ドリーム小説
宵闇 喜八郎3
ぼんやりと月夜を眺めて先ほどの言葉の意味を考える。
有園結縁
それはあの襲撃時に喜八郎と共に罠を仕掛けた女の子。
守ってあげたくなるような
それでいて意志の強い女の子
を尊敬していると言いながら、ずるいと言った。
男として学んできたをずるいと言った。
あの人のそばにいられるのが羨ましいと、告げた。
そして同時にが女としての知識を得ていないことへの危機感をも口にして。
「山本先生に相談してみよう・・・」
わからない胸の痛みと喜八郎のことを端に追いやって今はもうひとつの方へと意識を向けた。
つきんと痛んだ胸の意味が、まだわからないから。
「、湯冷めするぞ。」
ほてほてと濡れた髪をぬぐいながら現れたのは滝夜叉丸。
そのままの後ろに座り、の濡れた髪を手ぬぐいで拭く。
「ありがとう。ねえ滝。」
ん?という軽い返事を受け流し話しかける。
「ずるいと、言われたよ。」
頭の中に何度も響くあの人の声。
自分の中で消化するにはいささか大きすぎるので信頼できる相談相手である滝夜叉丸に
「誰にだ?」
髪をぬぐう手を止めぬまま問う。
「有園結縁さん」
「くのいちの?」
「うん。」
「なんで、また・・・」
呆れたような声は誰に向けたものなのか
「女の身でありながら男として学んでいることが。」
自身が受け止めたのはそう言うこと。
「・・・彼女の思い人とずっと一緒にいることが。」
名前を出すことはしなかったけれども頭に浮かぶ喜八郎の顔。
自分にとって誰よりも大事な友人
大切な仲間
かけがえのない、人
「成程な・・・」
納得したような滝夜叉丸に顔を向ける。
「彼女の言っていることはたしかに的を得ているかもしれない。」
苦笑した笑みは最近滝夜叉丸の標準装備のようになってきている。
「だが、学ぶことに関してはくのいちとしての技術を手に入れていないからしたらどっちもどっちのような気がする。」
「思い人、はたぶんあいつなんだろうが・・・これも仕方がないだろう。」
そこまで言って滝夜叉丸は少し考えるように視線をさまよわせた。
そして言った。
「ちなみに、お前はどう思った?思い人の話された時。」
「滝」
にょ、とあらわれた第三者。
それはにべたりと張り付いて。
頭に浮かんだ結縁の顔。
「っ、喜八郎、」
咄嗟に思い切り喜八郎をひっぺがしていた。
「・・・?」
「?」
驚いたような気配が二つ。
それは言わずもがな滝夜叉丸と喜八郎のもの。
常であった接触をが拒否したことが、あり得ないとでもいうように。
「ごめん、疲れたから先寝るな?おやすみ。」
早口でそれだけ告げては部屋の中に入った。
襖を閉めた瞬間ずるり体が崩れ落ちる。
いつも触れられるから慣れていたはずなのに
なんてことそしてしまったのだ
なんてことに気がついてしまったんだ
喜八郎は大事な友人で大切な仲間で
なのに、なのに
彼女があんなことを言うから、喜八郎を、男の子として意識してしまった。
触れられた瞬間他との違いに気がついてしまった
きはちろう
口に出さずに心で思っただけで、顔が赤くなった
でも、でも
あの人に勝てるはずなどない
だって喜八郎はを友人として見ていて
を仲間として見ていて
女の子としてなど見てはいない
彼女に勝てるはずなどない
「気がついた瞬間に失恋した気分だ」
月明かりだけのその部屋に小さなつぶやきが落ちた
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