ドリーム小説
宵闇 肆拾弐
小物屋で簪や櫛、飾り紐や紅などを見る。
色とりどりのそれらは見ているだけで楽しませてくれる。
も例外ではなく、女物のそれらに目を奪われていた。
「。」
不意にかけられた声に振り向けばふんわり困ったような笑みを浮かべた雷蔵がそこにいた。
「これとこれ、どっちがいいかなあ?」
右手と左手にそれぞれ違う簪をもちにそっと見せる。
雷蔵の迷い癖が発動したようでどうしようというようにこてりと首をかしげる。
「そう、ですね・・・」
雷蔵の髪色に似合うのはどちらだろうかと首をひねる。
「・・・らいぞうさん、にはこちらのほうが。」
二つを両手にとってふわふわの髪に当ててみる。
右手に持っていたほうがあうように感じて、雷蔵に渡してそう告げる。
「ありがとう、。」
さっきとはちがってほっとしたように微笑んだ。
「いいえ、どういたしまして。」
その笑みに答えるように笑い返す。
「ー。」
二人して向き合ってにこにことしていれば後ろからにょん、と腕が現れる。
それはを後ろから抱きしめるように回されて。
突然のそれに、慣れない体勢に固まる。
「これとこれならどっちだ?」
雷蔵と同じように両手に持った飾り紐を見せられる。
「・・・はち、・・・さぶろうさんでしたら、なんでもお似合いになるでしょう?」
変装にすぐれた三郎であれば何でも似合うであろうに聞いてきたことに疑問を抱きながら答える。
「んん、そうなんだが・・・じゃあ。どっちのほうが的に好みだ?」
「・・・私の好みを聞いたところで役には立たないでしょうに・・・でも強いて言うならばこっち、ですかね?」
三郎の右手にあった赤に模様があしらわれた飾り紐をさす。
「ん。そうか。」
三郎はそう呟くとあっさりと離れていった。
「・・・なんだったんですか?」
ポツリ呟けば雷蔵はくすくすと笑っていた。
「おいしい」
甘味屋でみたらし団子をほおばる。
その顔は嬉々としていた。
小物屋の用事が済んで最後の目的地である甘味屋。
そこで5人は甘いお団子を頬張っていた。
「本当には甘いものが好きだね。」
「はい、大好きです。」
にこにこ雷蔵の言葉に返事して。
そうしたらそっと団子の乗った皿が差し出された。
「ほら、俺のもやるよ。」
「!いいんですか??ありがとうございます、はちざえもんさん!」
もらえるものはもらっておけ。(ただし甘味物に限る。)
その信条に従い出された餡団子を手に取った。
「、頬に餡がついてるよ。」
雷蔵の声と共に頬に手が触れる。
驚いて思わず団子を食べていた手が止まった。
顔が熱くなる。
(っ、何で今日の先輩たちはこんなにも男前なんだよ!?)
胸の中で叫ぶがこの姿では声に出すことはかなわず。
とりあえず赤い顔を隠すためにうつむいて持っていた団子をもそもそとほおばった。
「お譲さん、いい男4人もつれて、もてる女はつらいねえ。」
お茶を持ってきてくれた甘味屋のおじさんの言葉に思わず顔を上げる。
そんなんじゃないと否定しようとした瞬間、そっと口元を手のひらで覆われて声を出すことをさえぎられた。
「おじさん、あんまりからかわないでやってね?この子すごく恥ずかしがりやさんだから」
三郎の声に、くすくすと聞こえてくる笑い声に再びうつむくことしかできなかった。
「。」
帰り道の途中改まった声で呼ばれてそちらを見れば真剣な顔をする兵助がいた。
「え、どうしたんですか?へいすけさん」
学園に帰るまでは、と名前呼びを続ける。
「雅さんを助けてくれてありがとう。」
どくん
その名前にどうしても反応してしまう自分がいる。
「で、も、結局は先輩たちが助けたじゃないですか・・・」
呼吸を落ち着けるように感情を隠すようにゆっくりとそう述べればふわり兵助は微笑んで。
「けれども、がいてくれたことで彼女は一人ではなかった。が一緒にいてくれたおかげで彼女はまたこの場所に帰ってこれた。」
だから__そう続ける兵助の声が空気に溶ける。
「ありがとう」
その単語が、言葉がすんなりと胸に収まって。
これまで反発してきた自分がどうしようもなく恥ずかしく感じるほどに。
「俺の方こそ、ありがとうございました。」
それは無意識にも近い衝動で口から零れ落ちた。
「俺、一人、じゃ彼女を助けることなどできなかった。」
「俺だけじゃ、彼女を守りきることなどできなかった。」
「ただ、重荷になることしかできなかった。」
「だから___」
男性にしては綺麗過ぎる顔に肌にそして澄んだ瞳に自信が映るのが見えた。
「ありがとうございました。」
ぐしゃぐしゃと頭をかき回される。
せっかく整えられていた髪が乱れて。
驚いて見上げれば銀色の髪。
にかり太陽の笑みで八左エ門は笑う。
「俺からも、ありがと、な。」
「ありがとう、ね、。」
とどめとばかりに後ろから体重をかけられて。
ぎゅと抱きしめられた。
「っ、!?」
「ありがと、。」
それらの言葉はとても優しく暖かくて。
「。後ろ向け。」
学園に帰り着いてそれぞれの長屋に戻ろうとしたとき。
かけられた三郎の言葉にきょとんとしながらも従う。
「っ、先輩?!」
少し乱暴な手つきで髪を引っ張られて思わずのけぞる。
そのままの姿勢で何か後ろでごそごそとやられて。
首の痛さに再び声を出そうとした時ぽん、と背中を叩かれて。
三郎に振り向く際たなびいた黒髪の間から微かに見えた赤い色。
手をやればいつもはない紐の感触。
「お礼、だ。」
「・・・え?」
その言葉に三郎を見ればもう後姿で。
『これとこれならどっちだ?』
『んん、そうなんだが・・・じゃあ。どっちのほうが的に好みだ?』
浮かび上がるのは小物屋でのやりとり。
赤い模様の付いた飾り紐。
「、ありがとう、ございます!」
驚きとうれしさで声を張り上げれば後ろ手にひらひらと手を振って、三郎は姿を消した。
※※
5年夢後編でした。
三郎が好き。
なのがよくわかりそうに・・・。
小物屋での飾り紐を三郎からプレゼントされました。
お礼、というのは(女装で)付いてきてくれたことと、雅を助けてくれたことに対してです。
back/
next
戻る