ドリーム小説
宵闇 伍拾玖
最近この学園はどこかおかしい。
それがどこかと聞かれても、俺にはわからないのだけれども。
「雅さん?」
最近の彼女はどこか上の空。
今みたいに名前を呼んでも、気づいてくれないことが増えた。
いつもみたいな笑みを見せてくれることもなくなった。
それと同時に、おかしなのは6年生の先輩たち。
いつもならこぞって彼女のそばにいたがるのにその姿は最近見なくなって。
いつからか、って考えてみたら先輩方が忍務から帰ったきたその日みたいで。
でも、かといって、それがどう関係しているのかもわからない。
委員会でも中在家先輩は、いつも以上に騒音に敏感になった。
いつもであるならば許容範囲であるはずのものですら、彼の琴線にふれるみたいで。
不破先輩も、どことなくおかしい。
大雑把にさらに磨きがかかったかと思えば、悩むことがさらに増えていて。
なんかあったのか、とそう思っても、俺にできることはとても少なくて。
ああ、おれはやっぱり、無力、だ。
力のなさにぐっと手を握り締めた。
なんだか世界は変わり始めたみたい。
僕がこの学園で感じていた空気は決して優しいだけのものじゃなかった。
でも、あの人がきてからは、緩やかな時間が流れるようになってた。
なのに、なんだかおかしい。
七松先輩がいつも以上に委員会を過激にしだした。
いつもならば悪態をはきながらもちゃんとついていってる滝夜叉丸先輩ですら、付いていくことが難しそうで。
当然、僕と金吾は気が付けば自室に連れて行かれてて。(委員会の途中で意識がなくなっちゃうんだ。)
いつもならそんなことがあった次の日は、多少手加減してくれるはずの先輩だったのに、それもなくなっちゃって。
それから、そう、滝夜叉丸先輩も、次屋先輩も、どこか、変わった。
それはたぶんささいなもので、でも、気にはなるくらいの大きさで。
どうしたんですかって、そうきければいいのに、それが怖くてできない。
いつも不安を取り除いてくれた雅さんの笑顔も、最近は曇りがちで。
僕にできることはほとんどなくて、頼りなくて。
なんだかみんな、いつもに比べて、上の空。
何があったのかはわからないけど、はやく、はやく、前みたいに、戻って欲しいって、思います。
だって、空元気な七松先輩はどこか不安定で怖いんです。
いつものような自慢げな声、でもさりげない滝夜叉丸先輩の姿はいつも励みなのに。
迷子になることは多くても、年が近いからか僕をいつも気にかけてくれる次屋先輩に何度も助けられたのに。
ねえ、僕にできることって、ないんですか?
遠くなっていく背中に薄れていく意識を感じながら、そう願った。
確か先輩たちが帰ってきた次の日から、だ。
学園が不穏なものになったのは
「・・・あれ、また長屋が姿を消した。」
いつもいつも、長屋は俺が探し出したらへそを曲げたみたいに、俺の前から姿を消す。
いったい俺に何の恨みがあるんだよ、まったく。
そうしてうろうろと回っていたら、いつもだったら誰かしら迎えに来てくれる。
それは作だったり、左門だったり、(ただし、こいつだとさらに帰るのが遅くなるが。)、不快ではあるが滝夜叉丸だったり。
あと、先輩もみつけたら仕方がないなあって感じで連れて行ってくれる。
なのに、
なのに、おかしい。
誰も俺を見つけない。
みんな迷子になってるって言うのか?
俺以外が。
・・・ありえないことでもなさそうだが。
「さくー。」
周りが緑ばっかになったので、一休み。
作の名前を呼んで。
「さもーん。滝夜叉丸、・・・先ぱーい。」
空を見ればなんていうか、月が見える。
ていうか辺りが暗い。
「・・・、せんぱい・・・」
何度も呼びなれているはずのそれを、改めて声に出す。
それは拾われることなく、地面に消えていくはずだったのに。
「呼んだ、か?三之助?」
がさり現れたのは、その名の持ち主で。
驚いてその顔を凝視すれば、苦笑とも取れるそれ。
「富松が、お前が見つからないと滝にいいにきたから、な。俺もお前を探してたんだよ。」
さあ帰るぞ、
そういって差し出された手をそっと握る。
暖かいその手は、俺の心をなだめてくれて。
聞くことが、できた。
「先輩、今何が起こってるんですか、あの学園に。」
ぎちり、動きが固まったその小さな体を逃さないように引き寄せて。
ここでしか聞けないであろうそれを口にして。
「最近、みんな、おかしいですよね。・・・先輩も含めて。」
そういってその顔を見るが、目を合わせてはくれない。
「せn「帰るぞ、三之助」・・・」
するり、簡単にはなれて行ったその体は俺を見ることなく、進みだした。
ねえ、俺にはまだわかんないんです。
俺の力じゃ、あんたを守ることすらできないんだってことしか。
繋がれた手のぬくもりが今はただ、苦しい。
※※※
上からきりちゃん、しろちゃん、三之助です。
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