ドリーム小説
宵闇 漆拾玖
きり丸と共に泣き明かした夜。
次の日、体調が万全でないにもかかわらず、布団も引かず、ただ床にうずくまって眠っていたは案の定風邪を引いて。
第一発見者の
(きり丸が居なくて真っ青になってきり丸を探しに来た)乱太郎、そして(医務室に居なくなっていたを探していた)伊作。
(いつの間にやら傍で沿うようにして眠っていた)喜八郎に(いなくなった喜八郎を探しにきていた)滝夜叉丸。
彼らに(喜八郎はそばで傍観していた)こってりと小言を食らって、は再び医務室の床にお世話になっていた。
(特に伊作はとてつもない笑顔でに拳骨をお見舞いした。)
傍にはきり丸と喜八郎。
きり丸は自分のせいでが風邪を引いたと責任に感じていて、おろおろとしていて。
喜八郎は無表情でをぼおっと見ていた。
其れが起こったのはそんな時。
pipipipipi
その音はの枕元から聞こえてきて。
その音に一番に反応したのは保健委員として医務室にいた伊作、乱太郎、数馬で。
そしての傍に居たきり丸と喜八郎で。
二度となることがないと思っていたその音は大きな希望と恐れを生み出した。
まさかと言う気持ちを抱きながらもそっとそれに手を伸ばし、触れる。
淡い桃色のそれは確かに音を発していて。
廊下の向こうから多くの人が走ってくる気配を感じて。
そっと受話器のボタンを押してそっと声を発した。
「・・・もしもし・・・?」
そこから聞こえてきた声は、ずっとこの学園のみんなの心を占めていた人のもの。
気が付いたのは家についてから。
何故流れるか解らない涙を止めて、そうして家についてそこで気づいた。
自分の携帯がないと言うことを。
しばし考えてもどこにやったのか思い出せなくて、そうして咄嗟に思いついたのが電話をかける方法だった。
pipipipipi
コール音
一回、二回、三回、・・・
『・・・もしもし・・・?』
その声はどことなく透明感を伴うもので、一瞬、何かの感情に飲み込まれそうになる。
其れを咄嗟にはらって、口を開く。
「え、と、すみません、私の携帯を拾ってくださった方・・・でよろしいのでしょうか・・?」
『・・・え?』
「家に帰っても見つからなくて、ずっと考えていたんです。」
『っ、』
「拾ってくださってありがとうございます。」
『あなた、は・・・』
「え・・・?」
『あなた、は、覚えて、ないんですか・・・?』
「え、と・・・?」
その言葉の意味を理解することができなくて、聞き返す。
『っ、__』
何かを押し殺したような息を詰めるような気配。
そうしてようやく開かれたその口は、私に理解できないことばかり、話す。
『俺の名前は、です。・・・あなたは藤堂雅、さんですよね?』
「え、と、はいそう、ですよ?私は藤堂雅__どうして知って、るんですか?」
自分の携帯にはフルネームは入れていなかったはずだ。
『わすれて、しまったんですか・・・』
ぽつり呟かれた其れが私の心をひどく揺さぶった。
「っ、ごめんな、さい・・・」
わけもなく謝れば、くすり、笑う声。
「・・・え?」
『覚えはないかもしれませんが、少し、このままで話を聞いてください。』
「え、は、い・・・?」
解らないままで返事を返せば相手が少し離れたようで声が遠くなる。
『これに向かって話してください。そうすれば彼女と話せますから。』
そんな会話の後聞こえてきたのは子供特有の高い声。
『『『雅さ〜ん!』』』
「え・・・?」
『雅さんと一緒に遊んだのすっごく楽しかったです!』
『作ってくれたお菓子もすごくおいしかったです!!』
『なめさんのこと嫌がらないで居てくれたの、うれしかったです。』
『掃除とは、知らない方法教えてもらったりもしました。』
『解らないところ教えたときのありがとうって言葉が好きでした。』
『雅さんが笑顔だと僕もうれしかったです。』
『俺、雅さんに名前を呼んでもらうのすっげー好きでした』
『たとえ雅さんが僕らのこと忘れてても、僕らは雅さんのことずーっと覚えてます!』
『ずーっと、大好きです!!』
『また会いましょう!』
『まってます!』
ことり何かが零れ落ちた
『・・・雅さん。』
『突然帰ったのにはびっくりしました。』
『あなたの世界では無理しすぎないでください。』
『元気で、すごしていてください!』
閉じていたふたがゆっくりと開くように
『雅さん!』
『いろんなこと、教えてもらいましたありがとうございました!』
『こいつら一緒に探してくださったこと、絶対忘れません!』
『怪我、あまりしないでくださいね?』
『次あったときはまたおいしいものたくさん作ってください。』
『手引っ張ってくれたことうれしかった!』
『笑ってもらえたら、良かったって思えたんです。』
その中に潜んでいたのは色とりどりの少年たち。
『雅さん。今度またあなたの髪を触らせてくださいね?』
『あなたの傍にはいつもこの私がついていますよ!』
『そろばん手伝ってくださってとても助かりました!』
『穴に落ちてくれてありがとう』
優しくて、可愛くて、愛しくて、強がりで、泣き虫で、意地っ張りで
『迷ってばかりでごめんなさい。でも何度もあなたに助けられました。』
『生物委員で一緒に活動してくれてありがとうございました!』
『食堂にいらっしゃるのに何度癒されたか解りません。』
『変装、次は見破って見せてくださいね?』
『あなたのまとう空気はとても居心地が良かったです。』
あふれ出すのは記憶の洪水
『綺麗であることをおこたるなよ』
何で忘れていられたのだろうか
『疲れたときはちゃんと休め』
あんなにも優しかった日々を
『だめだと思ったときは誰かに助けを求めること!』
充実した世界を
『・・・元気で』
鮮やかな色彩を
『私たちは、いつでも雅と共にあるからな!』
そして
『・・・雅、』
大好きだった人を
「っ、と、め、くんっ・・・」
あふれた名前は最愛の人のもの。
はっと驚く留くん。
表情が簡単に思い浮かんで。
それすらも愛しくて愛しくて。
涙が止まらなくて。
『・・・無事帰れたんだな?』
懐かしい、懐かしい声。
こくり、見えないであろう彼に、うなずくことで伝えて。
『よかったよ。雅、お前が無事にその世界に戻れて。』
「っ、あり、がとっ・・・」
少しの沈黙の後、戸惑うような留君の声が聞こえてくる。
『あーっ、とな・・・言いたかったことが、あったんだ。』
そうしてまた沈黙。
「とめ、くん・・・?」
聞けばあーとかうーと化聞こえてきて。
そうしてその後ろからは文次郎くんがさっさとしろって怒ったような声が聞こえてくる。
私がいたときと変わらないそのやり取りに、胸のおくがつきりと痛んだ。
私がいなくても、彼らの世界は当然のように動き続けているという真実に。
それでも、心の違うところでは私がいなくても大丈夫なことに安心している自分もいて。
なんて身勝手、なんてわがまま。
この世界に帰ってきたからこそわかる。
今生きているということがどんなに尊いか。
そうして気づいた。
彼らがどんなに必死で日々を生きていたのか、私の言った言葉は彼らの世界を否定したも同然だと。
彼の声で意識を戻す。
『俺、は・・・』
そうして意を決したように、彼の言った言葉は、私の心に大きな変化をもたらした。
『俺はっ、俺、は・・・雅のことが大好きだ。』
照れくさそうに、頭をかくしぐさが浮かぶ。
ずっと聞きたくて、でも言うこともできなくて、そうしてやっと口に出せた言葉たち。
「っ、私も、」
「私、も留くんの、こと、大、好き、です・・・!」
心のそこからの思い。
告げればふわり笑う感覚。
『ありがとう』
その言葉は全てを凝縮したように。
心に染み入る。
染み渡る。
「っ、また、会いたい、よっ、」
『それ、は・・・』
その言葉に困ったような気配。
わがままだって解ってるけど、勝手過ぎるって思われても仕方ないけど
でも、言いたい。
「今度、はもっと、もっと皆のことを理解したい。あの世界のことを知っていきたい。」
それらは本当のこと。
「逃げないように、ちゃんと受け止められるように。」
電話の向こう、溜息が聞こえてきて。
あきれられたのだろうと思った其れはまったく違う形で裏切られる。
『じゃあ、待っててやるよ。雅のこと。この世界で。』
「とめ、くんっ・・・」
『少しでもお前がここにきたいという気持ちを持っててくれる限り、俺はいつまでも雅を待ってるよ。』
その言葉にただただ涙があふれて、言葉にならなくて。
微かに雑音が入るようになった携帯。
『藤堂、雅さん。』
次いで聞こえたのは彼女の声。
『俺はあんたを見ているのが嫌だったけれども、嫌いではなかったですよ。』
最後のその言葉は何よりのプレゼント。
「みんな、ありが、とうっ・・・」
頭に浮かぶ数多の人たち。
優しい優しい人たち。
再びあなたたちに会えることを、私は望みたい。
※※※
パソコンが変わったせいで四苦八苦・・・。
言いたくて言えなくて、の言葉達。
もっと留さんをカッコ良く書きたいのに・・・。
うまくいかないなあ・・・。
ごめんなさい。
いまさらですが雅のお相手は留さんです。
雅はあの世界が怖かった。
でも、それでも再び会いたいと願い、理解したいと考えた。
だからこその、言葉。
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