ドリーム小説
宵闇 喜八郎7
休日
「ちょっと出掛けてくる。」
そう言って喜八郎は学園を出て行った。
行く先も告げず、誰と、とも言わず。
構いわしないのだけれども、今日は珍しく鍛練をやめてゆっくりとしようとしていたから喜八郎がいないのに拍子抜け。
そして、
「ふふ、嬉しいなあ。今日は朝からこんなにきれいな髪を二人も触れたんだから。」
髪を梳いてくれるタカ丸のその言葉に胸がはねた。
「ふたり、ですか?」
恐る恐る問いかけたそれにタカ丸はふにゃふにゃとした笑みをさらに緩ませ言った。
「うん!ちゃんとくのいち教室の結縁ちゃん」
胸に大きな重しが乗ったような気分になった。
髪をとかしてもらったのに何をするでもなくぼお、っと縁側に腰掛けて日向ぼっこをする。
滝夜叉丸と三木エ門は委員会。
タカ丸は一年は組の補修に参加中。
やっぱり鍛練でもしようかなと思っていればがさりがさり揺れた木。
何事かと思うが何の殺気もなく、どころか良く知る気配に声をかけた。
「何してんだ?三之助。」
それにひょこりと顔を出したのは思った通り三年の無自覚方向音痴だった。
「先輩こそ何してんすか?」
木から下りてきての横に腰かけてひょいと顔をのぞきこまれる。
「日向ぼっこ。」
そう告げれば先輩幾つですかと乾いたため息。
「三之助は?」
滝夜叉丸が委員会といったから迷子中だろうと思いはしたがあえて尋ねれば案の定。
「先輩たちが迷子になりました。」
とのお言葉。
本当に無自覚なそれに笑えば三之助も微かに笑った。
「久しぶりに先輩が笑ったの見ました。」
「・・・へ?」
「最近元気なさそうでしたから、何かあったのかと。」
「でも笑えるなら大丈夫ですね。」
そう言ってそのままごろりと廊下に寝転ぶ三之助。
三之助にもそんなことを思われていたのかとなんだか申し訳なる。
「ごめんな、ありがとう。」
そう言えば別にいいっすよ〜という返事。
それに再び笑ってころん、と同じように寝転んだ。
横の三之助がぴしりと一瞬固まった気がしたが気にしない。
「・・・先輩。簡単にそう言う風にしない方がいいですよ。」
むくりと起き上がった三之助が上から見下ろしてきて言う。
「何が?」
何のことかと問えば、あっちこっちと視線をさまよわせて。
「こういうことっすよ。」
「っ、」
ぐい、と目と鼻の先まで顔を近づけた。
「さ、んの、すけ、」
驚いて名を呼べばくしゃり困ったように笑う。
そしてすぐさま体を離して言った。
「好きな人の前だけにしといてくださいよ。」
先ほどまでの木の上にあがってそんな一言を投げかけて三之助はさって行った。
(裏山とは正反対だが。)
『 好きな人の前だけにしといてくださいよ。』
頼むから今そんな話題を出さないでほしかった。
忘れていたのに脳裏に二人で出掛ける喜八郎たちの姿が浮かんで大きなため息をついた。
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