ドリーム小説







宵闇 喜八郎2















「喜八郎くん。僕は確かに感謝していますよ、君に。」

ふわりふわり笑うくせにその顔はどことなくうすら寒い何かを感じさせる。

「ですがそれとこれとは別です。に手を出すことはまだ、許可してません。覚えておいてくださいね。」









むしゃくしゃする。

最近の自分を一言で表すとしたらこれである。

が無事に完治して授業もしっかりと参加して、いままで道理の日常が戻ったはずなのに。

今までと違うことがいくつか上がるようになった。

一番違うことといえば、が放課後や夜鍛錬に明け暮れるようになって共に入れる時間がぐんと減った。

私よりも先輩たちといる時間がぐんと増えた。



とてもむしゃくしゃする


が私や滝と一緒にいないのが。

が一緒に歩いてるのに前に先輩を見つけて駆け寄っていくのが

が足りないものを技術で、努力で補おうとするその姿が


この気持ちがどういうものなのかというのはわかっているけど、

どうすればこの気持ちがなくなるのかは分からなくて。


いつもであれば落ち着く蛸壷の中なのに、ぐるぐると考えるのはのこと。


あの日、だれよりも自分を責めたであろう彼女は

二度と、が起こらないようにと日々努力をしていて。


頼るということをしない彼女は

私という存在にも頼ってくれはしない。


それが先輩たちとの差だというのが悔しくて。


先ほどまで聞こえていた金属音はいつの間にか消えていた

それは鍛練終了の合図。

深く潜っていた蛸壷から体を出してふわり着地

すぐに向かうはのもと。


鍛練の時間は許してあげるけど、それ以外の時間は許さない。


私と一緒にいてくれなきゃ。







の手を引っ張って先輩たちの中から連れ出して。

そうして一緒に蛸壷に誘えば現れた知っている気配。


「師匠!」

の嬉しげな声

せっかくのとの時間を邪魔しないでほしい。

そうは思うけれど言いはしない。

この人相手ならなおさら。


「今日は少し喜八郎君にお話があったのですよ。」



そう言ってを追いやって、話し出した内容はなんというか、何とも言えない内容だった。

その言葉はつまり、手を出すのは許さないよ、ということで。

以前はが卒業するまで姿を現すつもりがなかったと言っていたこの人は『 彼女 』のことがあってからは頻繁にこの学園に姿を現すようになった。



なんというか一番の障害は一つ下の黄緑でも一つ上の蒼色でもなくあの人ではないだろうか。






















師匠に連れて行かれた喜八郎を待っていれば新たな気配。

見ればふわりいいにおいをまとって現れた桃色。

彼女は麗しき表情に笑みを浮かべひとつ頭を下げた。

そうしてをまっすぐと見つめて口を開いた。


「少しお話よろしいですか?」

それにこくりと頷けば女であるですらうっとりとするような笑みを浮かべた。

「すごいのですね。」

「ええ、と?」

「女の身でありながら男として学び励んでいる。」

「私には決してできないことです。」

「それに関してはとても尊敬します。」

ふわり今まで縁でいた表情が一転、無表情なものに変わり果てた。

ぞくり背筋が音を立てた。

「ですが、私個人の意見で言えば、あなたはとてもずるい」

まっすぐにをみつめて述べられる言葉達。

「女として必要な知識を得ることをしなかったあなたにいつか報いはやってきます。」

それは厳しいようでとても簡単なことで。

「そしてあなたはあの人のそばにずっといる。」

きっと鋭い視線が向けられてたじろぐ。

「私は学ぶところが違うからあの人と共にいる時間は限られる。」

あまりの瞳の鋭さに声が出せない。

「私は忍たまじゃないからあの人とずっとに一緒にいることなんてできない。」

胸の前で握り合わさった手が強く握り締められているのが見えた。

「だからあなたはずるい」

その瞳の奥に宿っているのは なに ?

きらりきらり

鋭いそれは瞳の奥の炎は、始めてみるもので

それは人を引き付けるほど美しい


「羨ましい、わ。」


痛みをこらえるような顔はそれでいて美しい

「あの、人・・・?」

微かに影を帯びた瞳。

それがふわあり今までの中で一番美しく微笑んだ。


さん」

鈴のような声は柔らかく心を溶かすよう

「私は」

でも

「有園結縁は」


その言葉は心に深い闇を作り上げるものだった


「綾部喜八郎さんが大好きなのです」

「・・・え?」


突然発せられた言葉は思いもしないもので。


「あなたがどんなに喜八郎さんに好かれていようと」

「あの人を思う気持ちはあなたに負ける気がしません」




「負けません」







その宣戦布告は嵐のようにやってきた



胸に鈍い痛みをもたらして












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