ドリーム小説










 宵闇 肆拾伍













昨日、ちゃんが保健室から退院したと伊作君が教えてくれた。

あの日あった以来結局合いに行く時間が取れなくて、あのときの疑問は疑問のままで。


退院したってことは今日から食堂に食べに来るはず。
そう思って準備を済ませて食堂に向かった。

あまり料理が得意ではない私はだいたいおばちゃんのお手伝いをすることになってる。

いつも思うんだけどもおばちゃんは何時に起きてるんだろうか。
私が行くころにはすでにお米がたかれているから。
割烹着をつけて邪魔な髪を上げて。

「おはようございます。」

「あら、おはよう雅ちゃん。」

おばちゃんの笑顔は本当に優しい。
まるでお母さんみたいに。

・・・ちょっとホームシックみたいになってる気がする。
うつむきそうになる顔を無理やり上げて胸元で手のひらを握る。

大丈夫私はまだがんばれる。

ゆっくりと息を吐き出して深呼吸をする。

と、吸い込んだ空気の中漂う甘い匂いに首をかしげる。

この、匂いって・・・

とくん

小さく胸が音を鳴らした。

まさか、という感情が駆け巡る。

そっとその匂いの元に近づけばそこにあったのは小麦色のお菓子。

とくん

さらに音が大きくなる。

これは、このお菓子、はこの世界に着てから一度も見たことなかったもので。

ど、うして、ここに・・?

頭の中でくるくると考えが回る。

あ、そうか。
しんべエくんの家からの届け物なのかな?

そんな考えはおばちゃんの言葉で一気に塗り替えられた。

「ああそれはねえ、4年生のある子が作ってくれたのよ。最近みんな大変だったから、少しでも体が休まるようにって。」

「4年生、ですか・・・?」

4年生ということは紫色の装束。

脳裏に浮かぶは彼女。



それはここのところずっと忘れることのなかった名前。


ひとつつまんで見なさいな。たくさんあるからかまわないっていってたわよ。

おばちゃんのその言葉にゆっくりとスコーンを摘み上げる。

さくりとした食感も、舌の上に広がる甘い味も、少し水分を取られるような感覚も。


すべてすべて懐かしくて、いとおしい。

雫でうるんだ瞳が世界を見るのを拒否するように、視界がゆらいで。

ほろりと涙が一つこぼれた。





















まどろむ意識。

何度か浮上しては再び深くへと引きずり込まれていく。


昨日は病み上がりなのに、町まで出て、さらには夜遅くまで作業をしていた。
そのせいだと思われる。
このように頭ではそろそろ起床時刻だとわかっているのにもかかわらず体が動いてくれないのは。

(お、きな、きゃ・・・)

わかってはいても体は実に正直で。


それでも

不意に部屋に現れた気配に今まで起き上がることさえ拒否していた体が、染み付いた反射によって戦闘態勢へと移る。

枕元にいつも置くようにしている小刀と服の中に常備しているくないを両手に構え、現れた人物に向ける。



「おはよう、。」

そこにはいつものにやりとした笑みを浮かべる紺色の先輩。
さらには部屋の前に水色の小さな二つの影が見えた。

「・・・・・・・・・・・・鉢屋、先輩?」

寝ぼけた頭で呟けばにこりと笑みをプレゼントされた。





「学園町の突然の思いつきだ。学級委員が借り出されることになってな。」

授業までのこの時間に少しでも手をつけないと、今日、明日は確実な徹夜になりそうだ。

苦い笑い顔。
それはこの先輩にしては珍しく。

今回は本当に面倒だと思っているようだ。

「先輩、お怪我のほうはもう大丈夫なのですか?」

「痛むところはありませんか?」


小さな二人の後輩が心配げに見上げてくる。

それに笑いを漏らして大丈夫だと返事してやれば、ほっと安心した顔。
正直だ。

この正直さは美徳であるが、忍びとしては不向きにも近い。

こんなときなのにそんなことを思ってしまう自分は順調に忍びへの道を突き進んでるようだ。



朝ごはんを食べる時間も惜しんで学園長の元へと向かう。




突然の思いつきは本当に辞めてほしいと思った。

心のそこから思った。





「委員会対抗で争奪戦を行う。」




とりあえず、準備するために学級委員はしばらく休みなしだなあ。















※※※
次から争奪戦はいります。
が、戦闘シーンあまりうまくかけないので結構早く終わるかもです。











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