ドリーム小説




 



 宵闇 睦拾壱













『 やっぱり、あんたは害にしかならない 』

『 そんなことも解らないのであれば、早くここから居なくなれよ! 』


彼女に投げたそれらの言葉はすべて本心。



喜八郎が迎えに来てくれたことで、皆が一緒に居てくれたことで

はなんとか普通で居られた。

否、いれていると思っていた。



『何がこの学園で起こってるんですか?』


三之助のその言葉を聞くまでは。

その瞳は貪欲なまでに真実を求め、その言葉は刃のごとく胸に刺さった。

その手は錯覚を起こすほど熱くて、振りほどくこともできなかった。


学園に戻って、三之助と別れて、そうしてお気に入りの木の上。

絡まった考えを、憤りの残る胸を落ち着けるために目を瞑る。


 俺は、彼女が嫌いではない。

 でも、好きになれはしない。

 あの日からはさらにその思いは大きくなった。

 早くこの学園から去ってもらわなければ

 でないと害にしかない、あの人は。


晴れ渡った空が恨めしい。


ふ、と一つ溜息を吐きだした瞬間、

     あの気配

咄嗟に動こうかと思えば、それに近づいてくる複数の幼い気配には動きを止めた。

「雅さん、雅さん!」

一年生たちの無邪気な声にささくれ立っていた心が少しだけましになる。

その気持ちを台無しにする言葉がその場に満ちた。

「ねえ、みんな忍者になるのよ、ね?」

  な ん て こ と を き く ん だ あ ん た は 

先ほど落ち着いたはずのものが一気に胸にあふれる。

「はい!そのためにこの場所で学んでいるんです!」

無邪気なその言葉は、まだ何も知らぬようで。

「その、やっぱり、人を、傷、つけたり、するの・・・?」

幼いこの子達の心を、まだ幼い心を、どうしたいんだ?

「それは・・・」

にごらせた言葉は子供たちの動揺そのもの。

「私は、みんなに傷ついて欲しくないし、人を傷つけて欲しくも、ない、の・・・。」

「・・・雅さん・・・」 

ああ、もう、あんたはっ、まだ続けるのか?!

そんなにもおろかな話を!



「それでも、僕たちはしのびだから、いつかは人をあやめるときがくるのです。」

出されたその言葉は微かに震えてて。

「今はそのときではなくても、いつかきっと。」

その震えを押さえて、搾り出すように。

「先輩方のように、大きくなったら。」

でも、凛としたその様子は、

「それはさけられないものなんです。」



 とても大きく見えた。




「でも、でも__」

「みんなはっ、」


幼き彼らにすがり付こうとする姿はなんて、滑稽!

まだ続けようとする言葉にたまらなくなって、思わず声を上げそうになった。

「っ!」



それをさえぎったのは、他でもない彼ら。



「それが私の夢なんです。」

「それが今の俺にできる精一杯の恩返しなんっす。」

「それが僕が選んだことなんです。」


強く強く、意思が響く。


きらきら輝く瞳は、ただただ美しい。


幼い彼らは、それでも忍びで


心にふわり ぬくもりが、ともる



それらの言葉に彼女がほろりほろり涙をこぼすのを、ぼんやりと見ていた。



もしも、


もしも、俺があの立場であったならば、俺も彼女とそう変わらないかもしれない。

平穏な世界は優しくて優しくて、それゆえにこの世界は夢のよう。

現実ではないかのように、理想事を押し付ける。



  そ れ は 俺 で あ っ た か も し れ な い 。



今俺にできるのは、俺が彼女にできるのは、この学園でできることは___


どんなに不可能だと言われようと、どんなに道がなかろうと



      彼女を世界へ帰すこと



だけ。









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