ドリーム小説










 宵闇 四十八  







  




『君の養い子が今忍術学園で謹慎処分を受けているよ。』


仕事がひと段落つき、次の仕事を探しているときだった。
仕事仲間であり、友人でもある利吉からその言葉を聞いたのは。




そうして利吉に連れられてあれよあれよとやってきた忍術学園。
その門の前でひとつ溜息を吐く。

「私は来るつもりなど無かったのですがねえ・・・。」

「4年まるまる会っていないだろ?こういうときぐらい会ってやってはどうだ?」

「そうはいってもねえ、利吉。私はあの子が卒業するまで会わないつもりだったのですが?今もそう思っています。」

「そんなこと言ってやるなよ彰義。13歳といってもまだまだ甘えたい年頃じゃないか。・・・女の子なら特にね。」

「んん〜?気づいていたのですね?」

「わかりますよ。さすがに、ね。・・・というよりも、彰義、君はばれないはずが無いとわかっていてやっただろう。」

「まあ、これも試練ですよ。」

「・・・君可哀想に・・・。」

「では、利吉。私は一足先に___」

「え、「入門表にサインお願いしま〜す!!」・・・小松田君。」




門の中から人の近づく気配がしたので逃げてみた。
利吉がつかまったようだ。

(まあ、ご愁傷さまだねえ。)

人事のように(実際人事だ。)その光景から目を逸らし、養い子である、の気配を探す。

(あの子の気配は独特だからねえ。)

「・・・おや?」

見つけたあの子の気配。

それとよく似たものがある。


(原因はこれでしょうかねえ?)


温厚なあの子が怒る事など、我を忘れることなど珍しいのだ。とても。

その原因はきっと___


(とりあえず、向いましょうか。)



中庭に複数の気配。

その方向に向かう。

肉眼で捉えたその気配の持ち主は、とてもかわいらしい女の子の姿をしていた。

その女の子の側には深緑の色身にまとった6人がいた。

「それじゃあ雅、わたしたちは授業に向うね。」

「頑張ってね!」

いくつかの言葉を笑顔で掛け合うと緑の少年たちはその場を離れていく。

と次いで目の端のほうに紺色に身を包んだ5人が現れる。


「「雅さ〜ん!」」

その5人は女の子の元に近づいてゆく。


「さて、と。」

まだある紺との距離。

緑とは離れていく。



ならば___


ひゅ、と風に紛れその子の背後に降り立つ。

その様子に、紺をまとった黒髪の少年の目が大きく見開かれる。


「雅さんっ!?」








授業が終わり、次の時間は先生の都合により自習になった。

それを利用して、私たち4人は中庭の掃除をしているであろう雅さんのもとへ向っていた。

遠くに見えた雅さんのそばには最上級生である、6年生の姿。

しかし彼らは、これから授業なのであろう、その場から立ち去るところであった。


「「雅さ〜ん!」」

そう彼女の名前を呼べば、返ってくる満面の笑み。

いつものことだがその笑みにどきりとさせられる。


彼女の元へと走っている最中。

ざわり

嫌な予感が背中を走る。

ゆらり

世界の気配が変わる感覚。


ぞくり


それは目の前の彼女から。



「雅さんっ!?」



一瞬のうちに現れた影は、彼女の首元に黒光する刃を押し当てていた。






「それじゃあ雅、わたしたちは授業に向うね。」

「頑張ってね!」


満面の笑みで送り出される。

そのことがどうしようもなく嬉しくてこちらまで笑みが浮かぶ。

今日の授業はあまり得意ではないものだったが、それでも彼女の笑みで頑張ろうと思えた。


「「雅さ〜ん!」」

後ろから聞こえてきたのは一学年下の後輩たちの声。

何の気なしに振り返ったそこには、微笑ましい光景。



それなのに

ぞくり

背筋が凍る感覚。

きしり

何かが歪む感じ

さわり

気配が、変わった。



「雅さんっ!?」

久々知の叫び声。

黒い影。

同時に雅さんの喉元に当てられた刃。


それを認識するよりも早く、わたしたちの体は動いていた。







「忍びの卵といえども、やはり忍びなのですねえ」


「雅、大丈夫か?」
「えと、はい、だいじょうぶ、で、す。」
「なら、よかった・・・。」

腕に雅を抱える留三郎。

そして彼女と黒い影の間には久々知、八佐ヱ門、雷蔵、勘右衛門の姿。

先程現れた黒い影の周りには仙蔵、伊作、文次郎、長次、小平太、そして三郎。

各自の手に握られるのは刃。


首元に刃が向けられているのにもかかわらず、のほほんとした雰囲気は上級生たちの警戒を仰ぐには十分で。


「貴様、何者だ。」

「何の用があってこの学園に入り込んだ。」

「会いに来たのですよ。愛しい愛しい養い子に、ね。」


仙蔵と文字郎の鋭い声がその場に響く。

それにやはりのほほんと返事が返される。

「養い子、だと?はっ、そんなこと信じられるかよ。」

「おやおや、信じていただけないようですねえ。」

「久々知、竹谷、先生を呼んでこい。」

「解りました!いくぞ!兵助!」

「ああ。」

文次郎の反論の声に少し沈んだ男の声。

留三郎が腕に雅を抱えたまま指示を出す。

それにすぐさま動き出す二人。



「けれどもまあ、忍者としては合格ですかね。」


「んなっ!?」

「「何!?」」

「しまった!!?」


その静かな声が当たりに響き渡った瞬間、その男の姿は掻き消えた。

キィン

だが、次の瞬間、すぐ後ろで聞こえた金属音。

皆が慌ててそれを見れば、そこには黒い影と対峙する二つの人影。


「・・・まったく、忍とは本当に厄介なものですねえ。」

そう言って男は肩をすくめた。


「いけいけ、どんどん。___この学園に入ったこと、後悔させてやるよ。」


   本能


深緑の暴君はゆらりゆれてそこにいた。





「この平穏を犯した罪、贖ってもらおうか。」


   才能


紺色は偽者の顔をにやりと深めた。























※※※
こへは暴君。だけど本能に忠実。
まさしく獣。

三郎は天才。
でも実はとても努力している。
1パーセントの才能と99パーセントの努力の人。
師匠。こっちのほうが出張ってるねえ。
ちなみに前話で4年生や三之助たちが利いていた声やら殺気はこの人たちのもの。







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