ドリーム小説




 






 宵闇 睦拾弐










予想よりも強い敵に、死なないことに必死で、体の汚れなど気にできなかった。

そのままどこかで体中の匂いを、汚れを落としても良かったのだがそれよりも立っている気を、神経を、早くあの場所に戻って休ませたかったのだ。


( 休 め る 場 所 が 、 あ る う ち は )


いつもは忍務帰りの私たちを後輩たち、特に低学年の子達に見せないように5年が待機している。
だが今回は違っていて、一番に私たちを、いまだに高ぶりを抑えられていない獣のような私たちを見つけたのはだった。
は私たちを見、恐れることもせずただ笑んだ。
その姿にどれほど安心させられたか。
のおかげで私たちはまだこの場所に居られると感じることができたのだ。

だが、そこで雅に見られたのは誤算だった。

ようやく帰ってこれたことに、5年の気配がすることに安心して気を抜いていたのが悪かった。

彼女のおびえ具合に、震える様に、どうしようもなく心が揺れた。

自らは普通の人間ではないのだと、彼女に触れることができぬほど汚れてしまっているのだと、気づかされた。

小平太も同じようで、ただ固まっていた。

いつもの笑みはなりを潜め、任務のときのような冷酷な色をその瞳に映して。





「そんなのただの人殺しと同じじゃない!!」




その言葉はただ真実で。

息を呑む。

解っていたことでも、ぐらり、信じていた世界が揺れる。

動揺を悟られぬように体勢を立て直そうとしたとき、その場に響いた乾いた音。

響いた声。

それは確かに私の心に大きく響いた。











俺はどんな顔をして人をあやめるのだろうか。


伊作は泣きそうな顔をして、ごめんなさいと呟き敵に手をかける。
そして傷つけた同じ数だけを救おうとする。まるで代償のように。

文次郎はいつもと同じ顔で、その手にもつ刃を向ける。
ただ少しでも痛みを感じぬようにとやすらかにと一瞬ですべてを奪う。

長次は無表情で淡々と得物を手にもつ。
自らをも傷つける武器はまるで忘れぬように、戒めのように。

小平太はその顔に狂喜にも似た笑みを浮かべ戦場を駆け回る。
まるですべてを吹っ切るかのように縦横無尽に駆け巡る。

仙蔵はその美麗な顔に冷徹さだけを乗せてすべてを見下ろす。
その瞳は冷め切ろうと、心の奥では激情がかけ巡る。



俺はどんな顔をして人をあやめているのだろうか。

予想など、つかないそれを知りたいとは思わないけれども。



「行こう?留さん。」

伊作の声に世界を見る。

その場所には鉄の匂いと倒れ動かない多くの戦士。

それを一度だけ見やり先に戻っていった仙蔵と小平太を追いかけるようにして学園を目指した。


着いた瞬間聞こえてきたのは乾いた音と後輩の声。


彼女の瞳にたまった雫に、その赤い頬を見た瞬間

その前に立つ少女に怒りがこみ上げた。


「怪我、しない、で・・・誰も傷つけない、で・・・」

「おね、がいだか、ら・・・っ、」


彼女の言葉は甘く甘く。

まるで誘惑するかのよう。

毒のように体を侵食していく。



ああ、この人は本当に、この時代には似合わない。



その柔らかい体に触れたとき、ただただ漠然とそんな思いが駆け抜けた。




そうしてその日から俺は、否、俺らは彼女に触れることが、近づくことができなくなった。

彼女があまりにも純粋すぎて、清らかすぎて。

自らの汚れた手で、穢れた体で、彼女のそばに居ることは彼女を穢す様に感じて。









青い空。

天気は快晴。

ざわめく校庭には学園中の卵たち。


上級生模擬合戦


上級生にとっては一年間培ってきた自らの実力を試すもの。

下級生にとってはその実力を見て、吸収する機会。

すべてのものがそれを見て精進し自らの糧とする。


それが上級生を対象とした忍術学園上級生模擬合戦である。



「これより、上級生模擬合戦を開始する!」



その日はとても長い一日になった。






















※※※
仙蔵視点と留さん視点。
上級生模擬戦とつにゅー!
佳境佳境。











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