ドリーム小説
宵闇 五十二
「懐かしい、ですね」
「覚えてるのですか?」
「微かに、ですけれども。」
緑多き森の中。
そこは初めてが師匠と出会った場所。
小さな体でどうしようもなく途方に暮れていればやってきたその人は、をこの世界で存続する許可をくれたようだった。
ふわり流れる風がまるで夢の中のようで。
最近起こっていた様々なことがもう遠い昔のように感じて。
騒がしかったあの場所は、いつもと変わらないんだろう。
この世界に来てしまったあの人は、この世界でどうにかして生きていくのだろう。
彼女に居場所を取られたと思ったあの日から考えは変化して。
彼女の代わりにはあの世界に帰れるのだと思うようになって。
手をまぶしい太陽にかざす。
そうすれば太陽がさらに手のあいまいさを際立たせて。
「師匠。私が消えるところ、できたら見てほしくないです。」
最後のお願い、そう言って師匠に言えばふわりやっぱり師匠はきれいに笑ってうなずいた。
「それでは私は行くよ。。」
くるりさっていく師匠を見たくなくて、彼に背を向けて。
自分で頼んだくせに行かないでと言いたくなる自分をこらえて。
ぎゅっと目をつむって、溢れそうになるそれをこらえた。
なのに
不意に体に回ったぬくもりに、温かい腕に
不覚にも涙がこぼれおちて。
「。つらくなったらいつでも戻っておいで。私はお前を待っているよ。・・・・大切な大切な、愛しい私の娘。」
耳元でささやかれたそれと同時に体から熱は離れて。
その場に支えがなくなったようには崩れ落ちた。
「っ、ありがとう、ございました、っ、とう、さんっ・・・」
あふれ出る涙をこらえられず嗚咽を漏らす。
大好きでした。
感謝しています。
伝えたい言葉を何一つ口に出せず。
痛む胸を感覚のない手で握り締める。
手、腕、体すべてが透けて見えるのは錯覚ではなくて。
消えていく私を
誰が止めることなどできましょうか。
「っ!!!」
その叫び声に振り向けば大好きな大切な友人や後輩、先輩たち。
無意識に漏れた笑み。
ゆらり、体が光りだした。
それに一番前にいた喜八郎が驚いた顔をしてそうしてこちらに走ってくるのが見えた。
きえる
みんながの名前を呼んで。
きえる
彼女が泣き崩れるように叫んで。
きえる
彼が手を伸ばすのが見えた。
きえる
でも、もう、遅い。
わたしが、きえる
ひときわまぶしく光った自分の体に、
焦ったような彼の顔に、
涙があふれるのをそのままに、
必死で笑った。
「 」
ありったけの感謝と愛情をこめて
___ありがとう、だいすきだった、よ___
そうして 世界は光に包まれた。
back/
next
戻る