
思わず驚いた声を出せばおもしろげにさらに撫でられて。
「・・・三郎、それくらいにしといてあげなよ。の髪ぐしゃぐしゃだよ。」
三郎と同じ顔の先輩である、不破雷蔵が声を掛けてようやくは開放された。
「とと・・・。先輩、何か用ですか?」
手櫛で髪を整えながら首を傾げれば三郎はにやりと笑いながら返した。
「いや、なんでもないよ。ただが見えたからね。声を掛けただけだ。」
その何かをたくらんでいそうな顔も、にとっては委員会で慣れっこになっていたので特に何も思わずにそうですか、と返した。
「は朝ごはん食べたのか?」
「ああ、はい、まあ・・・。」
ぼさぼさ頭の持ち主、竹谷に聞かれて曖昧に返す。
「豆腐はあったか?」
「ちょ、兵助・・・。」
「ええと、・・・どうでしたけ?覚えてないです。」
目をきらきらとさせ、尋ねる久々知にさらに曖昧に返す。
「・・・、本当に食べたか?」
その曖昧さから悟ったのであろう、三郎が訝しげに聞くのを苦笑でごまかした。
その苦笑に何かを感じたのか三郎は一つ溜息をつくとさっきとは違う優しい強さでぽんぽんとの頭を叩いた。
「食べれるときに食べろよ?ただでさえお前の食は細いんだからな。」
「・・・はい、ありがとうございます。」
そう小さく返してはそっと笑った。
「そう言えば、今日は雅さんが朝ごはんを作るとか言ってたよ?」
「!!そうだった!早く行かないとなくなるな!」
「あの人の料理は知らないものが多くあって、とても興味深いな。」
雷蔵が零したその話に食いついたのは竹谷。
そしてすぐ後に久々知も同意して。
その名前が出ると胸が騒ぐ。
微かな表情の変化に気づいたのか三郎が口を開こうとしたのを遮りぺこりとお辞儀をしてその場を後にした。
嫌 い じ ゃ な い け ど 関 わ り た く は な い ん だ 。
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