ドリーム小説
宵闇 四十七
「に1週間の謹慎を云い付けるっ!」
その日一日どこに行ってもその話題が耳についた。
がいない空間というのはなんだかおかしな感じで。
あの場所であの日、涙を流したあの子に、何があったのか。
『あの子はこの世界で一番不安定なんです。』
あの人の言葉の意味を、理解した。
今日での謹慎から6日目。
明日になれば今まで通り共に、過ごせる。
ざわり、何があったのか外が騒がしくなる。
もう授業が始まるというのに、どうしたのだろうか。
「雅さんっ!?」
遠く聞こえたその声に、教室中がざわめく。
隣にいた滝が立ち上がり、窓に駆け寄る。
でも、それらの騒ぎの様子を見ることはできなくて。
どうしようか
そう自分に問いかけたとき。
長屋のある方向を見てふいに一つまたたき。
何か、影が、走った。
一瞬背筋がぞっとした。
今、長屋にいるのはだけのはずだ。
その場所に、今授業が始まるこのときに、誰が向かう?
立ち上がり、窓の外に身を投げる。
滝の私を呼ぶ声も、クラスメイト達の驚いたような声も気にならない。
「っ、綾部先輩?」
降り立った先、黄緑色が視界の端に移ったが、それすら無視して走り出す。
今すぐにのところに行かなければいけないような気がして。
「雅さんっ!?」
消えた教室を探して放浪していれば不意に聞こえてきた叫び声。
大きなざわめき。
そして、この場所に降ってきた彼女の声。
向かおうかどうしようか、瞬時しているうちにそのざわめきは少しおさまり代わりに少しの殺気。
それは委員会の先輩のものによく似ていて。
ぞわり
体中に走る寒気
汗が流れる。
速くなる呼吸。
幾度か深呼吸することでなんとかそれらを収めて。
ふ、と目線をあげれば降ってきた紫。
一瞬先輩を思ったが、その人は今彼女を傷つけたということで謹慎中だ。
なので、違う。
「っ、綾部先輩?」
名前を言ったのに、気づかないはずがないだろうにこちらに一瞥もくれず。
彼は全力で長屋に向かって走り出した。
そっちには、今、先輩しかいないはずじゃ・・・?
そう思った瞬間体は意思を置いてきぼりに動きだして。
先ほどとは違う意味で速くなった鼓動を抑えるように胸に手を当てた。
言いつけられたそれは、一般人である雅を傷つけたというもの。
彼女の手には大きなあざが出来た。
その謹慎生活も今日で6日目を迎える。
あと1日だ。
厠以外の外出を禁止されたはたった一人、部屋にいた。
遠くに微かに感じる気配。
今は授業中か、喧騒など聞こえはしない。
感覚がマヒする。
こんな場所で、なにもせずにいると。
(・・・ゆっくり、だけど確実に、俺という存在が消えていっている。)
手を見れば、まだそこに手は存在していた。
けれども、どこかで感じていた。
静かなる喪失
確かなる消滅
それはもう遠いことではないのだろう。
部屋の中ぽつりと座り込み考える。
これからの身の振り方を。
ゆっくりと立ち上がり、襖を開ける。
微かな風が部屋に入ってくる。
開けたままで再び部屋の中に戻りごろりとその場に寝転がった。
そっと目を閉じる。
微かな風が体に触れる。
体が 空気に溶ける錯覚。
それにはっとして目を開けて、そこがまだ知っている場所だという認識に心底安心する。
このまま眠ってしまったら、もうこの世界にはいないのだろうか。
そんな恐怖により、はこの1週間眠ることが出来なかった。
「」
低い声
無い気配
懐かしい匂い
緩やかな雰囲気
懐かしきそれらに振り向いたそこには
「し、しょう・・・。」
4年ぶりの育て親がそこにいた。
ふらり、近づいて、彼の前にへたり、座り込んで。
懐かしい姿を、見上げる。
そして、その言葉は何も考えずにの口からこぼれ出た。
「 し し ょ う わ た し を こ こ か ら つ れ だ し て 」
※※※
喜八郎、三之助、視点
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