ドリーム小説






 宵闇 肆拾漆


















「____いっけいけどーんどーん!!」




「・・・・・・・・来たな」

「・・・・・・・来たなあ」

「・・・・・・・・来ましたね」

「・・・・・・来てますね」

「・・・こへくんの声?」

異口同音。
まさしくその言葉が似合う。
5年生と、孫兵の声がかぶる。
さらには雅のきょとりとした声も聞こえてきて。

忍びなのにまったく持って忍ぶ気配を感じさせない体育委員長はいつものとおり全速力でこちらに向かってきている。

見事に罠をさけながら。

見事なまでに委員長の暴走だ。

(さすが暴君。)

思ったのはだけではないだろう。

「・・・・・・・・あの人もう忍びの域こえてますよ・・・」

「本能のままで突っ走ってるな。」

の言葉に八左エ門が淡々と返事する。

「・・・・・・金吾、生きてるかなあ。」

ぼそり聞こえた三治郎の言葉。
なんともしゃれにならない。

「ちょ、先輩!!早いです!金吾が付いてきてません!っ、てしろべぇ〜?!そこは罠だ!!っっさんのすけええええ!!!!そっちにいくなああああ!!!」

「・・・・・・・・」

(ご愁傷様だ、滝。)

脳裏に簡単に浮かぶ滝夜叉丸の姿。
苦笑を漏らす。

「・・・やばいあの滝夜叉丸が不憫に思えてきた・・・。」

「・・・俺も。」

三郎が口元に手をやって微かに潤んだ瞳でそういった。
(ちなみに潤んでいるのはあまりの不憫さに対してではなく、純粋にあの滝夜叉丸に大爆笑しているからだ。証拠に肩がものすごく震えている。)
八左エ門もぼそりと呟いて。

「金吾〜!!?死なないで!!」

金吾の生存を望む叫び声は虎若のものだ。

「七松先輩全員そろわないと失格ってこと忘れてますね。完全に。」

「庄ちゃん冷静!」

庄左衛門の言葉に突っ込む三治郎。
こんなときでも庄左衛門は庄左衛門だ。

「あ、あれ、大丈夫なのかなあ・・・」
「大丈夫だと思う、よ?・・・たぶん。」

ちなみに一平の顔は蒼白だ。
孫次郎は苦笑しながらそう返す。
心なしか彦四郎の顔も引きつっている。

「三之助こんなときでも相変わらずだな・・。」

「三之助ですから。」

孫兵は当然とばかりにじゅんこをなでてそう言った。



どんどん近づいてくる声に緊張感は高まるはずなのに、あの先輩相手に一筋縄ではいかないはずなのに、なんともいえない空気が辺りを包む。

「・・・とりあえず、ここまで来た場合に備えて、というか確実にたどり着くだろうけど・・・どうする?」

「この中で一番七松先輩とまともにやりあえるのはお前だとおもうんだ八。頼りにしてるぞ。」

「え”え”俺?!」

八左エ門の問いにものすごくいい笑顔で八左エ門の肩を叩いた三郎はそのまま次の配役に回る。



「1年生は、雅さんのそばに。」

「はい!」
「解りました。」
「雅さん、僕たちがちゃんと守りますからね。」
「頑張り、ます・・・」
「頼りにしてください、ね。」
「まかせててください!」

彦四郎、庄左衛門、三治郎、孫次郎、一平、虎若。

皆が皆瞳を輝かせてそういった。

まるでお姫様を守る騎士のように。

「う、うん。よろしくね?頼りにしてるよ。」

微かにこわばった表情を必死で笑顔でかくして。
そんな顔を横目で見ながら体を慣らすために動かす。

怖いのだろう。
恐ろしいのだろう。

以前のことを思い出して。







先ほどまで聞こえていた小平太の声がうそみたいに静まり返る。


ゆるりとしていた空気がぴんと張り詰めたものに変わる。

周りの罠が発動された気配は、ない。


「はちっ!」

「っ、くっ!!」

声と同時に八左エ門に向かって放たれた戦輪を三郎がくないで叩き落す。

一瞬の残像と共に現れた暴君はにやり、獣のように笑った。

三郎と八左エ門の前に現れた暴君はそのまま二人に攻撃を仕掛ける。
それに加勢に行こうかと一瞬悩んだの前に現れたのは同じ紫。

その紫は自らを学園一というだけの実力を持っていて、戦うとなればが圧倒的に不利だ。

滝夜叉丸の戦輪には無難にくないをもって応戦する。
じりじりと力比べ。

「悪いな、!これも勝つためだ。」

「遠慮はいらないよ。俺が勝つからな。」

滝夜叉丸の言葉にそう返して。

キィンと響く金属音。
それは三郎たちでものものでもなく。

つまりそれは彼女のいる方向だ。

それは誰が放ったものか。
わかりはしないが今彼女のそばには幼いながらも彼女を守る人がいる。

ならば、はこちらに集中しなければいけない。

いつもであれば、柔らかな抵抗を使い攻撃をするだが今は先日の怪我が治ったばかりのせいで、あまり力が出なくて。
でも、ならばそれを利用するのみ。
力を入れあっていたくないを緩め、わざと後ろに倒れる。
それにつられてこちらによろけそうになった滝夜叉丸の腹に思い切り足蹴りを食らわして。

「っぐ、」

微かにうめくが咄嗟に下がったおかげであろう、倒れるまでは行かなくて。

そのの横を誰かが通った。

「後は任せてください、先輩。」

孫兵はそういうと一瞬で滝夜叉丸のそばに降り立った。

「日頃いろいろお世話になってますから。滝夜叉丸先輩には。」

「いいだろう。かかって来い、伊賀崎。」

そんな会話が聞こえてくる。
滝夜叉丸は孫兵に任せて、は状況を把握する。




三郎たちを見ればそこはあまりにも激しい攻防。
目で追いきれないほどのすばやさで三人は相対していて。
見なかったふりをして視線をはずす。

油断なくあたりを見据えて。

小平太と滝夜叉丸、そのほかには四郎兵衛、金吾、三之助がいる。

そのうちの二人、
金吾の相手を虎若と三次郎がしていて、四郎兵衛の相手は彦四郎と庄左エ門が。

雅さんのそばには一平と孫治郎がいる。


(ならば俺は__)

ひゅ

一瞬で狙いを定めた黄緑に近づく。
相手が振り返る前にくないをおろすがさすがに読まれたのかぎりぎりではあるが防がれて。

先輩じゃあないですか・・・」

「三之助。俺が相手してやるよ。」

にやり、笑って彼女との間に入り込む。

対峙してみれば体格の違いがよくわかる。
だが、

「三之助、俺はまだお前に負けるつもりはないよ。」

告げてやれば三之助もにやりと笑って言った。

「お手柔らかに頼みますよ。」


懐から取り出した手裏剣を投げつけて、よけた方向へくないをもって突っ込む。
それを同じようにくないで防いだ三之助。

やはり、力では押し負ける。

ぱっともっていたくないから手を離す。

微かに驚いた気配。

そうして一瞬でしゃがみこみ足元を崩す。

体勢を整えようとした三之助にいつのまにかこちらに来ていた孫兵が容赦なく襲い掛かる。
体格の差はあれども孫兵の動きはなかなかすばやい。

しかも二人がかりとなればいかに強い三之助でもすぐに追い詰められて。

体勢を崩した三之助の襟を掴み、

「でりゃ!」

持てる限りの力を使い、思いっきり投げ飛ばした。

その姿は見事に宙を舞い、そうしてここから結構離れた草むらに姿を消した。


「次屋先輩いいいっ!!!」

それを見ていたのであろう四郎兵衛の声。
それに何事かと周りの面々がこちらを向く。

四郎兵衛が慌てて三之助が飛んで行った茂みに駆け寄り掻き分けその姿を探した。

が。


「・・・・・・・・・・・・・・滝夜叉丸先輩いい・・・」

絶望に襲われたような顔をして、四郎兵衛が滝夜叉丸をみる。

「・・・まさ、か・・・」

滝夜叉丸も腹を抑えながら立ち上がり、最悪な状況を想像する。

「・・・次屋先輩が、いません・・・」


それはまるで死の宣告のような顔で。


「____金吾!四郎兵衛!撤収だ!三之助を探すぞ!」

「「はいい・・・」」

そうして七松先輩たちの方向を見て、止まった。

「・・・・・・・・・・」

「はいれないよなあ、あの中にはさすがに。」

の言葉に最もだというように頷いて。
それでも止めないわけには行かなくて。

「七松先輩!!三之助が行方不明です!」

大声で叫んで。
それに先に反応したのは三郎と八左エ門。
小平太は聞こえているのか、いないのか、無反応だ。

「「「七松先輩!」」」

三人の必死な声に小平太はようやっと気づいてくるり振り向く。
三郎が最後にと、放った蹴りを見事なまでに防ぎながら。
先ほどまでの殺気はどこへ行ったのか。

「どうしたんだ?」

「三之助が消えました・・・。」

滝夜叉丸のげんなりとした様子に小平太は完全に動きを止めた。

「三之助がか?まったく、あいつはじっとしていたためしがないなあ。よし!先に探しに行くぞ、三之助を!全員いなきゃ失格だからな!」

そうして三郎たちを見やり

「また後で来るからな!」

とだけ告げて再びいけいけどんどんと叫びながら木々の間に消えていった。

それをうなだれながら付いていく体育委員の面々。

体育委員でなくてよかったとそこにいた皆が心のそこから思った。

「・・・またくるそうですよ。」

「もう勘弁してほしい・・・。」

「同感・・・。」

へなへなとうなだれてしゃがみ込むと三郎と八左エ門はそういい大きな溜息をついた。



















※※※
ええと。
とりあえず体育・・・。
ながいね。
次は短いかと。
ちなみに、滝夜叉丸が孫兵にやられたのは、のけりが思いのほか大きなダメージを与えてたからです。
んでもって、滝自身が怪我したを無意識で気遣っていたため、と言う裏設定。













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