ドリーム小説




 宵闇 伍拾肆








いつからだったのかは、解らなくて。

ただただ、そのときが近づいているのだと、漠然と感じていたの。




真っ白なそこは優しくも恐ろしく私を包んでて。

何かが手招きするように優しい風が吹く。

とても懐かしい匂いと心のそこから何かを叫びたくなるような衝動に駆られ。

でも、そこに行くのは何故かためらわれて。

その場所に向かうのには勇気がいって。

「   」

不意に聞こえた優しく私を呼ぶ声。

「   」

何度も何度も、誰かの、声。

でもその声が誰のものなのか、思い出せないの。




そこで私は目を覚ました。




毎日毎日続く夢。

何の変哲もない、ただの夢。

そうただの__


ゆるりゆるり

時間は、めぐる。




そうしてある朝私の体は 透けていた。



驚きと恐怖と、でもそんな中で微かにああやっぱり、と思っている自分も居て。

呆然と透ける手を見つめていたら、留くんが私を呼びに来てくれた。(透ける手をそっと隠した)


その日委員会対抗争奪戦が行われるということで、それに何故か私も参加することになってて。


校庭に向かえばそこには学年様々な生徒たち。

皆が皆私を見たら笑顔で駆け寄ってきてくれて、優しく微笑んでてくれて、声をかけてくれて。

そんな子達の顔を見ていたら、夢のことなど忘れて笑うことができた。


彼、否彼女に会うまでは。


「「「あ!雅さん!」」」


『学級と生物と一緒に』


そういわれていたので学級の子達を探していれば呼ばれた自分の名前。

そちらを向けば満面の笑みで駆け寄ってくる庄左エ門君たち。

「ええと・・・」

いつの間にか参加することになっていたこれらにどうしようかと思っていたのが顔に出たのか、八くんが近づいてきて私の頭を撫でてくれた。

「安心してください。俺たちがちゃんと守りますから。」

同時にかけられた言葉に少し安心する。
年下だと言うのにとても頼もしい。

「雅さんっ、僕たちもいますよ!」
「だから安心しててください!」

虎若くんの三治郎くんの言葉に思わず笑みがこぼれた。

ふと視線をずらせばそこには、彼女。


同時に脳裏に浮かんだのはあの、夢



 まっしろなせかい ただなにもないそのせかい

  きえていく きえていく わたしをこうせいする すべてが きえていく



「よろしくおねがいします。藤堂さん。」

この学園内では誰も呼ばない苗字呼び。
それが私を正気に戻した。

それに安心して、いつも心の中でだけ呼んでいた名前が漏れた。

「こちらこそよろしくね?ちゃん。」

「・・・・・・は?」

間の抜けた声にしまった、と思ったけど遅すぎて。
慌てて言い訳をする。

「タカ丸さんが呼んでたから・・・だめ、かな・・・?」

そっと顔をうかがうように覗き込めばなんとも引きつった顔が見て取れた。
やっぱり、だめ、だよねえ・・・そう思って訂正しようとすれば聞こえてきたそれに思わず笑みが出た。


「・・・・・・・・・・・・・・どうぞ、ご自由に。」


「ありがとう!」


思わず大きな声を出してしまって、自分で驚いた。
そのままそっと視線を動かせば目に入ったのは自分の手。
どくん、微かに音を立てた胸をそのままにそっと手を見る。

そこに手はちゃんとあった。

すけることもないまま、ただそこに手はあった。

それにほっとしている自分が居た。

まだ存在していることを確かめたくて、ぎゅうっと両腕で、震えだした自分を抱きしめた。









こへくんが来たり、伊作君の声が聞こえてきたり、留君が巻き込まれたようだったり、いろんなことがあった。
皆が私を守るように居てくれて、その場所は、暖かかった。
まだこの場所に居ることを許されている気がして。


ほっとしていたの。


そうして突きつけられたのは、現実


「きゃあっ!?」

仙ちゃんとかもんじくんとかの委員会の子達が戦っているのを見ていたとき、不意に感じたのは大きな風。
そして体を襲った浮遊感。

目の前を駆けてくるちゃん。
その手を、伸ばしてきたちゃんの手を掴んだ。

そう思ったのに。


触れたはずの手は、すり抜けて。


それは、タイムリミットの合図


ちゃんの驚きと困惑の顔に、私も同じ顔をしているのだろうと思いながら、私はこへ君によって連れて行かれた。




争奪戦が終わってからも、その感覚が、手をすり抜けたその感覚が生々しく残っていて。
呆然としたままで。
話しかけられたこともよく覚えていなかった。


ちゃんと、お話したい。


そんな中で思ったことがそれだった。


だから夜食を持って、彼女が居るであろう学級委員の元に向かったけれども、ちゃんは居なかった。

頭を駆け巡るのは学園の皆。

不安とどうしようもないあきらめの感覚だけが体中に広がった。


私はもうこの世界に居ることができないのでしょうか。


目の前で笑う学級委員の子達をまえにそっと目を閉じた。





そして争奪戦の二日後から、留くんたち6年生の皆が見えなくなった。

彼らが帰ってきたとき、私はいかにこの世界を理解していなかったのか、知ることになる。
















※※※
雅さんサイド。









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