ドリーム小説
宵闇 捌拾弐
「ぎんぎーん!!」
待ち合わせ場所の門へと向かうためほてほてと運動場を横切ろうとすればそこにはあきらかにばてきっている後輩たちを連れた深緑がいつもの掛け声を上げながら走っていた。
「先輩〜もう疲れましたあ・・・」
「ぎんぎーん!お前ら、こんなことで弱音を吐くなど許さんぞ!」
「っ、そう、だ、ぞ!だん、っぞ!っこんな、ことで、へばっ、て・・・」
「うわあ!佐吉ぃ!?」
「!潮江先輩!佐吉が倒れました!」
「なにい!鍛錬が足りんぞっ!」
「うわわ、神崎先輩がいませんっ!」
「なんだとっ!?」
団蔵が音を上げればそれに文次郎が叱咤を飛ばす。
それに佐吉がちゃちゃを入れたかと思えば佐吉自信がへばって倒れて。
(ちなみにこのあたりから左門はあさっての方向へと走り出した。)
それを見た団蔵が声を張り上げれば三木エ門が慌てて文次郎を呼び戻す。
「・・・どこの委員会も大変そうだ・・・ていうか、さっきも似た光景を見た気がする・・・。」
頭に浮かぶのはいけどんとその愉快な仲間たち。
彼らは迷子を捜しに裏裏山へ・・・ご苦労なことだ。
学級委員でよかった。
がそんなことを思っていれば不意に三木エ門と目が合って。
「っ!左門を見なかったか!?」
「向こうのほうに走っていった。」
告げれば何でとめなかったんだと怒られた。
「・・・忙しそうだったから声をかけるのもどうかとおもってな。」
そういえば今度は脱力されて。
「、体調はもういいのか?」
ふと思い出したように文次郎に尋ねられる。
ちなみに彼は佐吉を医務室に連れて行くのだろう、彼をおぶっていた。
「あ、はい。ご心配をおかけしました。もうほとんど回復です。」
「それならいい。」
微かにそむけられた顔は赤くて、なんというか、この先輩はこの人で可愛いなあと感じて。
「潮江先輩。」
名前を呼べばぶっきらぼうになんだ、と返されて。
「また自主錬に付き合っていただけますか?」
聞けばふっ、とその顔に笑みを浮かべ彼は返す。
「当たり前だろ。びしばし行くからな。覚悟しておけ。」
お願いします!
返事して、団蔵に手を振り(笑顔で振りかえしてくれた)三木に頑張れと声をかけて。
先ほどよりも足早に進みだした。
運動場を出たところで不自然なほどのたくさんの穴穴穴・・・
その周りに広がる白い紙のような物体。
人はそれをトイレットペーパーあるいは落とし紙と呼ぶ・・・
などとどうでもいいことはおいといて、は目の前の惨状に手を貸すかどうかで非常に悩んでいた。
助けたいのは山々なのだが、彼らにかかわれば更なる不運が巻き起こり、待ち合わせに間に合わない可能性がでてくる。
かといって放って進めるほど非情にもなれない。
「・・・どうしようか・・・」
「っ、その声はかな?」
「そちらは善法寺先輩ですね?」
「うん。そう。僕と___」
「先輩、ですか?」
「せんぱあい・・・。」
「助けてくださぁいっ」
「また落ちちゃいました・・・」
左近、伏木蔵、乱太郎、数馬それぞれがに助けを求めてきて。
これは放っておくわけには行かない、その結論にたどり着き、まず縄が必要かなあ、と考える。
「っ!」
呼ばれたことに振り返ればそこには目つきの鋭い深緑。
その後ろからは黄緑と水色が付いてきていて。
皆が各々縄やら鋤やら持っている。
どうやらこの惨状を見つけて助けに来てくれたようで。
ほっと安堵の息をつき、留三郎によっていく。
「出かけるのか?」
くしゃり頭を撫でられてそう尋ねられる。
頷けばさらにくしゃくしゃと撫でられて。
「食満先輩、保健委員が・・・」
「ああ、俺ら用具委員に後は任せておけ。」
「大丈夫です。先輩。」
「任せておいてくださあい!」
「僕たちがいればすぐに解決します〜!」
「先輩は楽しんできてください・・・」
なあ、と留三郎が後ろに向かって声を発せれば彼の後ろで口々に返事を返してきた。
それに少しほっとしながらお礼の言葉を述べれば、留三郎に背中を押されて。
「ほら、誰かと待ち合わせしてるんだろう?早く行け。」
それに最後にペコリお辞儀を返して走り出した。
「うわあ・・・まった派手に落ちたなあ、こいつらも・・・」
後ろから聞こえた呟きに手伝えなくてごめんなさいと返事をして。
「ああああ!!ちゃ〜ん!!」
少し小走りで門に近づく。
と、硝煙倉のほうから見知った金色が出てきて。
はた、と目が合った瞬間大声で名前を呼ばれた。
それに足を止め彼が近寄ってくるのを待てばその後ろから声に反応したのだろう、蒼と水色と青色が出てくる。
その後ろにもう1人蒼。
それは勘右衛門のようで。
伊助がうれしそうに手を振ったので振りかえしてやる。
「どうしたんですか?タカ丸さん。」
聞けば彼はどことなく必死な形相で。
「ちゃん、これからお出かけなの??」
そう聞いてきて。
「喜八郎と町まで行くんです。」
そう告げればぎんっとした目でこちらを見てきて。
そのあまりにも鋭い視線に一瞬たじろげばすかさず詰め寄られる。
「な、なんですか?」
思わずどもって聞けばタカ丸の手がすっとの髪に伸びて。
「結わせて?」
疑問系のはずのそれはまったく持って疑問形ではなかった。
「タカ丸さんっ、委員会中ですよ?!」
青色の三郎次が慌てて駆け寄ってきてタカ丸に言えば彼はどこか捨てられた子犬のような目をして同じように近づいてきていた兵助に向き直る。
「兵助く〜ん・・・」
それにひとつ溜息をついて兵助は口を開いた。
「じゃあ、倉庫の在庫確認、タカ丸さんが全部してくれますか?」
「わわ!するよするよ!」
それにタカ丸はぱあっと笑顔になって。
「の髪、いじるんですか?タカ丸さん。」
兵助の後ろから現れた勘右衛門がタカ丸とは別のほうから髪に触れてきて。
頷いたタカ丸に微笑んだ。
「勘ちゃん先輩。」
あまりにも優しく触れるものだからなんだか恥ずかしくなってその名を呼べばにっこり満面の笑み。
「綺麗にしてもらいな、。」
「っ!?」
最後に何を思ったかの髪に一つ口付けを落として硝煙倉へと戻っていった。
「さあ、ちゃん、可愛くしてあげるね?」
赤い顔のに笑いながらタカ丸は髪結い道具を取り出した。
「邪魔。」
「先輩ばっかりずるいっす。」
少々遅れて門へとたどり着けばそこには喜八郎だけではなくてなぜか他にも人が居て。
その人物は喜八郎と言い合いをしていた。
というか
「三之助、お前のこと体育委員が必死で探してたぞ・・・」
何故ここに居る?
無自覚方向音痴よ。
名前を呼べばぱっとこちらを見た二人。
「、遅い。」
むうとした顔をする喜八郎に悪いと謝れば三之助が近づいてきて。
「先輩。」
身長が三之助のほうが高いため自然と見上げる位置になる。
・・・でかいのはずるいと思う。
「なんだ?三之助。」
「その髪型すっげ、似合ってますよ。」
「っ、あり、がとう・・・」
先ほどタカ丸によって結われたそれは普段の身勝手な髪型と違ってとても綺麗に結われていて。
男性物の衣服を身に着けてはいるがどことなく中世的な雰囲気をかもし出していて。
少々不安に思っていたため三之助の言葉は素直にうれしかったのだ。
「先輩。」
再び呼ばれて見上げればふっと笑われて。
その長身を折り曲げての耳元に口を寄せてささやくように言った。
「先輩の顔、赤いっすよ。でも、可愛いです。」
「んなっ!?」
それにさらに顔に熱が集まるのを感じて。
慌てて体を離す、と後ろからぐいと引っ張られた。
見れば常ではありえないほど解りやすく不機嫌をあらわにした喜八郎。
「きはち、ろう?」
驚いて名前を呼べばぎゅうっと後ろから手を回されて抱きつかれて。
「次屋、に触ると怒るよ。」
淡々と告げられたそれの意味を取りきることができなくて首を傾げれば目の前の三之助は不敵に笑って。
「望むところ、ですよ」
こちらもまた良くわからない言葉を吐いた。
「行くよ、。」
抱きつくのをやめたかと思えばぐいと腕を喜八郎に引っ張られ。
と、反対の手を三之助に取られた。
「先輩、覚悟、しててください。」
結局どれもには理解できなくて首を傾げれば新たな声。
「!お前も出かけるのか?」
「三郎先輩」
にやりとした表情で傍には二人の一年を引き連れて現れたのは三郎。
「先輩!」
庄と彦がぱたぱたと近寄ってきた。
「お元気になられたようでよかったです。」
「これで鉢屋先輩もおとなしくなってくれますね。」
冷静な二人に思わず笑う。
三郎が後ろで突っ込んでいるがそれは無視だ無視。
「ところで庄たちはどうしたんだ?」
よく見れば彼らは私服で。
「僕たちも街に出るんです。」
「備品と称したお茶菓子を買いに。」
隠せていないそれに苦笑して。
するりいつの間にか後ろに立っていた三郎がの結われた髪に触れる。
「タカ丸さんか?」
「はい」
「うん。私があげた紐使われてるね。」
「はい。喜八郎からもらったやつもです。」
うれしそうに言われたのでそれにこちらも笑んで返した。
「喜八郎?」
どうせ目的地はほぼ変わらないのだから一緒に行こうかという話になって、(喜八郎は何故か不機嫌だ。)出門票にサインをしていれば新たな気配。
みれば私服の作法委員会だ。
しかも皆が皆何故か女装していて。
「・・・相変わらず綺麗ですねえ、立花先輩・・・」
「ふふ、出かけるのだといえば化粧くらい施してやったのに。」
まじまじと言えば仙蔵は妖艶に美しく微笑んだ。
「先輩!」
兵太夫がぱたぱたとに飛びついた。
それを受け止めてやればふわり兵太夫は笑って(女装してるから可憐だ。)
「その髪型とてもよく似合ってます!」
「兵太夫も可愛いよ。」
兵太夫の髪を崩れない程度になでてやる。
ふ、と後ろを見れば恥ずかしそうな藤内に伝七。
恥らう様がとてもかわいらしい。
「お前らも、可愛いなあ。」
告げてやれば真っ赤になって。
と、くいくいと強く袖を引っ張られる感覚。
みれば、先ほどよりもさらに不機嫌になった喜八郎。
「、走るよ。」
「・・・へ?わっ、喜八郎?!」
「先輩っ!」
そういったかと思えば手を引いたまま走りだされて。
後ろから聞こえてきた三之助ら後輩たちの驚いた声や先輩の笑い声が遠ざかる。
「、今日は私と出掛けるのだから。・・・他の人を見ないで。」
通り過ぎる景色を横目に喜八郎からもらされた言葉に
無性に笑いがこみ上げて。
引っ張られるだけだったその手をぎゅっと握った。
「そうだな、喜八郎!今日は二人で楽しもう!」
青い青い空の下その手のひらのぬくもりに愛しさを感じた。
※※※
次でラスト!
ちなみに勘ちゃんは兵助のお手伝いです。
三之助がを追いかけられなかったのは忍装束のままだったからとかいろいろありますが一番の理由は小松田さんによる足止めでした。
まだ出門表にサインしてなかったんです。
うん、なんとかだいたいだせた気がする・・・。
出番少なかったみなさんごめんなさい。
なんだか甘い・・・個人的に甘い・・・
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