ドリーム小説








 宵闇 五十四  
















「___っ」


っ、!!」




頭の中で声が響く。

お願いだから呼ばないで私の名前を。

お願いだから___






眠たい、私のことはほおっておいて。

そう呟いて再び布団に潜り込もうとすればあっけなくその布団は引っぺがされて。




っ!遅刻するわよ起きなさい!」


耳元で叫ばれたそれにあわててとび起きて、その声の主を見る。

「・・・母さん・・・」

彼女の呼び名をつぶやけばさっさと朝ご飯を食べてといわれて。

眠たい体を引きづって着替える。




朝ご飯を食べて、かばんを持って家を出て。


そうして向かう学校の途中。


「・・・なんだ?」


何かが足りない錯覚に陥る。

でも、それはすぐさま朝もやとともに消え去って。





ほろり






無意識にこぼれた涙をただ手でぬぐった。
























「きいて!昨日駅前の___」

「みた?昨日のテレビ___」


学校について聞こえてくる他愛ないおしゃべり。

それらはなぜか新鮮に聞こえて。


ぼっとそれらに耳を傾けていれば思い切り飛びつかれる感覚。


っ!はよっ!」

「っ、・・・おはよ・・・」

痛みをこらえて返事を返し名を呼ぶ。


「今日、お菓子作ったんだ!味、見て?」

「ちゃんとたべれる・・・?」

「味見はしてないけど、保証はする!大丈夫。私の家の病院のベット今開き多いから。」

「え、保証ってそっちの?入院すること前提?」

そんな他愛ない会話。


いつも、のはずの会話。


「そういえば、まだ見つからないみたいだねえ・・・」

「え、なにが?」



そんな中、彼女からもたらされた言葉に頭絵を鈍器で殴られたような感覚に陥った。



「ほら、隣のクラスの彼女、まだ行方不明のままなんだってさ。」


どくん


胸が鳴った。


「な、んて、なまえ、だっけ・・・?」


聞くべきではないとどこかで聞こえる声を無視して問いかける。


「確か、名前は___」



             『私は藤堂雅っていいます』



「藤堂、雅だったっけな?」



聞くべきではなかった。


そう思ったのは無意識。




それと同時に頭に記憶が流れ込む




知らない景色


知らない名前


知らない世界


っ!』



知らない、声




し ら な い ひ と




ぐらり世界が回って倒れこんだ私を、目の前の彼女が驚いた顔で見ていた。
























目覚めればそこは真っ白な天井。

薬品っぽい臭いからそこが保健室だということがわかった。

くらり、頭にまた知らない映像。

         
             茶色い天井、薬品のにおい、深緑色の___


「起きた?さん?」

         

           『起きた?。』

 


ふわり優しい笑みを向けてくる保険医にすら記憶が揺らされる。





「は、い・・・」


痛む頭をこらえて告げればふわり微笑んだ彼女。

それを眼の端でとらえながら時計を見れば

「学校、もう終わってます、ね・・・」

「そうねえ、さん、よく寝ていたから起こすのもどうかと思ってね。たぶん寝不足だったのだと思うけれど・・・まだどこか痛む?」

それに首を振って。

すでに放課後といえる時刻にため息をつく。

そうして帰ろうと立ち上がればあわてて彼女が声をかけてきて。

「大丈夫?帰れなかったら家まで送るわよ?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」



そう返して保健室を、学校を出る。


紅い夕日。


頭に浮かぶ紅いなにか。


絶え間なく続く鈍痛。


でも、耐えられないほどではなくて。


早く家に帰って、今日はやく眠ろう。




帰れば母さんは仕事からまだ帰ってなくて。


あれだけ眠ったのにとれない痛みにもう少し横になろうと畳に横たわる。


   『ちゃん、髪結わして?』



また、何かの映像が頭をよぎって。



思い出すべき?
出すべきではない?

それもわからなくて、目を閉じた


そうすれば意識は簡単に闇にのまれた。




畳の部屋

銀色の髪ふわふわとそれが波打って。

その人が肩を揺らすのが見て取れた。

静かに、その人は俯いていて。


その背中は、さみしくて。


意味もわからずに、苦しくなる。



「__っ」


何かつぶやかれた声。


それは確かに、確かに


__


わたしのなまえ






なんで?

   

どうして?

   

そこはどこ?

    

きみはだれ?

    

なんでわたしのなまえをよぶの?

   

君はどうして ないているの?





ぱん





頭の中で何かがあふれはじけ飛ぶ



紫色の装束。

水色青色黄緑紫蒼深緑黒

学園

忍術

忍者



委員会

鍛練

作法

図書

仮面


溢れる声は

    やさしい、こえ

その場所は

    あたたかいばしょ

そこいいる人たちは

    たいせつなひとたち

そこにあるのは


    えがおえがおえがお



記憶の濁流に飲み込まれる。

大切な友人後輩先輩師匠

忘れていた

なぜ

忘れていたられた?
   
あんなにも大切な人たちを

あんなにも大事な場所を


紫色の装束がひらり視界の端で揺れる


立ち上がった紫に手を伸ばす。


泣いている、泣いている、大切な友が泣いている。


     ないているきみがないているいかなきゃきみのもとへいかなきゃ


大切なあの場所に戻らなきゃ。




「っ、きはちろおっ!!!!!!」
















伸ばした手は今度こそ君に届くだろうか






















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