ドリーム小説
宵闇 捌拾
『え、と、すみません、私の携帯を拾ってくださった方・・・でよろしいのでしょうか・・?』
その言葉に頭の中身が一瞬考えを放棄するように真っ白になって。
「・・・え?」
すごく間抜けな声が漏れた。
受話器からの音が耳の言い彼らには聞こえていたのだろう。
皆が皆息を呑んで悲しげな表情で。
『家に帰っても見つからなくて、ずっと考えていたんです。』
「っ、」
だけしか理解ができないであろう会話。
『拾ってくださってありがとうございます。』
「あなた、は・・・」
思わずもれたのは彼女を糾弾するような言い方で。
『え・・・?』
「あなた、は、覚えて、ないんですか・・・?」
『え、と・・・?』
不思議そうなその顔が頭に浮かぶ。
「っ、__」
わからないようなその反応に苛立ちが募る。
一つ息を吸って、できるだけ普通の声で尋ねる。
「俺の名前は、です。・・・あなたは藤堂雅、さんですよね?」
『え、と、はいそう、ですよ?私は藤堂雅__どうして知って、るんですか?』
彼女の携帯にはフルネームは刻まれていなかったからこその質問だろう。
でも、その言葉の意味は___
「わすれて、しまったんですか・・・」
たった一つ。
その真実にただ悲しみが生まれる。
『っ、ごめんな、さい・・・』
でも、その声は、しぐさは口調は、なんら代わりがなくて。
ただ笑いがこみ上げた。
「覚えはないかもしれませんが、少し、このままで話を聞いてください。」
『え、は、い・・・?』
そう告げれば戸惑ったような声。
でも、それを無視して後ろでの一挙一動に注目していた彼らに携帯を渡す。
「これに向かって話してください。そうすれば彼女と話せますから。」
そういえば戸惑ったようなしぐさの後一番に水色が転がり出てきて。
話す言葉、交わす笑顔、
それをただ見守る。
青・黄緑・紫・蒼・そして深緑
留三郎の言葉に彼女は全てを思い出したように泣き出して。
『っ、また、会いたい、よっ、』
あんな思いをしたのに、それでも、また会いたいと、そう思ってくれるのがなんだかむずがゆくて。
『今度、はもっと、もっと皆のことを理解したい。あの世界のことを知っていきたい。』
それらは決心の現れ。
『逃げないように、ちゃんと受け止められるように。』
彼女の瞳には強い意志が宿っているのだろう。
「じゃあ、待っててやるよ。雅のこと。この世界で。」
「少しでもお前がここにきたいという気持ちを持っててくれる限り、俺はいつまでも雅を待ってるよ。」
それはこの場所に居るみんなの思いをまとめたもの。
最後に一言、携帯の電波が悪くなってきたのか、少し声が聞こえずらくなってきて。
留三郎から携帯を受け取りそっと最後の言葉を述べる。
「藤堂、雅さん。」
最後の最後に、本音を少し。
「俺はあんたを見ているのが嫌だったけれども、嫌いではなかったですよ。」
別れの言葉にはまったくにつかわしくないそれに彼女の微笑む気配。
『みんな、ありが、とうっ・・・』
それを最後に彼女の声は聞こえなくなった。
そっと皆を振り向けばどことなくふっきたような顔で。
皆が自然に笑う。
「彼女が戻ってくるまで、この場所を守らなくてはな。」
仙蔵の声に皆が頷いて。
「食満先輩。」
呼んで振り向いた彼に薄桃色の其れを渡す。
驚いたような顔に微笑んで、その手に乗せる。
「先輩が持っていてください。使い方は教えます。先輩が持っているのが、一番いいでしょう?」
そう言えば一拍後その目を柔らかくとろかして留三郎は笑った。
※※※
あと3,4話かなあ?
back/
next
戻る