ドリーム小説
宵闇 漆拾弐
すぱん
すごい勢いで開いたそこにいたのは蒼い色。
それは息もつかぬほどの勢いで迫ってきて、そうして思い切りに抱きついた。
「三郎せんぱっ、い!?」
ぎゅうっと強く強く抱きしめられて窒息しそうになる。
腕の痛みに顔をしかめる。
「・・・」
無言。
「・・・」
ひたすら無言。
「・・・」
だが無言のそれは痛いほど伝わってくる。
この人は人一倍絆を恐れていて、信じている。
そしてが存在することが、彼にとって救いの一つとなっているのだ。
そう思うとその姿がなんだか可愛く見えてきて。
必死で腕を拘束から解き、頭に手を置く。
ぽとぽとと数度撫でてみれば、少し力がゆるくなったその体。
「また、心配かけてしまいました」
「・・・」
「ごめんなさい」
ふわふわのその髪を撫でる。
「・・・」
「はい」
長い沈黙の後、開かれた口。
「は」
話された言葉。
「はい」
「あの世界に、帰るのか・・・?」
言葉に、詰まる。
それはたった今まで自身が自問自答していたもの。
ぐるぐる頭が回る。
答えが、見つからない。
その答え、は___
ふわり
突然走る三郎とは違うぬくもり。
それは後ろからのもので。
「」
「」
何度も呼ばれるその名に、視線の端にかろうじて見えるふわふわの銀色の髪に、その正体を悟る。
「き、はちろ・・・」
ぽろり零れたその名前に、喜八郎はゆっくりと口を開く。
「ねえ、。私じゃだめなの?」
「・・・え?」
その言葉の意味を解りかねて声が漏れる。
「私はこの世界にいて、と共にこれからもすごしていきたい。」
ことり胸が音を立てた。
「私は、にこの世界にいて欲しい。」
ふわり胸に熱が生まれた。
「私じゃ、をこの世界にとどめて置ける理由にならない?」
じわりじわり乾いた砂に水がしみこむように、それは優しく深く、の心に入り込む。
揺らいでいた世界がはっきりとしたものに変わった。
「、」
三郎の声にそちらに目を向ければ、常では見ることがないまっすぐな瞳。
「私も、にこの世界にいて欲しい。」
「が私を見ていてくれれば、私は私でいられるから。」
ぼとぼとと目から雫が零れだす。
この世界にいて欲しい
それは世界が変わるように、の胸にたった一つの正解を導き出して。
「」
一つ名前が呼ばれるたびに、この世界でのが出来上がっていく。
「」
一つ名前が呼ばれるたびに、がいる意味が生まれる。
涙があふれる。
零れるそれをひっしでこらえて、そして言葉を発する。
「俺は、っ俺は、この世界に、い、ます。喜八郎、や、三郎先輩、みんながいる、この世界にっ、俺を必要だといってくれるあなたたちがいる限り、俺は、この場所にいます、っこの場所に、いたいっ・・・」
あふれ出る言葉を口にすれば、それはなんとも陳腐で、でも、それが今のの真実で。
ふわり、笑う感覚。
先ほどよりもさらに強く、抱きしめられる感覚。
三郎は前から、喜八郎は後ろから。
挟まれた状態で、は笑う。
優しいその温もり、暖かいその笑み。
は今ここにいる。
「三郎っ」
突如現れた存在。
飛び込んできたのは同じ顔。
黒髪二人に、銀髪。
見慣れた蒼はを見て、優しく笑む。
「気づいたんだね?よかった。」
「うん。そこまで顔色は悪くないな。」
「三郎、のかないと、腕怪我してるんだよ?」
「綾部も、な?」
それぞれ、特有の笑い方で、に話しかける。
その目は微かに赤いけど、それでも笑う。
彼らは強く、とても強く。
そして仲間がいることで、さらに強くなる。
「おかえり、。」
その言葉に、ただただあふれる涙は止まることを知らなかった。
『あの子は、雅を除けば一番不安定』
『いつ消えるかもしれないのは、あのこの方かもしれないんだよ。』
いつか、言われたその言葉の意味。
今ようやく理解した。
喜八郎だけが知っていた、のこと。
それは少し寂しいけど、恐らくはそれを喜八郎が知ってることも知らなかったのではないかと思う。
『俺をっ、っっわたしを、あの世界に帰してよぉっ!!!!!!』
その言葉は胸に深く刺さった。
帰ってしまうのか?
、お前も彼女のように、私たちに消えない痛みを残して。
「おい、喜八郎、いきなり立ち上がってどこにっ__」
沈んでいた思考は三木エ門の声によって戻された。
見れば走ってい喜八郎の後姿。
それを見送る、三木と私とタカ丸さん。
しばしその状態。
医務室のほうから聞こえてくる騒がしい声に、が気づいたのであろうという結論にたどり着く。
「行くぞ!」
三木の声はとこか緊張しているようで、でも、体は急くように。
「うん。行こう」
タカ丸さんの声に、少し落ち着きが戻る。
ゆっくりと三人で顔を見合わせて、のもとに向かった
たとえ、があの世界に戻るのだとしても、このときは、共にいたい。
※※※
みんなの目が赤いのは、雅さんが帰ったことに悲しんでいるから
は自分がこの世界のものじゃないと自分以外知らないと思ってた。
師匠がしってたのは、たぶん以前そんな人にあったことがあるからとか何とか。
そういう裏設定だったり。
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