ドリーム小説
宵闇 肆拾参
日も暮れ夕餉の時間も終わり各々が好きなようにすごしている時間帯。
そのときには食堂にある調理場にいた。
「・・・あと、さませば出来上がり、かな。」
いい匂いをかもし出しているそれをさますために台の上に移す。
過去、よく作っていたものではあるがこの世界で作ったのは初めてで。
それでも何とか形になったそれはにとって納得のいくものであった。
朝、食堂のおばちゃんと話していたのはこのこと。
食堂を夜使わせてほしいと。
朝ごはんのお米をたくのがの担当。
そのおかげでおばちゃんとは仲がいいのだ。
ふわり
動いた際に目の端を掠める赤。
それを見るたびにの心は弾む。
三郎の手によってつけられた飾り紐はどんなに動こうとも解けることはなく。
ゆらりゆらり
その場所で存在を示していた。
装飾品をもらったことはほとんどなくて。
だからこそそれはとてもうれしかった。
ごそごそと使った器具を洗い片付けていく。
まだ寝ていないにしても、少し遅い時間。
なのでできるだけ音を最小限に抑えて作業をする。
といっても皆卵とはいえ、忍者なのだ。
気づいている人は。
たとえば今食堂に入ってきた先輩のように。
「こんな時間にもかかわらず食堂に明かりがあるから何事かと思えば・・・。」
現れたのは白い肌と黒いさらさらな髪が印象的な仙蔵。
「立花先輩。」
片づけを終えて手ぬぐいで手を拭きながら振り返りながら答える。
「こんな時間にどうしたんだ?」
食堂のカウンターに寄りかかって顎に手をやって微かに首をかしげる。
さらりと揺れる髪がうらやましい。
「ちょっと作りたいものがありまして。」
「この甘い匂いのものか?」
視線で先ほど作り上げたお菓子を指して。
「一つ、食べてみますか?」
かなり多めにできたから、いくつか消えても問題はない。
そう思い、お菓子を置いた台に向き直ろうとすれば、ぴょこりと現れた水色。
「こんばんは!先輩!」
仙蔵の後ろからひょっこり現れたのはお騒がせは組の兵太夫。
「こんばんは兵太夫。」
この時間にもかかわらず、1年生で制服のままということに少し驚きながらも返事を返してやる。
にこにこ笑うその顔は非常に癒される。
次いで今兵太夫が入ってきた後ろから三人目の声が聞こえてくる。
気配は二つあって、片方は忍びらしく足音を抑えようと走っていて、もう片方は不慣れな感じで。
「立花先輩、綾部先輩見つかりません・・・」
とぼとぼと落ち込むようにして入ってきたのは黄緑色と水色。
二人ともどことなく疲れたような様子でうつむいていたが、先に顔を上げた水色、1年い組の伝七と目があった。
「あ!先輩、こんばんは。」
「え?あ、先輩、こんばんは。」
慌てて挨拶をした伝七に引き続き3年の藤内も顔を上げ挨拶を返す。
「こんばんは、藤内、伝七。」
そう返して、次いで見たのは仙蔵。
「ええと・・・作法委員会、の集まりですか?」
この時間にもかかわらず制服であること、そして集まったメンバーにめぼしをつけて問いかける。
「ああ。明日急遽首実検でフィギュアを使うことになってな。その準備のため遅い時間ではあるが召集したんだ。・・・が」
その後に続く言葉が容易に想像できて思わず苦笑いを漏らす。
「喜八郎がいないんですね?」
「ああ。夕餉の際に声はかけたのだが、その後の行方が知れなくてな・・・。」
美麗な顔を微かにゆがませて溜息をもらす
もともと整った顔である仙蔵がそれをするとそれすら彼を際立たせるオプションとなる。
思わずほう、と見とれればその猫のようなつり目がを映す。
微かにどきりと波立った胸元を押さえた。
みてないか?という質問に否で答えて、あの友人に思いをはせる。
今日はごちゃごちゃと動き回っていたせいで喜八郎には会っていない。
そのため彼が今日何をしてすごしていたのかさえ定かではないのだ。
はてはて。
いつもであればこの時間は穴掘りか、はたまた湯浴みをしているころではあるが、作法委員が思い当たるところは探してしまったであろう。
ほかにどこにいるだろうか。
作法委員の視線を受けながら考えをめぐらせる。
不意に仙蔵の気配が鋭くなる。
目線がの後ろの勝手口に走る。
が、それはすぐに柔和なものに変化して。
同時に現れた後ろの気配。
食堂の出入り口ではなくて調理場の勝手口から現れた影は一瞬でに飛びついた。
どん、と体に走った衝撃を咄嗟に足を踏ん張ることでこらえて。
「部屋にいなかったから」
またどこかに消えてしまったのかと思ったんだ。
小さな小さな声で告げられたそれは苦しげで。
顔を動かせば微かに目の端に映る灰色に表情が緩む。
喜八郎はが姿を消したときから、変わった。
それは大きな変化ではない。
気づいているのは恐らく4年生と仙蔵くらいであろう。
ただ彼は、できる限りのそばにあった。
それは依存にも似て。
彼は恐れている。
が姿を消すことを。
の姿が見えないことを。
喜八郎だけではなく、滝夜叉丸や三木エ門、タカ丸までもが常にそばにあろうとした。
それは純粋に心配しているよう。
が消えてしまうことを。
「だいじょうぶ、だ。喜八郎。俺はここにいる。」
ぎゅうとさらに抱きしめる力が強くなる。
抱きしめるというよりもすがりつくようなその姿は幼子みたいで。
「喜八郎。」
その場に響いた凛とした声。
持ち主はゆっくりと手を伸ばして喜八郎のふわふわな髪に触れる。
それにびくりと肩を震わして喜八郎はそっと顔を上げた。
「俺はここにいる。そうだろう?喜八郎。」
再び告げたそれにようやっと喜八郎はいつもの表情に戻って。
そうしてさらにぎゅうとに抱きついた。
「・・・喜八郎。」
「何、。」
「離せ。」
「ん、もうちょっと。」
その返答に溜息をついて、目の前においておいたお菓子を一つつまみ上げる。
そうしてそれを喜八郎の口に放り込んでやる。
突然放り込まれたにもかかわらずそれを普通に租借して飲み込む喜八郎。
「あまい・・・」
ぽつりと告げたそれに少し砂糖が多かったかと考えた。
ようやっと離れた喜八郎にほっとしながら前を見ればきらきらとさた目でこちらを見てくる目が一対。
ふっと笑みを一つこぼして兵太夫の口の中に喜八郎と同じように放り込んでやる。
「〜!おいしいです!」
素直に返してくれたそれがうれしくて、先ほどからちらちらとこちらを見てくる伝七と藤内を手招きする。
恐る恐る近づいてきた二人にも口をあけるように指示して同じようにお菓子をあげて。
「っ、おいしい・・・」
「あ、りがとうございます。」
緊張したのか体をこわばらせていた二人だったが、その甘さに落ち着いたのであろう。
柔らかな笑みを浮かべて礼を述べた。
じっと、視線を感じる。
ゆっくりと嫌な予感を感じながらも振り返れば、口をあけた彼がいた。
「・・・まさか、とはおもいますが・・・」
「ん?なんだ?。」
「何で口をあけてまっているんですか・・・?」
「私にはくれないのか?」
にこにことした笑顔がとてつもなく綺麗で怖い。
ゆっくりと皆と同じように口にそっと入れて。
と、生ぬるい舌が微かに指に触れた。
「っ!」
慌てて手を引き戻し仙蔵の顔を見れば悪戯が成功したときのように、妖艶に微笑んでいた。
(っ、この人ほんとにたち悪い!!)
赤いであろう顔を隠すために喜八郎を仙蔵に押し出して叫んだ。
「さっさと委員会活動してきてください!!」
※※
作法委員。でした。
いまさらですが、宵闇での綾部の髪色は灰色っぽい銀色を想像してます。
・・・私の話食べ物ねたが多い気がします。
喜八郎については次で
back/
next
戻る