ドリーム小説
宵闇 漆拾伍
「それでは、これからもあの子をよろしくお願いいたしします。」
一つ礼を返してその庵から出る。
話したのは、今回のことと、それから以前の誘拐騒ぎのこと。
だが、どれも言ってしまえばあの子自身のことなので私が口を出すつもりなどさらさらない。
(おや?ようやく目を覚ましたのかあの子は。)
あの日から5日。
気配を探ればざわめく医務室に気が付く。
実は途中でほっぽり出してきた仕事の後始末に行っていたため、幾分か遅れた挨拶となったのだ。
(ちなみに今回の任務は利吉と同じものだったのでほっぽりだしていた間はあいつが代わりにしてくれていたのだが。)
「彰義。くんが目覚めたようだよ。行かなくていいのか?」
医務室の様子を伺いに行っていた利吉が木の上からやってくる。
「今はまだ人が多いでしょう。あとで気が向いたら向かいますよ。」
そう返せば利吉は苦笑して。
「早く会いに行ってあげないのかい?結構心ぼそかったんじゃないのかな」
「そんなに柔な子に育てた覚えはありませんから。」
本当ならば、あの子が卒業するまであうつもりなどなかったのだ。
それを何があったんだか、すでに二度もあっている。
(あの子は一度目を覚えていないようだったが。)
不意に思い出すのはであった日のこと。
あんな子供、ひろうつもりなどなかった。
あんなに迷ったような、困ったような、それでいて大人びた瞳を持っていたから、昔の知り合いに重ねてしまったんだ。
だから、気が付けば連れ帰っていたんだ。
後ろを付いてくるそれはうっとうしいし、夜中に泣き出したりすれば息の根を止めてやろうかと思ったこともあった。
けれども私を見て、ふにゃり笑うその顔に幾度となく癒されたのも確かで。
早くから忍びとして世界で生きていた俺にとって、この子は綺麗過ぎる存在だったんだ。
いずれ私は死に絶える。
それもきっとこの子の知らないうちに。
それならばどうにかして1人で生きるすべを見につけさせて、私から離れることになれなければいけないと思った。
だから、ここにやったのだ。
ただ、それだけだったというのに。
あの子は思っていた以上に成長しているようだ。
・・・さてそろそろ利吉がうるさくなってきた。
おとなしくあの子の所へ向かうとするか。
が目覚めたその二日後。
授業中にもかかわらず、医務室の前に現れた一つの影。
それに微かな緊張を持ちながら声をかけた。
「お久しぶり、です、師匠。」
「そうですね。。」
ふわり音もなく入ってきたその姿は長く見ていなかったもので、懐かしい、と感じた。
「お元気そうで何よりです。」
「まあ、あなた以上には。」
変わらない姿にそう声をかければにこり満面の笑みで返されて。
そっと一度目を閉じて、彼に言わなきゃいけないことを、告げる。
「・・・師匠。」
「なんです」
座ることはせず、入り口で壁に寄りかかったままの彰義。
「俺、・・・本当はこの世界の人じゃないんです。」
「知ってますよそれくらい。」
満を持して伝えたそれなのに、彰義はこともあろうか簡単に返してきた。
「俺は・・・へ?」
それに思わずもれた間抜けな声。
ふう、と一つ溜息を吐いて彰義は続ける。
「ですから、あなたはこの世界の人ではないのでしょう?」
「え、ちょ、え?なんで??」
微かな混乱に陥れば、ふわり、とてもとても美しく彰義は笑った。
「自分の子供のことがわからないことがありましょうか?」
「っ、」
それに胸が熱くなる。
涙腺が緩む。
いつもはそんなことをいってはくれないくせに、卑怯、だ。
寄りかかるのをやめて彰義はこちらに背を向けた。
「私はそろそろ行きます。まあ、あと2年頑張りなさい。」
それらの言葉に、の中でいろいろとふっきれた。
「ありがとうございます・・・と、う、さん」
ぽつり初めての言葉に下を向いて緊張していれば、いつの間にかその姿は消えていて。。
それとすれ違うように入ってきた利吉はどこか驚いたようで。
「利吉、さん・・・」
無視されたことに結構な衝撃を受けながらもその人物に声をかけた。
そうすればその人は、とてもさわやかに笑って。
「ああ、気が付いたみたいで良かったよ、くん。」
そういった後、微かに眉をひそめてに尋ねた。
「・・・なあ、彰義が顔真っ赤にして出て行ったんだが・・・・・・そういえばくんも赤いね?」
顔に熱が上がったのを、利吉はどうやら見逃してはくれなかった。
あの顔色を変えることがめったにない彰義が?そう思うと先ほど無言で出て行ったのも、照れていたのだと思えて。
あの彰義の照れた顔など思い浮かばなくて。
※※※
が初めて彰義を父と呼びました。
今まで呼ばなかったのは向こうの世界の父が忘れられなかったから。
今でも忘れてはいないけど、この世界で生きると決めたから。
以下おけま
「そういえば利吉さんはいつ学園へ?」
「ああ。私と彰義は同じ任務を受けていたんだが、5日前、そうだな君が倒れたその日、任務の途中だと言うのに全てを放ってどこかへ行ってしまってね。」
「・・・え?」
「あの仕事熱心な、というか仕事ばかな彰義がだよ?よっぽど君のことが心配だったんだろうね。」
あの人はが思っている以上に不器用で、優しい人のようです。
赤かった顔がさらに赤くなった。
back/
next
戻る