ドリーム小説











 宵闇 肆拾壱










「すみません。それじゃあお借りします。」

「いいのよ。私も楽しみにしてるわね。」

「・・・がんばります。」


それは朝一番の食堂のおばちゃんとの会話。



保健室から退院することが許されたその日は休日。
天気は快晴であった。

しか使うことのない部屋はがいなくなったときのままで。
襖をあけさらして埃を払う。
布団を干してお日様に当てる。

そうして午前中いっぱい部屋の掃除を行った後、は私服を身にまとい、外出届を手にしていた。

一人で行くのは寂しいので喜八郎か誰かを誘おうとしたのだが皆何かしらの用事が入ってしまっていたのだ。

「さて行こうか。」

支度を終えて部屋から出る。


「あ」
「お」

廊下の突き当たりを曲がったときにばったりと会ったのは紺色の先輩だ。

「こんにちは。鉢屋先輩。それでは失礼します。」

ぺこりと頭を下げてくるりと方向転換。
さらには全力で駆け出す。

(今は鉢屋先輩に付き合う体力はない。逃げよう。)

寝込んでいたため落ちた体力。
今はあの先輩に付き合えない。
その考えにより踵を返したのだ、が、それはかなわず。

私服の首元を猫のように持ち上げられて。
にょきりと雷蔵よりも鋭い雰囲気を持った顔がを覗き込む。

「どこに行くんだ?。そんな全力で。」

あなたから逃げようと思いまして。
そんな本音を話せるわけもなく。

「ちょっと町まで行こうかと思いまして。」

「病み上がりだろう?」

正直に述べれば三郎微かに眉をひそめて。
その顔は常とは少し違う。

心配してくれているようなその表情に表情が緩む。

「どうしてもほしいものがあるんです。」

「・・・一人で行くのか?」

逃げる姿勢をやめておとなしく三郎に向き直る。

「喜八郎たちはみんな予定があるそうで。」

聞かれた問いに答えればにやりと変わる笑み。

「よし!私たちと行こう!」

「・・・へ?」

さっぱりと吐かれたその言葉に認識が間に合わない。
なんとも間抜けな声が上がった。

「これから私たちも街に行く予定だったんだ。」








「・・・鉢屋先輩・・・。」

「ん?何だ。」

たくらむ笑みのままで三郎が答えた。

「・・・なんで、」

「わあ、。やっぱりにあうねえ。」

にこにこしながら雷蔵が言った。

「・・・・・・なんで」

「・・・今度はまた感じが変わったなあ。」

苦笑いをしながら八左エ門が口を開く。

「・・・・・・・・・なんで」

「うん。可愛いよ、。」

無表情でじっとを見つめた後そう兵助が告げた。

「なんで女装なんですか・・・?」


先ほど一緒に行こうと告げられて、了承の返事も何も返していないにもかかわらず三郎に5年長屋に連れて行かれて。
そのまま抵抗むなしくあれよあれよと流されて。
気づいたときには時すでに遅し。
は女物の格好で連れ出されていた。

学園の出入り口で合流したのは5年の面々は皆思い思いに感想を述べて。

はげんなりと疲れたようにそういった。

「私たちが買おうとしてるのは簪とかなんだ。女装に使う道具を新調したかったから。」

答えたのは兵助。
つまり男ばかりで小物屋に行くのは遠慮したいということだ。
ちなみに本来は三郎か雷蔵が女装するつもりだった。

「その格好で付いてきてくれるというならば、甘味どころで何かおごってあげよう。」

「仕方がないですね。」

甘い三郎の提案には即答したのだった。




ざわりざわり

喧騒が満ちるその中を5人の影が歩いていく。
薄桃色の小袖を身にまとうを囲むように、それぞれが歩いていた。

久しぶりの町はいつも以上に魅力的で、きょろきょろとあたりを見渡す。

と不意にくすくすとした笑い声が耳に入る。

、そんなにきょろきょろしていたらはぐれてしまうよ。」

それは柔らかな笑みを浮かべる雷蔵のもので。
いつもは呼ばれない名前呼びに少しだけ戸惑う。

『男4人に女1人。苗字で呼び合うより名前のほうが自然だろう?てことで名前呼びで。』

学園を出る前に三郎に言われたそれは忠実に守られていた。

「こけんなよ〜。」

その声に隣を歩いていた八左エ門を見上げる。
にかりと太陽のような笑みを浮かべる八左エ門。
銀色の髪が太陽の光を受けてきらきらと反射する様はとてもきれいだ。

一瞬それに目を奪われたのが原因だろう。

「ぅあ、」

視界に入れていた八左エ門が傾く。
体勢を直そうにもいつもとは違う服装のせいでうまく動けず。
八左エ門の表情が驚きに支配されていく様を眺めながら地面が近づくのを感じる。

と、

「よ、と。大丈夫か?」

ふんわり。

片腕に走る温もり。
それと同時にとまる視界。
かけられた声と横目に映った黒髪でその人物を特定する。

「・・・ありがとうございます、・・・へ、いすけ、さん。」

そのまましっかりと立つまで腕を支えてくれた兵助に慣れない言葉で礼を述べてほっと安堵の溜息をつく。

「気をつけてな?」

離れる前にぽんぽんと頭を軽く叩かれて、思わずその場所に手を添える。

「大丈夫か?」

横から心配げに覗き込んできた八左エ門に苦笑して頷く。

「注意されたそばからこけかけました。」

「怪我はしてない?」

雷蔵の声に思わず笑う。

忍びに怪我の心配をするなど本当にこの人は優しい。

「大丈夫です。ありがとうございます。、っと、うぁ」

不意に引っ張られた右腕に、ぬくもりに包まれた右手に驚いて声が上がる。

「これならこけないだろう?」

相変わらずにやりとした笑みを浮かべたまま三郎はつないだ手を引っ張って歩き出した。

(は、ずかしいっ!)

微かに赤くなった顔を伏せることで隠しながらは三郎について歩き出した。

はどこに行きたいんだ?」

三郎とつないだ手をどうしようかと思案していればかけられた声。
前を八左エ門と歩いていた兵助のものだ。

「食材を少し・・・。」

そういえば買うものを言ってなかったなあと思いながら、そう告げれば八左エ門も振り返っていった。

「じゃあ先にの用事を済ますか。」




「ええと、一応俺の用事はこれで終わりです。」

先にの用事を済ませるため付いてきてくれた4人に告げる。

と、すっと口元に傷が幾つも残る指が当てられる。

、『俺』じゃなくて『私』ね?」

たんぽぽみたいにふんわりと笑って告げた雷蔵。

「っ、・・・はい。」

そのあまりにも自然なしぐさに顔が熱くなるのを感じた。
慌てて両腕に抱えていた食材類を顔を隠すように抱えなおす。

が、するりとその荷は腕から取り上げられて。

「女の子に荷物を持たせるのは、な。」

驚いて見上げたそこには片手で荷物を持つ八左エ門。

「あ、りがとうございます・・・。」

慣れない女の子扱いに戸惑いながらも礼を述べて。

「次は私たちの用事だ。付き合わせるが悪いな、。」

兵助の言葉にこくりとうなずいた。

空いた手には再びぬくもりが戻る。

「さ、行くぞ、。」

その声にそっと手を握り返した。















※※※
宵闇で見たいのは?のリクエストでトップを勝ち取った5年生のお話。
町に買い物。
1話で終わるつもりが・・・あれ?
兵助の口調がよくわからん・・・。
・・・なんていうかが乙女だ・・・。









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