ドリーム小説
宵闇 伍
優しいはずの日の光も今の俺にとっては鬱陶しいものだった。
「。」
実習を終え、かいた汗を流すために井戸へ向う最中のこと。
落ち着いた優しい声が降ってきた。
「立花先輩。」
見上げたそこにいたのは最上級生。
綺麗な黒髪を風になびかせ木の上からこちらを見ていた。
(本当に綺麗な髪だ。タカ丸が追い掛け回すのもよくわかる。)
そんなことを思っているとは知らないであろう立花仙蔵はふわり、音もなく俺の前に着地した。
その顔に浮かぶは美笑。
「実習だったのか?」
「ええ、はい。裏裏山までランニングでした。・・・たくさんのトラップがある中を。」
そう、いつもと変わらない実習のはずだったのだ。
裏山に一歩踏み入るまでは。
落とし穴などはまだ序の口だ。
あるポイントに行けば遠慮なしに石は降ってくるは、くないは飛んでくるは、挙句の果てには焙烙火矢が飛んできた。
それらを必死でよけながらふと見た友人の顔にはいつもの無表情に悦としたものが混じっていた。
喜八郎の得意な落とし穴。
さらには焙烙火矢。
それらで連想されるのは、作法委員会、だ。
そして目の前にいる立花仙蔵は作法委員会委員長。
「いい経験になっただろう?」
「喜八郎が昨日委員会呼び出しを受けていた理由がわかりました。」
その綺麗な顔に微笑を浮かべたまま言った仙蔵の言葉に溜息まじりでそう返す。
「怪我は?」
「ええ、まあ。なんとか、大丈夫でした。」
「残念だよ。」
にっこりさらに笑う彼に冷や汗を感じる。
そのまま近づいてきた仙蔵はぐっと俺の左腕を掴む。
「っ!・・・。」
「怪我、してないんじゃなかったか?」
本当にこの人は、何でも見えているのじゃないかと思う。
隠していた左腕の傷を瞬時に見抜かれた。
「・・・」
答えず目をそらした俺に仙蔵は苦笑を漏らす。
そして左手を離すと言った。
「ちゃんと、治療だけはしておけ。」
その答えに目を合わせないままこくりと頷く。
それにもう一つ笑い声を落として仙蔵は頭を数度撫でてくれた。
彼は決して医務室に行くことを強要しない
俺が極力行くのを避けているのを知ってるから。
そろそろ本来の目的である井戸に向おうと仙蔵に頭を下げて去ろうとした。
と、どん、と背中に鈍い衝撃。
重たいそれは俺の体には大きくて思わず倒れそうになったのを前にいた仙蔵が支えてくれた。
「!仙ちゃん!」
「・・・七松先輩、重いです・・・。」
「小平太、退いてやれ。がつぶれる。」
声を聞いたことで誰かを判別して名前を呼ぶ。
その人、七松小平太は悪い悪いと俺からのいてくれた。
そしてにかりとした笑顔のまま、俺に話しかけてくる。
「!これくらいでよろけてちゃ駄目だぞ。もっといっぱい食って体力付けろ!」
そうして先ほどまで仙蔵がしていたように頭を撫でられた。
ちなみに仙蔵よりも乱暴なせいで髪の毛はぐしゃぐしゃだ。
(・・・なんで先輩方は頭を撫でるのだろうか・・・。)
「あっ、そうだ仙ちゃんに用があったんだ!」
「ん?なんだ?」
本来の目的を思い出したのだろう、彼は仙蔵に向き直った。
「雅が仙ちゃんを探してたよ!」
” 雅 ”
その単語が耳を掠める。
「それでは、俺は此処で失礼しますね。」
意識せず堅くなった声に気づかないふりでその場を離れる一歩を踏み出す。
「怪我、放って置くなよ?」
「怪我してるのか?ならば、体に傷を残すな!」
聞こえてきたその声に振り向き再びお辞儀をすると今度こそ井戸に向って歩き出した。
(どこにいても聞こえるその名前は、俺にとって__)
その名前を頭を振って追い出すと、小平太の言葉を思い出し微かに笑う。
(傷残をすなといわれてもなあ、俺は忍びだから。)
あの2人は不思議だ。
時に全てを知られているかのように感じてしまうから。
※※※
仙さんはが女の子って知ってます。
こへは知らないけど、本能でなんとなく感じてます。
って感じですね。
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