ドリーム小説




 



 宵闇  漆拾















雅さんの姿が光って消えた。

それに皆呆然としたように立ち尽くしていて。

三之助も、藤内も、数馬も、皆皆意味がわからないというように。

ゆっくりと広がっていく一年は組の後輩たちの泣き声に、ようやっと頭が理解することを始めた。


あの優しい彼女は、消えてしまったのだと、帰ってしまったのだと。


喜ばしいはずのことなのに、何故か胸に穴が開いたような消失感。

ふるり、震えた体を慰めるかのように、じゅんこが擦り寄る。

その低い体温に、いくらかの落ち着くを取り戻す。

「大丈夫だよじゅんこ、ありがとう。」

ふわり微笑を浮かべて撫でる。

僕には君がいるから。


そう告げようとした瞬間、叫びだした先輩の姿に、驚きよりも、あの人のところに行かなきゃという気にさせられた。


帰りたい、私も帰りたい

それらの言葉に悲しみを感じる。

先輩、僕たちをおいていってしまうのですか?

先輩、この場所ではいけないのですか?


優しくじゅんこに触れた先輩の姿が今も脳裏に蘇る。


話し方に、いつもとは違う高い声に、ああ、女の人だったんだとどこか遠くで感じた。


そんなことで何かが変わることもなのだけれど。










消えちゃった雅さんに涙があふれる。

無事に帰れたんだから、いいことのはずなのに、胸が痛くて。

ほとりほとり零れていく雫。

周りを見れば、三郎次は涙目。

左近や久作なんかは僕と一緒で泣いてて。

悲しいよ

あのまぶしいあったかい、陽だまりみたいな笑顔はもう、見られないの?

寂しいよ

あのお日様みたいな柔らかい匂いも感じられないの?


ほとほとほとほと


涙はただこぼれていくの。

そばに来てくれた七松先輩に金吾と一緒にすがりつく。

「雅さんっ、みやび、さんっ、っぅ・・・」

金吾の声が大きくなると同時に ぎゅう、と七松先輩にさらに抱きしめられて。

そして後ろから頭を撫でてくれる暖かい手。

「四郎兵衛、金吾、好きなだけ、泣けばいい」

滝夜叉丸先輩のその声をきっかけにさらに涙があふれた。

「三之助も、だ。」

その声の後にもう1人七松先輩が抱え込んだのは黄緑。

三之助先輩は無言で七松先輩の装束に顔を押し付けていた。

と、

その瞬間聞こえた先輩の声。

びっくりしてそっちをみれば崩れ落ちる先輩。


そして現れた知らない人。


大変大変、雅さんだけじゃなくて、先輩も連れていかれっちゃったら、僕の心は悲しすぎて張り裂けてしまうかもしれない。

びっくりして顔を上げればそこには険しい顔をした先輩方。

でも、すぐ後の綾部先輩の言葉にそっと空気はゆるくなった。


うん。先輩には綾部先輩が付いてる、大丈夫だよね。


そんな不確かなそれに安心した。









光輝いて、雅さんは消えた。


それはつまり、あの優しい人にもう会えないということで。

いつか来るって知っていたことでもやっぱり悲しくて。

こんな突然だなんて思わなかった。

こんなふうに別れなきゃいけないなんて思ってなかった。


あのあったかいお姉さんみたいな、お母さんみたいな人に、もう、会えない、なんて。


周りの皆が泣き出したのをただ呆然と感じていた。


突然すぎて、何にも考えられない。


食堂に行けば、きり丸君って名前を呼んでそこにいてくれる気がして。

染み渡るように広がってく泣き声。

乱太郎もしんべエも、泣いてて。



でも、俺に、涙は出てこない。



ふわり、暖かな蒼に包まれる。

「きり丸、泣いても、いいよ。」

その髪質のように柔らかく先輩は笑って、告げた。

「泣け、きり丸。」

無表情でも、悲しみを表しながら中在家先輩が言って。

「っうっ〜〜・・・」

その瞬間あふれあがる悲しみに、声を抑えることなどできなくて声があふれた。



悲しみの中で、遠くに先輩の声を聞いて。

だから先輩は雅さんのことを嫌っていて、怖がっていたんだと感じた。














消えた雅さんの姿に、学園全体が騒然となった。

雅さんの体が光りだしたときに、ああ、あの人は帰ってしまわれるんだな、と漠然と感じて。

いいことなのに、悲しいなあと思って。


本当に消えてしまった瞬間、泣き出す級友たちに、うなだれる先輩たちに、なんだか僕だけ取り残されてるように感じた。

級友のもとには先輩方が向かっていたのに、何故かこういうとき一番良く動きそうな鉢屋先輩が来なくて。


おかしいなあと思えば、もう1人の先輩の叫び声。


常とは違う先輩の姿に、驚いて、近くに来てた彦四郎と共に、先輩のところへ向かう。

でもその前に黒い人が行ってて、でも。

知らないその人は、優しい目で先輩を見ていたから。

先輩には綾部先輩がいたから。

だから僕らが向かうのは鉢屋先輩のところ。


「鉢屋先輩、鉢屋先輩。」


呼べば泣き出しそうな顔で振り向いた先輩に、ようやっと僕と彦四郎は現状を把握したように泣き出してしまった。



















後輩が泣いている。

大事な委員会の後輩が。

私の世界を形作る、1人の人物が。

それを感じながらも、私は動くことができなかった。


雅に感じていた違和感と、に感じていた違和感の意味をようやっと悟って。


それでも、動くことができなくて。

雅がいなくなってしまったことはもちろん悲しい。

心に穴が大きな穴が開いたみたいで、とても悲しい。


でも、それだけじゃなくて。


はこの世界の人ではない。

もとは雅と同じ世界の人。


いつかは帰るかもしれない、彼女と同じ世界へ。


私はここで生きるしかできないのに、もしもこの世界からが消えてしまったら、私は、どうすればいい?

の前に現れた黒に動揺するよりも先に、後輩たちに声をかけられて。

振り向けばそこにいた二人はじわり、涙をこぼした。


どうか、どうか、この世界から消えないで。










突然現れた彼女は来たときと同じように突然消えた。

それも、俺たちみんなの前で。



決戦の相手は、

こいつとも最近あってなかった。

否、お互いに避けていたからだが。

「よろしくお願いします。」

その姿は、可愛い後輩。

だが、あの日は彼女に告げた言葉に、かっとなってしまったんだ。

これが終わればきちんと話さなければと思いながら、構えた。




目の前のが何かに気をとられるのと同じように、俺もその存在に意識を一瞬もっていかれた。


だからこそ、の腕を傷つけてしまった。


どうするべきか、行動に繋がらなくて、

なのには俺に笑う。

それにどうしようもなく心が痛んで。


そのときに響いた彼女の悲鳴。


俺は彼女になんて事を見せてしまったんだと、自らを殴りたくなった。




「帰りたいっ、よおっ!!」



その悲痛な声に、ならば返してやらないとと思った。


光り、消えていく体に、意味を悟ると悲しみが大きくなった。

でも、彼女を見送りたくて笑って告げる。

「雅、元気で。」

その言葉は頼りなく震えていたけれど。




大好きだとか、

愛してる、だとか

言いたかったけど、言うわけには行かなくて。



どうか、元の世界でも元気で、いて欲しい。

それだけが俺の願い。

傷つくこともない、傷つけることもない、そんな世界に、戻って。


どうか、元気で。



彼女はあっけなく消えて。

もっと動揺するかと思っていた下級生たちはただ泣くだけで。

本当は後輩たちと共に泣きたかった。


だけど


ただ1人、ただ1人だけ、思いもしない人物が声を上げた。


それはただただ重く響いて。

その言葉の意味を理解すると同時に、何故あそこまで彼女にひどい言葉を吐いたのかという理由がわかって、愕然とした。








あの日から4日、はまだ、目を覚まさない。















※※※
孫、しろ、きり丸、庄、留さん、三郎、視点。
うん。私のかく三郎は捻くれかんが満載ですね。
三郎はこの世界に自分がいることは、自分を構成しているものは、自分を知っている人たちだと思ってます。
自分を知っている人、はちやへいすけやらいぞうや、そんな自分がいることを知っていて、理解してくれている人たちが自分を構成していると考えているのです。
三郎は、いつか離れることを理解しています。
敵対するかもしれないことも、理解しています。
でも、世界を違えてしまうことは想像していなくて、もしもそうなってしまえば、自分を存在するものが、この世界から消滅すると考えてる。
とかなんとか。
・・・ややこしい。










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