ドリーム小説
宵闇 伍拾弐
「うわわ!」
目の前に突き刺さるのは手裏剣たち。
容赦なくくる攻撃によけるのが精一杯。
というか、よけられていないのも多い。
体にはいくつもの傷ができてる。
「どうした、斉藤?動きが鈍いぞ?」
微かに潮江くんの言葉が頭に来る。
これでも必死なのになあ。
「ちょ、わ、潮江君、容赦ないね、え〜!」
「忍たるもの驕る事は三禁に触れるからな。」
いやみを込めた言葉でも、この人には伝わらない。
本当に、やになっちゃう。
立花くん、僕めげそうです。
はやく兵助くん、来てくれないかなあ・・・
他力本願と言われようと、こればっかりは仕方ないと思うんだよね。
そんな無駄なことを考えていたからか、いつの間にか目と鼻の先に潮江くん。
「っつ!」
本能的に動いた腕が腹を防御することに成功するが、結構な勢いで飛ばされる。
「っと!」
「っ!?」
「・・・?」
木にしたたか体を打ち付けるのだろうと思って体をできる限り小さくしていれば、走った衝撃は思いのほか優しくて。
不思議に思い顔を上げれば、そこには蒼色と水色。
「大丈夫ですか?タカ丸さん?」
さらり黒髪をなびかせて。
「後でちゃんと、手当てしましょうね!」
幼い笑みを浮かべて。
「兵助くん、兵太夫くん」
「私もご一緒します。」
頼りになる年下の先輩が
「僕も頑張ります!」
頼もしい後輩が
「「よろしくお願いしますね、潮江先輩」」
どうしようもなくうれしかった。
焙烙火矢で悪くなった視界。
それでも向かってくる何かは、わかる。
その方向に手裏剣を投げて、そのせいでばれたであろう場所をすぐさま移動する。
近づく手裏剣を容赦なく叩き落して。
煙の中から出れば、すぐさま攻撃がくる。
かといってここに居ても結果は見えている。
ならば、来ていた着物を脱ぎ去り、煙が晴れている側へ放り投げる。
投げた方向に向かう刃の音に、そのまま飛び上がり、木の上に着地する。
下を見れば、すぐにおとりだとわかったのだろう、立花先輩がこちらを見ていて。
そのまますぐに次を構える。
厄介な先輩につかまったものだ。
そうは思いながらも、心は湧き立つ。
体が喜びに震える。
強い相手と、戦えること、に。
改めてその目と向き合った。
投げた焙烙火矢によって視界がさえぎられる。
が、私にはまったく何の障害でもない。
慣れたその煙の中、微かな情報を頼りに鉢屋に近づく。
すぐさま放たれてきた手裏剣をくないで叩き落し、正確な方向がわかったそこへ、手裏剣を放つ。
もちろんもうそこから移動しているだろうから少々角度を変えて、だ。
微かにした金属音にさらに正確にわかった方向へと向かう。
不意にちらりと見えたのは女物の、着物。
先ほどまで鉢屋が着ていたそれだ。
明らかにおとりとわかるそれだが、万が一を考えてそれに刃を打ち込む。
やはり想像していたとおりおとりであったその着物を手にして、木の上を見る。
逃げるとしたら、上、だ。
思ったとおり、そこには月色ににじむ、蒼色が一つ。
さて、次の手を打とうか。
そう思い構えた。
その瞬間__
空気を切るのはが先ほどまで懐に入れていた手裏剣たち。
それを喜八郎はいとも簡単にてっこちゃんで受け止める。
手裏剣と同時に進行を開始したが手裏剣よりも一歩だけ遅れて喜八郎に襲い掛かる。
それを予想していたのだろう。
やんわり、しかし結構な力技で喜八郎は避ける。
よけられることなど承知していたは体を沈め、柔軟な体を使い下から跳ね上がる。
だがその勢いを殺すように喜八郎も飛び上がって。
なれば空中で体勢が悪いであろうそれに再び攻撃を仕掛けんとすれば、そこには足で木を蹴り、こちらに戻ってくる姿。
おまけに猛スピードだ。
慌ててよけるがてっこちゃんがの行く手をさえぎるように投げられて。
体をひねればよけられるが、そうすればその隙を思い切り攻められる。
「っち!」
逃げられないのだから受け止めるしかない。
いなすこともできず受け止めたそれは重い。
もともとの力の差どころか、喜八郎は体全体の力を使っていて。
対するは腕の力。
負けるのは当然。
「!」
痺れる手先。
痛みを訴える腕。
耐え切れなくなりそうで早々と体勢を崩す。
力を抜いて、喜八郎の下に回りこむ。
そのまま喜八郎の体を持ち上げ投げつける。
力が入らない腕ではあまり遠くへ飛ばすことはできなかったが、それでもどうにか体勢を変えることはできた。
確実にしばらく使い物になってくれない腕を振って痛みを飛ばす。
「今ので、腕痛めたでしょ?。」
無表情で首をかしげて喜八郎はそういった。
「だったらどうだと?」
力で勝てないのに、解っているのに、やはりそれは悔しくて。
くないを逆手にもちかえて、一気に詰め寄る。
力は入らないが、体はまだ動く。ならば、力をいれずに倒せる急所を狙う。
首筋をめがけて腕を振るった。
その瞬間
「はい、私の勝ち。でしょ?。」
気づけば背に冷たい土の感触。
腕を掴まれて反転した世界。
頭がその状況を拒否する。
ぐっと身動きができないことに悔しさがにじみ出る。
焦って行動しすぎた。
いまさらに浮かぶ後悔の念。
目の前、否、目と鼻の先には整った無表情の喜八郎。
首の横にはくない。
横たわった頭の上にはてっこちゃん。
さらには体の上には喜八郎その人。
押しかかられるようにしてしまえばもう身動きはできなくて。
きっと目の前のその目をにらみつける。
そんなものに動じない喜八郎。
だけども微かに口元を緩めて。
そして言った。
「僕の勝ち、だよ。」
力の差は歴然
素早さと柔軟さで補っていた体術もあっけなく捕らえられた。
「・・・ねえ、。」
悔しくて、その目をまっすぐ見れなくて、目をそらす。
「あまり怪我をしないで」
耳元でささやかれたそれは優しくも重くに降り注いだ。
「・・・・・・」
ふと落ちた沈黙に、違和感にそっと喜八郎を見ればその視線はの頭にあって。
どうしたのかと尋ねようとすれば先に口を開かれて。
「その髪紐__」
「・・・ええと、鉢屋先輩が、くれた。」
「・・・・・・」
むっとしたその顔に首をひねれば喜八郎が先ほどまで頭をくくっていた髪紐を解いていた。
「喜八郎・・・?」
ぱさり肩にかかった喜八郎のその髪は重力に従いにもかかる。
すこしくしぐったくて身をよじる。
それをまったく気にしない喜八郎は淡々と告げる。
「次から、これ、つけて。」
そういって渡されたそれ。
条件反射で受け取る。
声を出そうとした瞬間、この場に近づく新たな気配を感じて動きを止めた。
喜八郎を見上げればすでに立ち上がっていて。
とかれた髪が月明かりにとける。
ふわふわとしたその髪は喜八郎が動くたびに揺れて。
思わず見とれた。
でも、それも一瞬。
辺りを見れば今彼女のそばに居るのは、少数の下級生たち。
早くその場に向かわなければ、そんな思いに駆られて走り出す。
手に持っていた紐をとりあえず腕に巻きつけて。
「きゃあっ!?」
彼女のそばに行ききる前に、彼女のそばに現れた蒼い獣。
それはいとも簡単に彼女を抱き上げた。
「っち、藤堂さんっ!」
手を、伸ばした。
そうして、その手に、触れた。
否
触れようと、したのだ。
でもそれは一瞬姿を消して。
の手は、触れた、のに
それは、するり音もなく、
彼女の手に触れたはずのそれは、
す り 抜 け た
驚きと恐怖に染め上げられた彼女の目。
それに言葉を発することもできずに彼女を見送ってしまう。
ただ、早鐘を打ち始めた心臓をなだめるのに精一杯で。
「きゃあっ!」
「っ、雅さんっ!!」
振り向けばそこには月明かりににかり微笑んだ蒼い獣。
その足元には屍のような後輩たち。
が彼女に近づき手を伸ばしたのが見えた、が、それはないもののように。
青い髪がふわり舞いそのまま姿を、消した。
「・・・・・・」
私たちの間に流れたのはただただ静寂。
その一拍後叫んだのは立花先輩と私だった。
「・・・っ、小平太ああああ!!!」
「はああああああああああ!?」
その声にびくり、今まで戦いを続けていたものたちも動きを止めて。
「鉢屋!何故もっとしっかりと見ていなかった!?」
「そんなこと言われたところで、あんただってそうでしょうが?!」
立花先輩の言葉に必死で抵抗を示す。
あんただって、気づかなかったでしょうが?!
まさか、あんなところで七松先輩にじゃまをされるとは思わなかったのだ。
「久々知!!雅が小平太に連れていかれた!追うぞ!!!」
その声に動き出した作法、火薬のものたちにただただ見やることしかできなかった。
あたりに散らばる後輩たちの屍に
「札、取られたな。」
いつのまにか起き上がっていた八の言葉に
「予算アップ、なくなりましたね・・・」
後輩の孫兵言葉に
ゆっくりと明るくなってきた空に。
「・・・・・・」
何も言わずにうつむくに。
皆の間をただ冷たい風が吹きぬけた。
うつむいたまま、早鐘を打ち続ける心臓を必死でなだめる。
体中を駆け巡る嫌な感覚。
あれは、彼女の手に触れられなかったんじゃなくて、七松先輩が触れる前に彼女を連れ去ったからだ、そう、それだけだ。
必死にそう言い聞かせて。
そ れ に 、 気 づ か な い ふ り を し た
※※※
わかりにくいきがします・・・。
ええと、雅の手を掴んだけど、すり抜けたんです。
うん。はい。
きゃらが多すぎて、収拾が付かないので、これでひとまず争奪戦終了!(はやっ!)
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