ドリーム小説




 




 宵闇  睦拾捌













近寄ろうとしていた深緑が警戒するように距離をとる。

下級生を守るように、紺色が動く。

成り行きを見守るように、黒がこちらを見つめる。

そっと震える手で袖の中に入れていたそれを取り出した。

それは振動と共に確かな音を響かせて。

そっとボタンを押して、声を出す。

「お、かあ、さん・・・?」

返ってきたのは待ち望んでいた声。

「あらあら、どうかしたの?雅ちゃん?」

優しいそれは懐かしくて

「今日何時に帰ってくるのか、聞いておくのを忘れてしまっていたの。」

優しいそれは暖かくて

「か、えり、たい・・・」

それは無意識。

不意に口から零れ落ちた言葉。

「ふふ、何言ってるの、雅ちゃん。帰ってきたらいいじゃないの?それはあなたの意思でしょう?それに、ここはあなたのおうちよ?」

暖かい陽だまりのような場所。

お父さんもお母さんも優しくて、だれかが傷つくのを見なくてもいい場所。

あの場所に、あの場所に、私は、

「・・・り、たいっ」

ごめんなさいごめんなさいでも私は、


「帰り、たいっ!」


みんなの悲痛そうな顔など目に入りはしない。



「帰りたいっ、よおっ!!」



それと同時に光りだすからだ。


「雅?!」


「雅さんっ!?」


驚きの声。


皆にもう会えなくなってしまう。

彼らのこれからを見ることができなくなってしまう。

あふれていく光に、皆は近づくことができなくて。

皆の顔が驚きにゆがんで、下級生たちは、泣きそうで。

留くんが、泣きそうに、笑ったのが、見えた。


「元気で、雅」


それは今私に何が起こっているのかをとてもよく理解していた。


不意に会った視線は誰よりも驚いている彼女。

一歩一歩近づいてくる彼女に、思わず手を伸ばす。


ちゃんっ!!!」


思わずよんだ名前。

走り出す彼女。


彼女をおいていってしまう。


そのことに恐怖を感じた。


この場所から帰ることを望んだであろう彼女は、この場所に縛り付けられるかのように。


だからこそ、彼女を


おいていってはいけない。


ただ、その感情があふれた。



あふれる光に抵抗するように手を、伸ばした。

駆け寄ってくる彼女に精一杯手を差し出した。





触れたと、そう思った瞬間、そこには何もなくて、

世界は、

すでに変化していた。


手の中に会ったはずの携帯電話だけをあの場所に残して。


















「・・・あれ?私、今何をしてたんだっけ?」

手を伸ばしたままの状態で私は道端にいた。

周りにいた近所の方々がなんともいえない目で見てくるのを笑ってごまかして。

改めて今考えていたことを思い出そうとする。

が、

「どうしよう。私今まで何をしてたか思い出せないや・・・」

私そんなに老化してきているのかしら・・・

そんなことを思いながら、家への道をあるきだした。

不意に浮かんだ残像。

それは色とりどりの色。

水色、青色、黄緑、紫、蒼色、深緑。

その瞬間、ぶわりと何かが膨れ上がる感覚を感じた。


「・・・っ、あれっお、かしいなあ・・涙が、止まらな、い・・・。」


ほとほとと、原因不明の涙は、とどまることを知らなかった。



















※※※
さよならということすらしなかった











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