ドリーム小説
宵闇 伍拾参
学級委員長委員会
その活動内容は様々であった。
そして今日。
いつもであればそんなに多くの仕事がない委員会である、学級委員長委員会は他の委員会が活動をやめたときにも、珍しく活動を続けていた。
先日の学園町の思いつき、『委員会別対抗、予算争奪戦』
その事後処理に追われていたのだった。
「・・・・・・・。」
「庄、火薬委員会の残りはやっておく。生物委員会の報告書のほうを始めてくれ。」
「わかりました、先輩。」
「・・・・・・・。」
「彦、用具委員会のはややこしいから後回しでいい。先に図書の方を終わらすぞ。」
「はい。先輩。」
「・・・・・・・。」
「・・・・鉢屋先輩。」
「ん?なんだ?」
「傍観してないで、手伝ってくださいよ。」
せわしなく筆を走らせる二人の一年生の間で同じようには筆を走らせる。
そのたちの正面。
そこには学級委員長委員会委員長である鉢屋三郎が寝ころび寛いでいた。
「だいたいですね、」
「先輩、ここはどのようにしましょうか。」
「鉢屋先輩が_ああ、ここはこうだ。」
「ありがとうございます。」
「いや、かまわない。__本気になればすぐに終わらせられるでしょう、これくらい。」
「先輩、ここの計算がおかしいのですが・・・」
「それにですね__ん?見せてみろ。・・・ああここだ。」
「あ、本当だ!ありがとうございます。」
「次は気をつけろよ?__後輩たちがこんなにも頑張っているのに、何故先輩は__ああ、彦そこ字間違っているぞ。」
「わ、本当だ!すみませんっ。」
「俺もよくやるからな__そんなところで俺の顔を真似してるのですか?」
「いやだな。真似ではなく変装だといってくれ。それと私としゃべるのか庄たちとしゃべるのかどちらかにしてくれよ。」
「え、そこですか?突っ込むのはそこなんですか?!」
「しかも、質問の答えじゃないですよね、それ?!」
「・・・後輩たちのよい手本となってくださいよ、先輩・・・。」
「何を言っている。十分いい手本がいるではないかここに。」
はあと溜息をつき、再び書類に目を戻す。
こうなれば三郎はなかなか動いてくれない。
付き合いの長さにより、なんとなく把握している先輩の性格。
ここでへんに構っては、よりいっそう動いてくれないのだ。
三郎を視線に映さないようにして筆を進める。
「にしても、。お前の変装は誰よりも難しいな。」
「・・・はい?」
筆が走る音だけが響く静かな部屋にぽつり、落ちたのは三郎の言葉。
その言葉に無意識に向けた瞳。
「ふむ。理由はわからないが、とてつもなく難しいんだ。まるで
此処にあるはずのないもの を無理やりに形にしているかのようだ。」
「っ!」
手に持っていた筆が動揺に揺れる。
背中がぞくりと震える。
三郎の目は鋭くを射抜く。
嘘は許されないであろうその瞳はあまりにも美しく、恐ろしい。
「鉢屋先輩にもやりにくい変装なんてあるんですね?」
庄左ヱ門の言葉によってそれた目にほっとする。
(この人は何て、怖い。)
まるで無意識下で判断でも下すように。
射すくめる目は、真偽を問う。
その姿は、まさしく
し の び
そのもので。
「あたりまえだろう。私とて人間だ。得て不得意ぐらいはあるぞ?」
その声にはっと意識を向ければそこには後輩たちと笑い合う三郎。
「ひいぃっ!?先輩っ、伝子さんの顔して迫って来ないでくださいぃっ!!」
「彦四郎っ、僕の後ろに隠れるなよ!!」
___こんな姿を見れば、先程のは錯覚だったのかと思うけれども。
再びに変装を解いた三郎のその瞳が向けられる。
それに思わずびくりと体を振るわせれば、ふっと優しく笑う三郎の姿。
「それにしても。」
「・・・なん、ですか?」
「その髪紐、まるでのために作られたみたいだ。」
「・・・へ」
予想もしなかったその言葉に、思わず間抜けな声が漏れた。
「確かに、先輩、とっても似合ってますよ!」
「誰かからの贈り物ですか?」
後輩二人からの賞賛の声にじわじわと顔が朱に染まるの感じた。
「っ、ありがとう、ございます・・・二人、も・・・」
そんな顔を見られるのが恥ずかしくて顔を伏せてそう答えた。
かたん
そのときの耳が小さな音を捉えた。
がわかるということは、三郎はもっと早くわかっていたのであろう。
その隠しもしない気配を、無防備な音を、この学園で出すのはたった一人しかいない。
「先輩、俺ちょっと厠行って来ます。」
顔を上げないまますっと立ち上がり襖に手を掛ける。
そして振り返らずに三郎に告げると音もなくその部屋を出た。
あの人に見つからないように。
近づいてくる気配を避けるため木へと上る。
そうして、その人がそこから消えるのを待つつもりだ。
お盆にお茶とおにぎりを乗せ、それを零さぬようにと歩く彼女。
それを眼下で見ながら息を殺す。
「失礼しますね。」
鈴のような声と比喩するに相応しいその人は、襖を開けて中へと入っていった。
中から聞こえる談笑に知らず溜息が出る。
先日、争奪戦で彼女と一緒に行動してから、はさらに彼女に近づくのを恐れた。
とても、怖いのだ。
あの時、彼女の手を掴むことのできなかったことが、何かを暗示しているようで。
「「雅さん!」」
「お、雅。夜食もって来てくれたのか?」
「うん。お仕事大変だって聞いたから。・・・私にできることなんてこれくらい、だから・・・ね?」
「うれしいです!雅さん!」
「僕もです!」
中から聞こえてくる談笑に、居場所を奪われた感覚に陥った。
つきりと痛む胸元をぎゅうっと押さえて。
「雅が持ってきてくれたんだ、少し休憩にしようか。」
「あ、でも先輩が・・・」
「うーん。たぶん帰ってくるの遅いから、先に食べておこう?」
が彼女を苦手だと、三郎は何も言わずに解っていた。
三郎なりの優しさに、痛みが和らいだ気がした。
見上げたそこにはの気持ちのような欠けた月があった。
そして争奪戦から二日後。
学園の最上級生である6年生たちは学園に依頼された忍務を受け、学園を出発した。
※※※
さて佳境に入ってきました。
結構早く終わりそうかも?です。
もうしばしお付き合いくださいませ。
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