ドリーム小説
宵闇 五十
が学園から姿を消した。
それも謹慎がとけきらぬころに。
それは、謹慎の話なんかよりもずっと早く学園中に広がって。
そうしてあるものはの姿を求め探し回り、
あるものは雅さんを傷つけたくせにと怒り、
あるものは彼女の身を案じて泣いた。
、お前は今どこにいる?
空は憎らしいほどに晴れ渡っている。
それはまるで私たちを笑っているみたいで。
利吉さんに聞いた、の師匠だという男性のことを。
それがあの時雅のそばに舞い降りた男性のことだということを。
私たち、上級生がいたにもかかわらず、彼は難なく私たちのそばに降り立ち、そして消えた。
その差に唖然として悔しさがこみ上げた。
そうして、知ったが姿を消したということを。
いつもの放課後。
委員会の時間。
後輩である庄左衛門も彦四郎もどこかしょんぼりとした雰囲気を全身から出していて。
もともとあの謹慎騒ぎによってまいっていたところにこの騒ぎだ。
よっぽどだろう。
「先輩、どこに行かれたんだろう・・・」
「三郎先輩を止めるのは僕たちには荷が重いのに・・・。」
・・・聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ、おい。
座り込んでいる二人のそばで私も座り込む。
私よりもずっと小さな頭をわしゃわしゃと撫でてやればそっと俯く二人。
「せん、ぱい・・・」
「どうした?庄。」
「先輩、帰ってきますよね・・・?」
「ああ。」
何処に行った?ではなくて帰ってくる?その疑問は無意識に本当の答えを聞きたくないからで。
「はちょっと気分転換で出かけてるんだ。」
「あのだ。お前らを置いて消えるわけがないだろう?」
「ずっと1週間部屋に閉じこもっていていやになっただけだよ。」
まるで自分に言い聞かすかのようだ。
雅さんとの間に起こったことは私も一部始終を見ていたから知っている。
常のとは違うその様子は私の記憶に鮮明に残っている。
ぎゅう、といつもではありえないほどに正直に抱きついてきた二人を同じように抱き返してやる。
なあ、早く帰ってきてくれよ。
こいつらをこれ以上悲しませないでくれ。
そして、そして、頼むから、
私のことを置いていかないで
に何があったのか。
あの日彼女に掴みかかったの姿が頭から離れない。
『あなたのせいでっ、俺、はっ、わたしは___っ』
あの後に続く言葉が、なんとなく予想できて。
でも、そんなはずはないとその考えを打ち消して。
そばにいた文次郎も、ただただ驚いていて。
そしてそんなが姿を消したのだという。
それも私たちが対峙したあの黒い男性によって。
歴然とした差を見せつけられた、あの時に、はその人と共に姿を消して。
どうして、姿を消したのか。
それはの意思なのか、
彼の人の意思なのか。
その答えはわからない。
ただ、喜八郎が茫然とその場所に立ち尽くしていたことが印象的で。
「なあ、仙ちゃん。は何処に行ったんだろうな。」
いつの間にか部屋に入ってきていた小平太はそう呟いて私にもたれてくる。
「・・・さあ、な。」
答えなど求めてはいないのだろう。
それにそう返事を返して。
「私はこれから委員会に行く。小平太、お前もだろう?」
そのふぁさふぁさの髪を一つなでて立ち上がる。
「大丈夫だ。あいつは帰ってくる。後輩好きのあいつが後輩たちに何も言わずに消えるはずがないだろう?」
そうであってほしいと、願う。
述べた言葉ににかりとわらって小平太はいつもの掛け声をあげて部屋を出て行った。
ちゃんが、また、いなくなっちゃって。
さらわれるのかと思った、あの人はちゃんの保護者の人で。
そしてちゃんはその人に連れて行かれたらしい。
どうしよう、どうしようって、頭がぐるぐるして部屋の中でギュッと目をつぶった。
ちゃんにつけられた手のあざは1週間という期間によってほぼみえなくなっていたけれども。
どうしてどうしてどうして
彼女の悲痛な声が耳に響く。
『あなたのせいでっ、俺、はっ、わたしは___っ』
掴まれた手。
それが微かに揺らいで、一瞬私の手を透かして見せて。
その瞬間、私は私の考えが間違っていないことに気づいて。
、この人も、私と同じ世界の人だということ。
痛みとかそんなのよりも、その事実がうれしくて。
だからこそ、その手が透けているということは帰れるのだという希望でしかなくて。
彼女の心など考えなかった。
消えた彼女は本当にあの人に連れて行かれただけなの?
本当に、帰ってしまったのじゃないの?
不安というよりも、恐怖。
私だけが置いて行かれたんじゃないかという、恐怖。
彼女の身を案じるよりも先に、
どうして私を返してくれないの、と思う自分がいた。
そんな学園に、文が届けられたのは、彼女が姿を消した二日後だった。
※※※
誰も探しに行かないんじゃなくて、いけない。
を連れて行ったのは彼女の保護者だから。
だからこそ、誰にも連れ戻す権利など、ない。
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