ドリーム小説
宵闇 四十九
「そこまで、だ。」
一瞬即発
まさしくその言葉が相応しいその場に響いたのは一つの声。
「「「「利吉さんっ?!」」」」
「・・・利吉。」
そこにいたのは利吉。
「彰義。頼むから面倒ごとを起こさないでくれ・・・。」
くたびれたように言われ仕方なく懐に構えていたくないから手を離す。
「おやおや。お疲れのようですねえ。」
「お前が疲れさせているんだが?」
「面倒に飛び込んでるつもりはありませんが、面倒が飛び込んでくるのは仕方がありませんよ。」
「時間差で返さないでくれ・・・。」
「・・・利吉さん・・・。」
戸惑ったような声に振り向けば声と同じく戸惑った子供たちがいた。
その姿は年相応で先程との違いに思わず苦笑がもれた。
「ああ。騒がしてすまないね。だがこの人はちゃんとしたこの学園の生徒の保護者だから。」
そう説明する利吉の後ろで彰義がふらり歩き出した。
「ああもう!彰義じっとしていてくれないか?」
「何故?私の用事はその子たちにはない。会わないと決めてはいたが、やはり此処まで来たなら会いたいのだよ。」
「せめて学園長に挨拶を・・・」
「必要はないよ。」
「どうしてだい?」
「だってあの子がこのようなことになった原因はわかったから、ね。」
そう言ってちらり、雅へと視線を向ける。
それに反応するようにその間に割り込むいくつもの影。
大切にされているその様子がとてもよく解る。
(・・・あの子もこうされるべきだったのかねえ・・・)
それでも今のあの子が彰義にとって大事なものに代わりはない。
「君たち。その子は大事にしてあげなよ。」
「え?」
「っ、あなたはもしかしてっ」
その言葉を遮るようにその場から立ち去った。
さわり
空気に身を投じて。
気配を殺して。
近づいて行ったそこにいたその子はいつかよりもずっとずっと存在感がなく、気配もなかった。
それにぞくりとした体を叱咤して、この子の名前を呼ぶ。
「。」
それに横たわっていた体を起こし
「し、しょう・・・。」
懐かしい呼び名で呼ぶ。
ふらり、私に近づいて、私の前にへたりこんで。
懐かしい瞳で、見上げる。
ふらり彼女は初めて私に縋った。
「 し し ょ う わ た し を こ こ か ら つ れ だ し て 」
その言葉に私はためらうことなくうなずきその手を握り体を抱き上げた。
早く早く早く
急く体をさらに急かして。
そうしてようやっと見えた長屋の部屋。
そしてあと少しでその場所に着くという瞬間に、の部屋からは一つの黒い影が去っていくのが見えて。
「先輩っ!?」
後ろから聞こえた次屋の声にその黒い影は一度だけこちらを見て。
それに無意識に声が漏れた。
「っ!彰義、さんっ!」
を連れていったのはあの子の保護者。
それ故に追いかけてもいいものか一瞬迷って、その隙に次屋が二人を追いかけだす。
でも、それは黒い影である彰義がはなった刃の数々に阻まれて。
「先輩っつ!!」
大声で叫ぶ次屋の声をただ茫然と聞いていた。
後ろから聞こえた滝や三木、タカ丸さんたちの声すら遠くて。
名前を呼んだのに彼女は一度もこちらを見ることがなかった。
それがとてつもなく大きな衝撃となって私に襲いかかった。
綾部先輩についていけば見えた先、黒い影に連れて行かれる先輩の姿。
背筋がぞっとした。
また、あの人は、連れて行かれてしまう?
また、あの人は、姿を消してしまう?
「先輩っ?!」
名前を呼んでなぜかとまった綾部先輩をおいて黒い影を追いかける。
でもそれは投げられた多くの刃によって遮られた。
「先輩っつ!!」
そうして見えなくなってしまった二人の姿に、悔しさがこみ上げる。
どうして、俺は、こんなにも弱い?
大切な先輩を守ることもできず
後ろから聞こえた滝夜叉丸の声に振り向けば驚いたような顔がそこにあって。
「三之助、遅くなってしまって、すまない。」
綾部先輩のそばへと向かう際に俺の頭を一つなでて。
いつもであれば追い払うそれも、なぜかそんな気が起きなくて。
ただただ、力なき自分を、責めた。
窓から走って行った喜八郎を追って、長屋へと向かえば遠く、先での部屋から出て行った一つの影。
その黒い影には抱えられていて。
以前の誘拐騒ぎが頭をよぎった。
そして喜八郎が全力でのもとに向かったというのになぜか茫然とそれを見送っていたことにも驚いた。
けれども一番驚いたのは何故か居た三之助が振り向いた、その表情。
置いて行かれたさまよい子のような瞳で力なき自分を責めていた。
そんな顔を見たのは初めてで、驚きのままその頭をなでてやる。
いつもであれば追い払われるそれなのに、それすらなかったということはそういうことで。
後ろから少し遅れてやってきた三木とタカ丸さんに先生方を呼んできてもらうように頼んで喜八郎のもとへと歩み寄った。
そうしてやってきた先生方と共にいた利吉さんの証言によって怪しい人物はの保護者ということが証明されて。
そしてそれに茫然とした。
なあ、なあ、。
お前は、また置いていってしまうのか?
これほどまでに傷ついた友人を。
私たちを。
なあ、___
おいてかないで。
その言葉は届くはずもないというのに。
back/
next
戻る