ドリーム小説










 宵闇 肆拾睦
















一、 この争奪戦は委員会ごとで行う。

一、 時間は一日。明朝に開始し、その次の日日が昇るまでとする。

一、 場所は学園裏の山とする。

一、 札の数は全部で二枚。そのうち一枚は事務員補助の藤堂雅がもち、残り二つは開始前に籤にて決定する。

一、 人数、学年の差を補うために生物、学級、火薬には特別措置を行う。学級は生物と。また火薬はもう一つの札を持つ委員会と行動せよ。

一、 学級と生物は藤堂雅と共に行動せよ。

一、 また藤堂雅に怪我を負わした委員会は即失格とする。

一、 終了時に委員会全員が集まっていなくては失格とする。

一、 終わった際札を持っていた委員会に特別予算を与える。


一、 各自全力を尽くせ。









「基本的体形として学級委員は常に雅のところに。」

「生物は警戒を。」

「でもとりあえず、今は罠を張ることに集中しよう。」


それはまだ日が昇らない薄暗い中。

くじによって札を持つことになったのは、まだたちには解らない。

解っているのは火薬と籤を引き当てた委員会だけである。

すでに札を持つ委員会は山の中へと入っていた。

一刻後に札を持たぬものたちが入ってくる。
それまでに対抗できる準備をすること。
それが始めの仕事。

「私に、何かできることはありますか?」

場違いな甘い声。
それはその場の空気を柔らかく溶かす。

「大丈夫です、雅さん。これからきつくなります。今は体力を温存していてください。」

やんわりと、言った八左エ門に雅はそっと微笑んで、そっと目を落とした。

そんな姿を目の端に映し思い出すのは出発前のこと。






まだ日も見えない明けがた。
忍たま皆が校庭に集まっていた。

「「頑張りましょう!先輩!鉢屋先輩!」」

「・・・ああ。」

校庭に着いたら駆け寄ってきた二人の後輩にそう言われて。
そのきらきらとした目が可愛くて頭をなでてやる。

「今回の争奪戦。学園長も考えたねぇ。」

隣にいつの間にか立っていた三郎がぼそりといった。

「力なき者を守りながら、隙あらば敵の札を奪う。」

三郎が溜息を一つはく。

「さらに敵は複数。実力者ぞろい。も一つおまけに個性豊かですね。」

三郎に続けて口にするそれら。

「つまり、この争奪戦一筋縄ではいかない、ってことですね?」

庄がひょこりとこちらをのぞきこんで呟く。

「ああ。だが私たちは学級委員会委員長だぞ?負けるはずがない。」

にやり笑って告げるそれはとてもとても安心できた。

それに1年二人も笑う。

「僕は組の中で一番優秀ですから。」

「僕も頼りにしてくださいね、先輩!」

その言葉はとてもたくましい。


「俺たちも忘れてくれるなよ?三郎。」

その言葉と共に現れたのは銀色をもつ八左エ門。

その後ろには孫兵と1年生たちがいる。

にかりとした笑顔はとても頼もしい。

「もちろん。頼りにしてるさ、八。」

ぱちりとそれぞれ手を打ち合わせて笑いあう。

「頑張ろうね!庄ちゃん。」

「うん。」

「一平、頑張ろうな!」

「そうだね、彦四郎。」

それぞれ後輩たちも意気込んでいて。

それをほほえましく見ていれば目が合った一人の後輩。
ほとんど話したことはなかったけど、その噂はよく聞いている。

「よろしくお願いします。先輩。」

「ああ。よろしくな、伊賀崎。__と蛇さんも。」

その首に巻きついている毒々しいほどに美しい色をした蛇のじゅんこにも挨拶して。

「・・・じゅんこ、です。」

「じゅんこ、だな。うし、覚えた。よろしくなじゅんこ。」

そっとその体をなでてやる。

気持ちよさそうに体をよじる姿は可愛い。
孫兵の目もそれを見てから心なしか優しい。

「さて、行こうか伊賀崎。」

「・・・孫兵、と。」

三郎の下に歩き出そうとすればこぼされたそれ。
恥ずかしげに下を向くその姿に笑みがこぼれる。

「じゃあ俺も、でいいよ。」

「はい、先輩。」

身長があまり変わらない、(むしろのほうが小さいくらいだ。)孫兵の頭をさっきじゅんこにやったみたいになでてやる。
ふにゃりやわらかくなったその顔は年相応だ。


「「「あ!雅さん!」」」

孫兵と和やかな会話をしているときに聞こえたそれ。

生物の1年生の声にそちらを向けば困った顔をした彼女がいた。

「ええと・・・」

彼女事態も今回のいきなりの参戦に戸惑っているのだろう。
苦笑が見て取れる。

「安心してください。俺たちがちゃんと守りますから。」

八左エ門が雅に近づいてその頭をわしゃわしゃとなでる。

「雅さんっ、僕たちもいますよ!」
「だから安心しててください!」

虎若の三治郎の言葉にふにゃり、彼女は微笑んで。


ふいにその視線が、に注がれる。

「よろしくおねがいします。藤堂さん。」

無視するわけにはいかない。
あえて誰も呼ばない苗字で名前を呼んで。

・・・そうして距離をとろうとしたのに。

「こちらこそよろしくね?ちゃん。」

「・・・・・・は?」

聞きたくない呼び方に思わず間抜けな声が漏れる。

「タカ丸さんが呼んでたから・・・だめ、かな・・・?」

しゅんとした表情でうつむきがちにそう呟く雅。
さらには攻めるような視線が下級生たちから送られて。

「・・・・・・・・・・・・・・どうぞ、ご自由に。」

後輩たちのそんな視線に耐え切れず彼女の目を見ずにそう答えた。

「ありがとう!」

すぐ後に言われたその言葉。
それは彼女が口に出すと少し違ったものに聞こえて。

ふいにその表情を、見たい、と思ってしまって。

そっと顔を上げた彼女と目が合うことはなかったけれども。

その横顔に浮かぶ不安げな顔に、握り締めた腕の震えに、どこか違和感を感じた。







違和感は漠然としたもので。

でも、突き詰めるには些細過ぎて。



作戦を練る合間にちらりと見た彼女の顔に浮かんでいたのは____





「じゃあ、そのとおりで行くぞ。」

三郎のその言葉で作戦会議は終わり皆それぞれ罠の準備を始める。

さらには三郎は居心地悪そうにしている雅に向き直って言った。

「雅は私たちが必ず守るから。安心して。何かあったら大声で私の名を呼んで?」

あまりにも優しいその顔は、慈愛に満ちて、愛しげで。


雅は顔を微かに染めて深々と頭を下げた。

「足引っ張ると思うけどよろしくね。」

も罠を張る手伝いをしようと動き出した瞬間くい、と後ろにいた三郎に首元を引っ張られて。


抗議の声を上げようとした矢先、耳元でささやかれた言葉に先ほどの雅同様顔が赤くなるのがわかった。

さらり頭をなでて、先に進んでいく背中を見やる。

「気づいてなかったと思ってたのに・・・。」

その言葉と優しさは反則だ。




『その飾り紐。思ったとおり、に似合ってる。』





こうして長い一日は幕を開けた。













※※※
難産・・・。
本当に難産。
しかも空気がいっぱい・・。
さて、いけどん!












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