ドリーム小説




 




 宵闇  睦拾漆












 pipipipipipi



「っ、何だ?!」




息を呑んだような音と同時に響いた何かに、学園中を緊張が取り巻いた。



彼女の絶叫と共に響いたその音は、にとってはとてもとても懐かしい音。

この世界では聞くはずのなかったであろう音。

彼らにとってはきき覚えのない音。

驚きと微かな恐怖に支配され、体を震わせた下級生たち。

蒼色は下級生を守るように彼らの前に立つ。

深緑はその音の発信源である彼女を囲うように構える。

黒い色はただ、成り行きを見守るように。


彼女はしゃがみ込んだまま、呆然としたように揺れた。

遠めにもわかるほどに震えて、そっと袖から小さなそれを取り出す。

周りの先輩たちは一様に警戒を強めて。




震える手で取り出したそれを彼女はそっと耳元に当てた。




「お、かあ、さん・・・?」




その単語の意味を理解した誰かが、深く息を呑んだ。



「か、えり、たい・・・」



ぽつり、零されたその言葉に、体を震わせる幾人もの卵たち。

そっと彼女から目を離す先輩たち。




「帰り、たいっ!」





大きく叫ばれたそれは悲痛に響く。

彼女の心全てを物語るかのようなそれは、ひどく耳について。


「帰りたいっ、よおっ!!」




その言葉と同時に彼女の体は光りだした。




「雅?!」


「雅さんっ!?」

叫ぶ後輩の声に、先輩たちの声に、彼女はその綺麗な瞳に涙を浮かべていて。



思わず体が動いた


っ」

傷口を見てくれていた伊作の声がどこか遠くで聞こえた。


ゆらり、彼女に一歩近づけば、かちり視線がからみ合う。


その瞳が一度大きく開かれて。


そうして、一言、たった一言、叫ばれた。

そうただ叫ばれただけ。

の、名前を


ちゃんっ!!!」



その声に触発されるかのように、走り出すからだ。

伸ばされる手を掴もうと腕を伸ばす。

大地を踏みしめる一歩一歩が、遅い。

その間にも、光は大きくなって

はやくはやくはやく

体をせかそうと脳が必死で指令を上げる。

はやくはやくはやく

周りにいる先輩方など目に入らなくて。

ただただただただ、彼女の元に。

走って走って、伸ばされた手を、掴んで、


確かに、掴んで。






そうして彼女は、消えた。






の手に一つの存在証明だけを残して。







「っえぐっ、雅さあん・・・」

「うわああん」

「雅さんが消えちゃったよ〜」


あたりに広がっていくのは後輩たちの悲しげな声。

それにつられるようにどんどん広がっていく泣き声。


1年生たちはもちろん、2年生たちもなみだ目で。

3年生はさすがにその場で立ち尽くすだけだったが。

泣く後輩たちに近づいていく蒼や紫、そして深緑。

自らの後輩たちの肩を抱きよせ慰めるようにあやしてやる。









だけど、そんな声も聞こえなくて。




確かに掴んだその手は、宙をまうように、すり抜けるように。

「み、やび・・・?」


つかめなかったそこに残った携帯電話をそっと手を開けてみる。


それは音を発することもなく、ただ そこ にあるだけだった。


「っん、でっ・・・・・?」


心が、ずきずきと痛む。


「なん、で・・・?」


体中の熱が上がる。
沸騰するみたいに。


「ど、してっ・・・」


雫が、零れる。


「っ、なんで、さ・・・」


とめどなくとめどなく


「っ、どおしてっ!!」




頭の中で 何かが音を立てて崩れていった。






「なんで、彼女をあの世界に帰したんだよぉ!!!」





頬を雫が流れていく


「っ、俺のことは返してくれなかったくせに!!」


脳裏に浮かぶあの世界


「どんだけ、願っても、どんなに、望んでもっ、俺のことをこの世界に縛り付けているくせにっ!!」


今ではもう思い出すことが難しくなった両親の顔


「帰せ、よっ!俺をあの世界にっ、帰して、よぅっ、」



雅の柔らかな 笑みが、揺らいだ






「俺をっ、っっわたしを、あの世界に帰してよぉっ!!!!!!」







叫んだ瞬間、真っ暗になる視界。

懐かしい、匂い。

落ち着く声。

崩れ落ちる世界



「しばしおやすみ、。」



声が響くと同時に意識は真っ白に染め上げられていった。


















※※※
私はこの世界に捉えられているというのに。

お久しぶりのオリキャラです。













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