ドリーム小説
宵闇 五十一
後ろから喜八郎や三之助の声が聞こえた気がするけれど、それを見るのすら億劫で。
学園から離れた場所で、一夜を明かすための準備をする。
その間にも手は透ける回数を増していて。
それどころか、手だけじゃなくて腕にまで回っていて。
背筋がぞくりと危険を告げるように震える。
「。」
名前を呼ばれ見上げればそこには師匠。
なんですか、と声をかけようとした瞬間先に声を出されて。
「帰ってしまうのですね。」
その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
でも師匠のその優しい眼に、宿った光に、この人はすべてを知っているのだと気づいて。
こくん、一つうなずくことで返す。
それに師匠はとてもとても温かな笑みを浮かべた。
「引き止めることはしません。これはあなたのことですから。」
そのつきはなしたような言い方に傷つくことはなく、ただ、安心した。
がいなくなっても、この人はこの世界で生きているのだと感じられるから。
「師匠、お願いがあります。」
「なんですか?」
「聞いてくれるんですか?珍しい。」
「最後なのでしょう?なら特別大サービスですよ。」
「私が師匠と初めて会った場所に行きたいです。」
それを予想していたかのように師匠は笑ってうなずいた。
「では明日連れて行ってあげますよ。今日はおとなしくお眠りなさい。」
その言葉と同時に目を大きな手のひらで隠されればいとも簡単に眠りは訪れて。
ずっと怖くて眠ることのできなかったのが嘘みたいにすとんとの意識は闇にのまれた。
「おやすみ、私の大事な娘___」
師匠の言葉は耳に入らなかった。
野営の準備をしていればが手のひらを見て青ざめていて。
微かにそれが揺らぎ、その向こうの地面が見えた時、すべてを悟った。
この子はあの世界に帰るのだろう。
だからこそ、名前を呼び、真実を求めた。
うなずいたそれに笑ってやればこわばっていた顔がゆるんだのがみえて。
最後の願い、そう口にした瞬間痛んだ胸にまだそう思える心が残っていたことに笑えた。
いや、それはこの子からもらったものでもあるのだろう。
ひどい隈のできた目を手のひらで覆ってやれば数分もしないうちに聞こえてくる寝息。
ああ、
願いをかなえよう。
お前が望むのならば。
「おやすみ、私の大事な娘___」
そうして私は自らの飼っている忍鳥に文を持たせて飛ばした。
この子をこの世界に縛り付けてくれるはずだったものたちのところへ。
※※※
本編とは違ってこの世界への依存が小さすぎた感じですかねえ。
みんながまだ雅さんにべったり、かな?
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