ドリーム小説




 


 宵闇 伍拾捌







がまだ部屋に居ない。

そろそろ心配になってきたのであろう滝を部屋に放置して、部屋から出る。

学園内で感じた気配。

それは先輩たちが帰ってきたってこと。

だからはそこに居るはず。

そう思いたどり着いたそこには思った以上に不穏な空気。

振り上げられた手は間違いなくを狙ったもののようで。

それを止めている七松先輩に胸をなでおろす。

。」

こちらを向いたその瞳に自分の姿を見咎めてそっと言葉を口から落とす。

「部屋に戻ろう。滝もまってる。」

そっと近づいて、の手を握って。

混乱しているのだろう、その手はひどく冷たい。

とりあえず、を落ち着かせることが先決。



あの場所に、を残しておくわけには行かない、そう思ったのは本能的。

でも、それは間違っていたとは思わない。


『そんなことも解らないのであれば、早くここから居なくなれよ!』


それはきっとの本心。

彼女が現れてから、がいいたくても言えなかったであろうこと。

それは私にも向けられていることで。

彼女に現を抜かした私たちに向けられている言葉。


 忍びになることを惑わせることをいう彼女にではなく

   そんな言葉で惑う私たちに向けての忠告

   その言葉に幾人が気づかされたのだろう。


    自らの過ちに

        自らの罪に

            自らの失態に



無言でうつむきついてくるに私はどう声をかければいいのかわからなくて。

いつもであれば、勝手に動く思考も、今は鳴りを潜めてる。

とりあえず、早く部屋に戻って、滝、それから三木とタカ丸さんもよんですこし、お茶でもしようか。

夜なんて関係ない。

今はのことが、大事。



向こうの屋根の上に蒼色が闇に溶けてみえた。














どうしようか。

今日帰ってくるはずの先輩方を下級生に合わせないように、私たち5人は外に出ていて。

それなのに、一番に彼らに出会ったのは、私の後輩の一人。

首元に向けられた刃に、思わず動きそうになった雷蔵を止めて、その姿を見据える。

あたりに立ち込めていた鉄のにおいに新しいものが加わる。

それに八左エ門がぐっと、動くのをこらえていた。

ふわり、微笑んだ後輩のその笑みに、思わず私たちも油断していたのだ。


彼女の登場に、驚いたのは私たちだけではなく、彼らも同様に。

奇麗事を並べる彼女に、どうしようもない思いがあふれる。

奇麗事ばかりのそれらに、すがりつきたくなる自分が居る。


「三郎。」

に振り上げられた手に衝動的に体が駆け出しそうになるのを、後ろに居た勘右衛門にとめられて。

綾部に連れられて去っていくの姿をただ眺めていることしかできなかった。


あの小さな体はどれほどの思いを抱えているのだろうか。







勘右衛門が三郎の名前を呼んで、動きを止めさせる。
それを見届けた後、が去ってさらに気まずい空気となったその場所に乱入する。

「雅、さん」

崩れ落ちたその姿に隣の兵助が痛々しげに声を漏らす。

解ってはいるのだ。

どちらの言い分を認めるべきか、など。

それでも、心は曖昧で優しくなどなくて、俺は、俺たちはーーー

「先輩方。」

「湯を張ってあります。」

「早く、その汚れを落としてきてください。」

降りればびくり、彼女だけが震えてて。

それを視界に入れながらも、淡々と声を発する。

「雅さんはこちらに。」

ゆっくりと兵助が雅に触れる。

びくり、再び体を震わせながらゆっくりと頷いて。

視線の端で、先輩方が頷いて姿を消して行ったのが見えた。

「八」

「ああ。」

雷蔵に名前を呼ばれる。
そちらを向けば、同じ顔がこちらを見ていて。

その2対の瞳に映る言葉になすことを悟り、声を返す。

雷蔵と三郎はそれに頷いて姿を消した。

雷蔵は委員の先輩である中在家先輩のところへ。

三郎は後輩のところ、ではなくあの様子では学級委員としての勤めを果たすため学園長の元へ向かったのだろう。

「雅さん、部屋に戻りましょうか。」

「・・・は、い・・・」

うなだれる彼女を支え歩き出す兵助。

「八、あとは俺がやっとく。兵助と一緒に行って?」

勘右衛門をちらりみて、その言葉に従う。

彼女と兵助に付き添って歩き出しながら、後ろで新たに現れた先生方の気配にそっと目を閉じた。



あなたの言葉に、俺は肯定も、否定もできない。























が帰ってこない。

それにどうしようかと考えていれば出て行った喜八郎。

付いていこうかとも思ったが、それでは部屋に帰ってきたのが解らないから、部屋に残った。

喜八郎が開けさらして行った襖から乾いた風が吹き込む。

それは独特のにおいを含んでいた。

「っ、」

実習で、何度もかいだことのあるそのにおいに体がこわばる。

思わずその発信地を探しに行こうと腰を上げた瞬間、いつの間にかえってきたのか、喜八郎が居て。

「滝。」

その顔は無表情。

でもその瞳はどことなく焦りを含む。

「三木とタカ丸さん、呼んできて。」

「・・・は?」

それに思わず首をひねればその後ろにが居たのが見えて。

「・・・わかった。」

うつむくその姿に、漂う雰囲気に。

なんとなく、何かを悟って二人を呼びに行くことにした。











今日の復習を、暗がりの中蝋燭の薄明かりでする。

そうして一息ついて、背伸びをしたとき、襖がすごい勢いで開かれた。

「タカ丸さん!遅くにすみませんが来て下さいますか?」

そこにはいつも自慢げな彼が戸惑ったように眉を下げていて。

「だいじょうぶだよ〜。どうかしたの?」

ゆっくりと立ちあがって下ろしていた髪を素早く結い上げる。

「ええと、私の部屋に先に行っていてください。私はこれから三木エ門を呼びに行くので。」

「わかったよ〜」

理由はわからないけど、今日6年生たちが帰ってくるってどこかで聞いていたからそれに関係あるのかも、なんて軽く思ってた。



常にないほどの無表情のちゃんと、声をかけることもできないような喜八郎を見るまでは。



なにが、あったの?



心の奥で怒りと言う名の炎があがった。



この子達に、だれが、何をした?












滝夜叉丸にたたき起こされて、向かったそこは深い闇の中のように重い空気。

先に来ていたタカ丸さんもどこかとまどっているようで。

ちらり滝夜叉丸をみて、視線が合う。

どちらともなく頷きあって動き出す。

「タカ丸さん、お湯をもらいに食堂まで行ってきてもらえますか?」

戸惑うタカ丸さんに指示を出す。

「え、あ、うん。わかったよ。」

頷いて食堂に向かった彼を見送り滝夜叉丸を見る。

滝夜叉丸は部屋の奥から湯飲みを出してきて。

じゃあ私は、お茶菓子でももってこよう。

「喜八郎、、何か食べたいのあるか?」

「団子。」

「・・・おまんじゅう」

即答した喜八郎に、しばしの空白の後、微かに答えたに、少しではあるが持ち直してきているような二人に安心した。



さて、何があったのかはわからないけれども、とりあえずこの二人を少しでも立ち直らせなければ。























※※※
それは6年生が帰ってきた夜のこと。
喜八郎、三郎、はちざ、滝、タカ丸さん、三木。ですね。











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