ドリーム小説




 



 宵闇  睦拾玖












泣く後輩たちの中、大声で叫びだしたに皆が呆然とそれを見ていて。



そんなのもとに現れたのは一人の忍。

それは学園中の卵といえど忍者が、教師たちが居る中に現れた。



「しばしおやすみ、


周りを素早く囲んだ教師たちに物怖じもせずに、ただの耳元でそう呟くと、彼女の体は力をなくしたようにその腕に身を預けた。

「何者だ。」

鋭い土井先生の声にもふわり微笑んで。

それに不快を示す幾人かの教師に

「教師をしていようとも、仮にもあなた方は忍びでしょう?そんなに感情をあらわにしてはいけませんよ?」

諭すように柔らかく声を与える。

でも、まあ私にとったら見たことがある人だから。

「お久しぶりです。彰義さん。」

「おや、久しぶりですね、喜八郎君。」

その人の元に歩み寄り、を受け取るために手を差し出す。

「知っているのか?喜八郎」

警戒するような声音は立花先輩のもの。

のお師匠さんです。」

そういいながらの体を受け取れば、広がるざわめき。

手の中に感じる確かな温もりに、重みに、溜めていた安堵の息を吐き出す。

は大丈夫ですよ。少し眠っているだけですから。」

彰義さんは柔らかい眼差しでを見る。

それは慈しむように、愛しむように。

その眼差しは皆が雅に向けるものとよく似ていて。


「・・・彰義さんが前言っていたこと、私は彼女が来たことでようやく理解することができました。」


脳裏に蘇る、過去のこと。




『あの子は不安定な存在なのです』


それを告げたのは目の前の彼。







11の頃の実習。
二人一組で巻物を奪いあうというもの。

単純なルール。

二つの巻物を持ってきたものが勝ち。

それは以前にもしたことがあったからそこまで気負いすることはないと思ってた。

と組を組んで、向かう裏山の中。

早急に他の巻物を手に入れて、暇をもてあましていた。

そして探検と称して、知らないところにまで足を伸ばしたのが悪かったんだ。



「どうしようか・・・」

「おやまあ・・・。」


目の前にも後ろにも、布切れのような粗末な着物をまとった大人の男たち。

それらの中心にと私は背中合わせで立っていて。

「いい得物を見つけたな、こりゃ。」

醜い笑いを漏らす、男たちはその手に刃こぼれをした刀をもっていて。

ゆっくり、ゆっくりと私たちに近づいてきた。

触れている背中からの震えが伝わってきて、ああ、守らなきゃと思った。

、逃げる、よ。」

小さな小さな声で呟いたそれに頷く気配。

足に力を入れて、その円を突破する準備。

手を懐にいれてくないを確認する。

一瞬、どこかに一瞬隙があれば。

そう思い目を細める。

どこにも見つからない隙に、あせる。


でも、ないのなら、作る。


くないを懐からだし勢いよく投げる。

それに崩れた輪の中からの手を引いて走り出す。

でもそれは本当に少しの時間稼ぎにしかならなくて。

近くの木に飛び上がろうとした瞬間、離れるぬくもり

引きずり倒されるからだ。

引っ張られる髪。

それら全てが私がつかまったことを証明していて。

「っ、はなせっ!」

どこか遠い出来事のように感じていた意識がの声で現実に戻される。

「威勢のいい餓鬼だ。」

「面倒くせえなあ。」

「こっちの餓鬼えらくいい見目してますぜ?」

その声と同時に引っ張り上げられる前髪。
痛みに顔をしかめれば、目の前に男。

体中がやばいと警鐘を鳴らす。

それでも押さえつけられた体はうまく動きはしない。

頭だけが冷静であろうとして考え考え、そして空回っている。


いい方法が思いつかない。


焦りだす頭に、どうしようもない無力感を感じた。

「確かにえらく別嬪さんだな。」

頬にかけられた手に思わず嫌悪感を感じて思い切り振り払う。

「っ、このがきゃ!」

それが頭にきたのか思い切り頭をしばかれて。

痛みに、頭が朦朧とする。

「っ、お、れにふれ、るなあ!!」

そんな状態で耳に聞こえたのは、の叫び声。

震えるそれは、明らかなまでの恐怖を感じていて。

虚勢を張ろうと必死で。

「なんだ、えらく威勢がいいなあ。」

「いいのは威勢だけだろう?」

げたげたとかわされる笑いに、だけでも助けないといけないと思った。

「あれ?」

不意に静まり返る空間。

朦朧とする意識では、前が良く見えない。

「お前、女、か?」

その言葉に耳を疑った。

が女?

まさか。

だって、は、は___


「いいねえ、楽しみが増えた。」

「女ならばいくらでも使い道があるさ。」


「っ、ちがうっ!はなせっ、はなせえ!」

の叫び声に、体中が沸騰するように熱くなる。

助けないと、を助けないと、女だとかどうでもいい



大事な友人を助けないと。





なのに体は動いてくれなくて。






「っ、やめろおおおおおお!!!」





今までの中で一番大きく響いた悲鳴に意識が一瞬真っ白になった。


ざしゅ


響いたのは何かを切るような音。

同時に体に感じていた圧迫感が消えて。

ゆっくりと見上げればそこには漆黒の闇を切り取ったような真っ黒の髪、真っ黒な瞳、そして体全体をも黒で覆った人がいた。



「私の大事な養い子に手え出したこと、死をもってつぐないなさい。」


そう告げるその目は厳しく鋭く、恐ろしい。

でも、それでいて目を離せない、綺麗さもあって。


思わず、見とれた。


ゆるり、その体がのほうに向かっていって。

は意識を失っているみたいでうずくまったまま身動きしない。

咄嗟に、その人との間に躍り出る。


忍びは常に疑わなきゃいけない。


そんな言葉だけが頭に浮かんで、を守るように立ちはだかる。

その人は微かに目を見開いて、そして、やんわりと微笑んだ。


「私は彰義といいます。君の名前は?」


しゃがみこんで目線を合わせてそっと聞かれる。
それにどう答えようかと考えていればふいに頷き

「ふふ、忍びになるのでしたら、それくらい用心深くないといけませんものね。」

そういった。

それになんだか毒気を抜かれて。

「綾部、喜八郎」

淡々と告げればさらに優しく笑った。

「喜八郎君、ですね?」

そう呟いて彼はじっと私の顔を見つめてくる。

その綺麗な黒い瞳に自分が映ってることがだんだんいたたまれなくなってきて。

それにうんと頷くと彼は立ち上がった。

咄嗟に、構えれば彼は微笑を浮かべたまま言葉を続けた。

「喜八郎くん。あなたに、お願いです。」

「・・・はい?」

まっすぐな目で告げられた。

「その子を、を見ていてください。」

、を・・・?」

その瞳は愛しむよう。

「そう。この子、はこの世界では不安定な存在なのです。」

「不安、てい・・・?」

ふわり今までで一番綺麗に微笑んだ。

「存在することが不思議なくらいに。・・・この子を頼みます、ね。君がこの子をこの世界にとどめていてください。」

「君が、の存在意義になって。」

どうゆうことか、そうきこうと思った瞬間、彼の姿は消えていて。

かわりに現れたのは先生方。

たくさんの心配の声と怒りの声を聞きながら、彼の言葉を考えていた。



はこの世界では不安定な存在なのです』



あの時では解らなかったそれが、今ならわかる。








はこの世界の人間ではなかったということが。




だから、は彼女にひどく怯え、嫌悪し、それでも離れきることができなかった。

自らの姿を重ねるように、帰れないことを示唆し、それでもなお返したがった。





目の前にいる彰義さんをしっかりと見つめる。

「私はをこの世界に存在させ続けられるだけの存在でしょうか。」

それにやっぱりふわり、微笑んで。

「喜八郎君がいなければ、はどこかでくるってしまっているでしょうね。」

それにそっと腕の中の彼女を見た。
昏昏と眠り続けるその姿は、幼く見えて。

「それにですね」

ちらり、周りの先輩たちを見て口を開く。

はどうやらこの世界に愛されてしまっているようなのですよ。」

その顔に浮かぶのは苦笑か微笑か。

の本当の世界よりもこの世界に。だからそれに喜八郎君たちが加われば、はこの世界から消えることはありませんよ。」

暖かい笑みには、この場を落ち着かせるだけの力があった。
















※※※
この日のことをは断片的にしか覚えていません。
なので、はこのときに彰義にあっていたことを知りません。
・・・喜八郎ひいきがすばらしいよね!













back/ next
戻る