ドリーム小説





 宵闇 捌拾参




















その人は突如として現れた。


俺が4年生だったとき。


光と共に姿を現したその人は


ぼろぼろの姿で気を失っていて。






自らを異世界の人間だと名乗った彼女はとても大きな何かを残して





来たときと同じように光と共に姿を消した。














5つの影が微かな月明かりの下円になっている。


「私はここに罠を仕掛けたよ。」


鋤を肩に担ぎ話すのは銀色の髪をふわふわなびかせる少年。


「では、私はここから進入しよう。」

「まて、それは私が行くべきだろう?!」

「何を言う!ここは、私、平滝夜叉丸の出番であろう!?」


二人の似たもの同士がいいあいを始めれば


「わわ!二人とも落ち着いてよ〜」


金色が間を持つように割り込む。


「じゃあ俺は見張りをしよう。」


我かんせずを決め込む黒髪の影


「二人とも〜とめてよ〜・・・」


かかわらない二人に助けを求める金色


「何かあったら鳥を飛ばすから。」

「・・・あれ?ちゃんって鳥、扱えたの?」

「竹谷先輩にいろいろ教わったんだ。」


彼は途中であきらめたように座り込む。


「だから、私がっ___」

「何を言う!私だと___」

「うるさい。」


二人の少年に鋤を振り下ろせば


「っ〜〜〜痛いじゃないか喜八郎!」

「っ〜〜〜痛いぞ!喜八郎!」

「二人とも。ここ、どこか解ってるだろうな?」


黙っていた黒髪も動き出して。


「う・・・悪かった。」

「・・・やっぱりここはお前に任せる。滝夜叉丸。」

「まかされよう。」


そうしてやっと決まった作戦にそっと目をかわす。


と、不意に現れる何者かの気配。


それにいち早く気づいた黒髪がそちらを見れば


月明かりに光る刃。


だが一瞬のうちにそれは地面に伏せていて。


「・・・ありがとうございます。タカ丸さん。」

「うん。どういたしまして!ちゃんが無事でよかったよ。」

「タカ丸さんも強くなりましたね。」

「ふふ、僕だって、学園でのんびり暮らしていたわけじゃないんだからね?」



再び視線を交わせばそこに見えるのは、覚悟。







「準備はいい?」

交わす視線は互いを見やる。

「もちろん」

不敵に笑う口元は鮮やか。

「作戦道理に」

体が離れようと、心は共に傍に。

「ではまた」

手を差し出しこぶしをぶつけて。

「「「「生きてこの場所で」」」」




暗闇に身を投じる。










目指すのは真の忍び

先行く彼らのように

今でもたやすく思い出せる

いつも我らを見守っていてくれたあの背中を

追いつくことが目標で

並ぶことが必要で

そのために教えを身に蓄えて

いつかは闇に身を投じる生き者であろうとも




きれいな黒髪を持っていたあのひとのように 気高く

何事にも手を抜かないあのひとのように 強く

物静かで多くを語らなかったあのひとのように 賢く

縦横無尽に走り回って太陽のようでいたあのひとのように 笑顔で

優しげな手つきで治療したあのひとのように 穏やかに

鋭い眼をもち後輩思いだったあのひとのように 優しく  
     
闇に映える白を好んだあのひとのように 冷静に

諭すように口を開いたあのひとのように 柔軟に

生あるものを心の底から思っていたあのひとのように 美しき心を

仮面をかぶり自らを隠し続けたあのひとのように 固い意志を      

すべてにおいて悩むことを尊んだあのひとのように 貪欲に




そんな 彼らのようになりたいと


なろうと、心に決めて


思いを胸に秘めて





世界を舞うように動く。




忍びである私たちは、主のために一生を支える。

でも、心は殺さない。

忍者としての欠陥の其れによって俺たちは生きていく。


それは彼の女から教わったもの。


自らが傷着けば悲しむ人が居る。


其れと同じように手をかけた人にも悲しむ相手が居る。


人を手にかけるということは、その人の全てを背負うこと。


それに気づかなければ何も感じない心を手に入れることができたのかもしれない。


でも、気づけたからこそ、手に入れたものも多くて



浮かぶのは幼い後輩たちの姿


無邪気で


生意気で


かわいくて


優しくて


まだ、汚れを知ることもない子たち



私たちはあの子たちにとって目標となれるだけの存在であれるのだろうか、あれたのだろうか。


何かを残せるのだろうか、残せたのだろうか



忍びとして成長していく私たちは

成長してきた私たちは

それでも貪欲に


生を望み


死を恐れ


人として、ここにいる





それは


いつかまた出会うであろう彼女のために


それは


様々なものを授けてくれた師のために


それは


どこかで出会う先行く彼らのために


それは


共に闘う大切な同志のために


それは


教えを請うた後輩たちのために


それは




己を求めてくれる愛する人たちのために




日々を生きる  生き抜く


後悔せぬように  悔いぬように




 そうして私たちは


         今日も宵の闇を駆ける
























※※※

これにて終幕!
2010年2月4日終焉







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