ドリーム小説




 





 宵闇 睦拾







あの言葉を叫んだ瞬間 世界が壊れた気がした





夜、ちゃんはよく鍛錬していると聞いたから、外に出て、彼女を探して。


       そしてそれを今では後悔してる


月明かり照らされて、紅く染まったその体、いつもは白いはずのその肌。

綺麗な髪は風に揺られることもなく、 『 何 か 』  で固まっていて。

いつもの太陽のような笑みは、なりを潜めていて。

その瞳はただ深く、恐ろしいほどに凪いでいて。

それらすべてを認識する前に、鼻を突く鉄のにおいに声が漏れた





「仙、ちゃん・・・?こへ、くん・・・?」

その言葉はその場に大きく響いて。

固まる彼らに、私は動揺することしかできなくて。

「雅」

呼ばれた自分の名前が、自分のものじゃないみたいで、とても怖かった。

肩が揺れる。

「せん、ちゃ、ん・・・っ、け、がっ・・・」

そっとその名前を呼んでその瞳を見つめれば、そこには深い闇。

体中が怖いと言う感情で支配されていく。

「この傷は忍務を、こなして、できた。」

淡々と話される言葉に、涙がこぼれそうになる。

「っ、そんな風に、怪我しちゃう、ような・・・?」

出した声はひどく震えてる。

「ああ。」

「仙ちゃんたちは、まだ15、なのに?」

私の世界であれば、彼らはまだ中学生で、こんな風に大人びた目などしない。
信じられないことに、無意識に胸元の手をぎゅっと握って。

「そんなのは関係ない。関係あるのは、ただ、私たちが卵といえど忍びだと言うこと。」

「し、のび・・・」

   忍び

それにどれほどの意味が、どれほどの重さがあるのか、理解などできなくて。

「そうだ。私たちは、忍び、だ。主のためだけに力を注ぐ。主の命であれば、どんなことでもやってみせる。」

「っ・・・」

その言葉に、胸が熱くなった。

どんな奇麗事をはこうと、結局それは


    心の中で警鐘がならされる


「それがたとえ、誰かの命を奪えと言う命だろうと。」


      言ってはいけないと


「っ、そん、なのっ!!」



       でも、とまらない




それはただの___



「っ、そんなの、ただの人殺しと同じじゃないっ!!」



自分のために、主のために、人を殺す。

それは結局、同じことでしょ?


     人殺し、と



その声は大きく大きく、あたりに響いた。

誰かが息を詰めた気配がした。


ぱん


その場に響いた乾いた音に。
左ほほに感じる熱い熱に。
目の前で瞳揺らす彼女に。


「やっぱり、あんたは害にしかならない」

その言葉に、私は取り返しの付かないことをしたのだと理解した。


少しだけ、ほんの少しだけ彼女に近づけたと思ったのに、今の言葉で、もう修復もできないほど遠くに行った。

私の言葉にちゃんの後ろの仙ちゃんたちが痛そうな顔をしてて。




「雅!」


その場に響き渡った、聞きなれたいとおしい声に、涙があふれるのをこらえることなどできなかった。





留くんの常には聞かない鋭い声も、伊作くんの押し殺したような後姿も、長次くんの搾り出すような言葉も

全部全部他人事のように聞こえた。

ただ、留くんの背中に紅いものがこびりついているのを見て、体中が冷えた。

自分でも何を口にしているのかわからなくて。


ちゃんに向けられた手のひらに、叫び声をあげて、こへくんがそれをとめたことにほっとして。




そうして気づけば私は自分の部屋に居て。


      そして、気づいた


私は今日から、昨日までみたいに生きることはできない、と。


優しい彼らを傷つけてしまったのだから。


        でも、でも

 
私は私が間違っているとは思っていなくて。

どうにかして彼らにそれは間違いだと伝えなきゃと思っていた。











「雅さん、雅さん!」


ぱたぱたと走ってくる水色の可愛い子達。

この子達もいずれ彼らのようになる。

それはとても耐えられないことで。

にぱりにぱり見上げてくる子たちに頬が緩む。

「ねえ、みんな忍者になるのよ、ね?」

ぽろり無意識の言葉はとどまることを知らず。

「はい!そのためにこの場所で学んでいるんです!」


「その、やっぱり、人を、傷、つけたり、するの・・・?」

告げた言の葉に顔をにごらせる、は組の子。

「それは・・・」

「私は、みんなに傷ついて欲しくないし、人を傷つけて欲しくも、ない、の・・・。」

「・・・雅さん・・・」

こぼした言葉に皆は微かに目線をそらして。

「それでも、僕たちはしのびだから、いつかは人をあやめるときがくるのです。」

その姿は大人びていて

「今はそのときではなくても、いつかきっと。」

震える声を抑えるように

「先輩方のように、大きくなったら。」

視線の端で誰かがぎゅっと手を握りしめるのが見えた。


「それはさけられないものなんです。」


ゆっくりと上がった顔。

告げられた言葉。

まっすぐなまなざし。

その姿はとても私よりも大きく見えた。


「でも、でも__」

それでもすがり付こうとする私は、なんて滑稽なのでしょう。

そう思いながらも、とまらない。

「みんなはっ、」

私はなんてひどいことを言おうとしているのか。



今なら、あなたたちは汚れることもないまま、大きくなれるわ。




その言葉をさえぎったのは他でもない、彼ら。






「それが私の夢なんです。」

「それが今の俺にできる精一杯の恩返しなんっす。」

「それが僕が選んだことなんです。」

小さな小さな子供だと思っていた彼らは、もう立派な意思を持っていて。

その姿はどんなに幼くとも、忍びで。

彼らの言葉に自分がいかにわかっていなかったか、がわかった。

ほろりほろり

零れる雫に、皆が慌ててるのをどこか遠いところから見ているような気分だった。






私は自分が思っていた以上に、この世界を知らなかったのです。

私はやっぱりこの世界の人ではないのです


心のそこから帰りたいと、願う。








※※※
雅さん視点。
あの夜のこと。
数日後のは組との会話。
どんなに幼くても、忍びをこころざす彼らは、忍びなのです。










back/ next
戻る