ドリーム小説
宵闇 睦拾参
上級生模擬合戦
それは先輩方の実力を見ることができる数少ない機会。
ルールはいたって簡単。
上級生である4,5,6年生それぞれが引いた籤に従い戦う。
上級生全てで籤を行うので4年が6年と当たる事だってある。
ただし、その場合はハンデの変わりに4年生が2人と6年生1人で闘うようになる。
の引いた籤は、伍。
まだ相手はわからない。
「両者、礼。」
審判を行う山田先生の声が校庭に響く。
「 開始 」
その声を合図にして、見合っていた両者は動き始めた。
蒼色対深緑。
さすがに1年の差は大きく、蒼色は早々と投げ出された。
それでも、その体に染み付いた技は、力は、動きは、すさまじい。
みているたちの心にも大きな何かを残す。
幾組かの試合の後、前に出た緑が二人。
「うーん。・・・本当に僕不運だよねえ・・・。よりにもよって文次郎だなんて。」
「何を言っている、伊作。忍者たるもの、相手を選んでなどいられないんだぞ!」
「あーうん。わかってるけどね・・・。」
お互いに体をほぐしながら、交わす会話に緊迫感はない。
にとっては久しぶりに見るその先輩たちの戦う姿に気分は高揚していた。
叫ばれた声、振り上げられた手
あの時の先輩が脳裏によぎるたびに、体がこわばってしまうのだけれども。
今日はそのことを考えないでおこう。
そう心に決めて改めて先輩方を見る。
ゆるりとした緩めの構えは伊作独特のもので、一見なんの構えもとっていないように見えるがそれでいて、隙など、ない。
対する文次郎は姿勢を低くし、くないを構えてすっとその鋭い目を伊作に向ける。
始まりは一瞬。
木の葉一枚地上に落ちるか落ちないか。
そうして始まったそれは激しくて、目で追うのが難かしい。
下級生たちにはもう見えていないであろう。
時折響く金属音に、刃を交わしていることがかろうじて確認できる。
伊作が、一歩、身を引いた。
そしてそのままするりと胸元に手を入れだしたのは一枚の扇。
それをぱさり、開いたと思ったら
一瞬で勝負は付いていた。
「勝者善法寺 伊作」
周りにどよめきが走る。
学園一忍者していると評判の文次郎が不運委員といわれる伊作にあっさりと負けてしまったのだ。
無理はない。
「潮江先輩が、まけた・・・?」
横にいた三木エ門の言葉にもしばし呆然とする。
「体調でも悪かったんだろうか・・・?」
「潮江先輩、最近いつもにもまして眠られていないみたいで・・・。」
の言葉にそう返事を返す三木エ門の顔はひどく心配げで。
「悩み事か何かあったんじゃないの。」
喜八郎のそれにこくり、一つ頷いて。
あの人も人間だから。
あとに続いたその言葉に三木エ門がどういう意味だと突っかかっていた。
今朝ちらりと見たその姿。
確かに、いつも以上に隈が濃かった気がする。
悩み事
そう聞いて浮かぶのは彼女のことで。
全てが彼女のせいなわけがないのにどうしてもそのように思ってしまう。
ふ、と一つ息をはいて戻ってくる伊作をみる。
「伊作先輩、すごいです!」
きらきらした目で伊作を見るのは彼の委員の後輩たち。
照れたように頭に手をやって、その後輩たちの元へ向かう、はずが何もないそこで伊作はこけた。
「・・・なんていうか、さすが善法寺先輩。」
「期待を裏切らないよな・・・」
ぼそり三木と滝が呟いたそれらにも同意した。
最後までしまらない人だ。
「ふむ。眠り薬、か。しかも大分強力だな。」
運ばれていく文次郎を目の端で一瞥し伊作に声をかける。
・・・戻ってくるだけで数回こけているこいつはいったい何なんだろうか。
「最近、文次郎の目の隈がいつも以上にひどいからさ。」
傷口を自らで治療しながら返事を返す。
「ほとんど部屋にも戻ってきてないからな。」
それにやっぱり、と呟いてこちらを見た伊作。
その目には心配げで、不安げな光
「・・・こないだのあの日、からだよね。まあいろいろ考えることがあるんだろうけど。」
そういって再び治療に専念しだす伊作。
その脳裏にはあの日の甘い甘い言葉が染み付いているのだろう。
文次郎も、そうだ。
いつもであれば伊作が薬を出しそうになったらすぐさま風上に逃げ口元を深く覆う。
それすらやらなかったということはそれだけ集中していなかったのか、頭が回らなかったのか。
それがあの日からだということだけは確かで。
彼女の姿を、言葉を頭に浮かべそっと目を閉じる。
あの汚れなき彼女に、私たちはもう、触れることはできない。
「次、前に。」
先生の声に横がふらり、動く。
「喜八郎か?」
「うん。そう。私。」
すり抜けていった紫を見守る。
相手に現れたのは、蒼色。
光を反射する銀色の髪。
「よろしくな!綾部。」
「はい。」
八左衛門はからり笑った。
※※※
籤の補足。
はっきりいってあんまり考えてなかったり。
4年対5年や、5年対6年の時はハンデは特にありません。
ただし4年生対6年生になったときだけハンデとして2人対1人になりますです。
あと、タカ丸さんは今回見学です。
文次郎は本当はもっと強いです。
ただ彼女の言葉に戸惑っていて。
back/
next
戻る