ドリーム小説
宵闇 肆拾捌
体育委員が来た後は音沙汰なく平和的に進んでいた。
皆がこれからに備えて体を休ませている。
特に三郎と八左エ門の疲労は大きいようで(精神的にも、体力的にも、だ。)始まったばかりにもかかわらず、ぐったりとした空気をかもし出している。
(そのそばでは雅がかいがいしく世話をしている。)
それならば今一番動きやすいのがだ。
1年たちに任せるわけにはかない。
ということで、今警戒している孫兵と交代すべく立ち上がった。
「孫兵と代わってきます。」
三郎が頷いたと同時には木の上に飛び上がる。
あたりは獣たちの気配以外には何も感じない。
でも油断は禁物だ。
忍びは忍ぶものだから。
さらにいえばはまだ4年ほど忍術の学園で学んだだけの卵である。
自身に気づけないものなど五万とある。
「孫兵、交代するぞ。」
木の上でじゅんこと戯れている孫兵に声をかける。
こちらには気づいていたのだろう。
うなずいて立ち上がる。
と、するり、じゅんこが孫兵の首元から降りてへと向かってくる。
手を差し出せば上ってくるその姿は愛らしい。
ちらり、孫兵を見れば、なんともいえない顔をしていて。
「少し、じゅんこと一緒にいてもいいか?」
尋ねれば瞬時した後こくりうなずき、皆がいる場所へと向かっていった。
「じゅんこ、お前の主人は素直ないい子だな。」
呟けば、そのとおりとでも言うように体をこすり付けてきた。
ゆっくりと目を皿のように細くして周りを見る。
じゅんこを腕に巻きつけたまま、は警戒態勢に入った。
ふ、と目の端に映ったのは灰色の煙。
それと同時に鼻に付く火薬の匂い。
それは作法の立花仙蔵のものか、または会計の三木エ門のものなのか。
見当は付かないが、それはまだ遠いところのようで、ひとまず胸をなでおろす。
成績優秀、冷静沈着、焙烙火矢の名手。
そんな彼が率いる作法委員は半端ない。
罠が得意なものが集まり、さらには喜八郎までがいる。
できたらお目にかかりたくはない。
ちなみに他のどの委員会が札を持っているのかまだわからない。
ただ体育委員に火薬委員が付いていなかったことから、体育委員は札を持っていないのだけは確かである。
ふ、と息を吐き出して、腕に居るじゅんこを撫でて、そうして下から微かに聞こえてくる彼女の優しげな声を聞こえないふりをした。
あのことがあったからといって、には彼女に優しくするつもりも、馴れ合うつもりもなかった。
不意に、空気が変わった。
きっと、三郎たちも気づいた。
目を凝らす。
と、
がたんっ
その音が響いたのはどこからだったのか。
一気に緊迫した空気になるその場所。
雅を守るように皆が体勢を整える。
「___っ、___。」
微かに聞こえだす声。
それは最悪のものではなく。
「作兵衛___、罠だ。引っか__なよ。」
「解って__す。それよりも先輩、1年のほうが__す。」
「「っわあ!?」」
聞こえてきたにぎやかな声は、恐らく、用具のもの。
そう。
文次郎と同等に戦えるくせに、何故か保父さんといわれることの増えた彼だ。
「っ!」
「っ、しんべエ?!喜三太、平太!!」
がたんがたん
先ほどよりも大きな音がなって。
「「先輩、ごめんなさあい!」」
「・・・いや、無事ならいい。」
「っ、食満先輩っ、腕、切れてます!」
「ああ、これくらいどうってことはないさ。」
「「・・・・・・・・」」
「なんというか、なあ。」
木からおりて、その声を皆で聞く。
口を開いたのは勇敢にも三郎だった。
「ほほえましい、ですね・・・」
それはもう、思わずが口に出して言うくらい。
「留くんところはみんな、かわいいね。」
雅さんの無邪気な声に、その場にいた1年がさわぎだす。
「雅さんっ、僕は僕は?可愛くないんですか??」
「用具だけですか?」
焦る焦るその言葉たちに、雅は天女のように笑って答えた。
「私にとったら、みんなみんな可愛い、よ!」
それはあの6年たちも可愛いと言うことなのか、彼女の言うことには時折疑問を抱く。
「・・・・・・鉢屋先輩」
「なんだ?。」
「藤堂さんの変装とてもよく似合ってますよー」
「そんな棒読みで言わなくてもいいじゃない!ちゃんのいじわるう。」
目に入った三郎の姿に思わず突っ込めば、鳥肌が立つほどの甘い声が返ってきた。
あたりにほんわりとした空気が充満してきたとき、聞こえてきた新たな声。
それはただただ、脱力するようなものであった。
「乱太郎!そこには罠がっ、っうわあ!?」
「三反田せんぱっううぇええええっ!!??」
「左近っ、いぃっ!!??」
「うわあああ!!!?」
「善法寺せんぱあい!!」
「うわっ、伊作?!」
「うわあ!三反田先輩が乱太郎に注意を促した瞬間、自分の足元がおろそかになって穴に落ちた!!」
「それに気づいた乱太郎が引き返して助けようとしたけど、躓いて先輩の上に落ちて二次被害だ!」
「さらによろけた川西先輩を支えようとした善法寺先輩が罠にかかって!」
「川西先輩も巻き込まれた!」
「伏木蔵が困って留先輩に助けを求めて、さらに巻きこまれたあ!!」
たとえるならば、阿鼻叫喚。
見事に解説をして述べたのは、用具委員の者たち。
「乱太郎、さすがだねえ・・・」
「それほめてないよ、三次郎・・・」
「保健委員は相変わらず保健委員だな。」
「庄左衛門、さり気にひどいんじゃないか・・?」
「伏木蔵・・・大丈夫・・・じゃない、気がする・・・」
「帰ったら、手当てしてあげないと、ね・・・」
「これは明らかに、ここまでたどりつかないですね。」
「俺もそう思うよ。」
「留くん大丈夫かなあ・・・」
「留くんは大丈夫だと思うよ?けど、伊作くんがね・・・」
「なんていうか、雅さんが二人いるのは、なれないんだが三郎・・・。」
こちらもなんだか無法地帯のようになっている。
そう、保健委員会によってしんけんな空気は見事に破壊されたのだった。
※※※
なんか緩んだ空気になった・・・。
三郎は雅に変装中。
下級生たちの把握が間に合わないっ!!
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